第13話

文字数 493文字

珍保がアルバイト出来ないふた月の間、花は休日の度に珍保のもとを訪れた。
珍保の元妻も遠くから心配したが、彼女にはスタッドレスを履く金も、この山里まで2時間半掛けてやって来る暇もなかった。
珍保はしかし、満足していた。
珍保のお世話に夢中な花。
珍保は若い頃の元妻を思い出していた。
珍保に促され、花は「フランスへ行く」の執筆も始めていた。
珍保を立て、珍保の作品を手伝う合間に少しずつ。
珍保にめちゃめちゃにかき回され、頭が真っ白になる事もあったが、花にはそれも刺戟的だった。
珍保は元気で、その頭のかたさを存分に花にぶつけた。
珍保が傘を開き、花は濡れて珍保を支えた日。
珍保が頑な、って、ぶつかり合った夜。
珍保が干しいも、う、すぐに食べたいってわがまま言った朝。
珍保は頻繁に立つようになった。
珍保は漲っていた。
花の助けを得て、やたらめったら賞に応募した。
その間の生活費やら様々な負担で花の貯蓄は底をついた。
無我夢中だった花。
珍保の痛みが和らぐ頃、安堵と少しの後悔の中に居た。
先生、今夜からアルバイトだって。
お手伝いありがとう、もう大丈夫だよ、って。
良かった。
あれ、でも、わたしたち、チューもしてないぞ。

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