絵がうまくなると美女の手で割と興奮しますよ、現実問題
文字数 3,153文字
「人間という生き物は自分の理解の及ぶ範囲でしか活動できない。知らないものは知らないし、理解できないものは理解できない。シンプルな絵柄が好きな人に描き込みの細かい絵の良さはわからないし、その逆もまたしかり。何か自分の考えに疑いを持つとして、疑ってかかるであろう反論を自分の頭の中に作り出す。
しかしその論敵はすごい勢いで弱くなっていき、最終的に自分の考えや認識が勝ってしまう。人間は自分の考えている以上のことはできないし思いつかない。なぜなら自分は自分だから。そう考えているうちに私は、自分が生きている世界は、自分の考えの中だけに作り出されている空想の世界と大差ないな、と結論付けるのだった。別に誰かの妄想や空想を否定するつもりはないし、そういったものが面白い映画を作り出してくれるので推奨すらしている。ところが自分がイメージできる以上のことはできないという話は思った以上に深刻だった」
唯は目を覚まして簡素な食事をとって会社へと赴くのだった。
と思ったら、玄関を出てすぐ目の前に、軽く5000兆円はあるであろう札束が放置されていたのだった。
唯は誘惑に若干強いのか、それとも目の前の現実があまりに強烈すぎて受け入れられないのか、財宝の山をスルーする。
こういう現実的な考えのもと。仕事に行こうと思って、電車に乗ろうとする。
ところが、電車はは走っておらず、それどころか街には誰もいなかった。
もしかしたらと思って唯はスマホを開いてカレンダーを確認した。
そこには赤い文字、つまりは日曜日の日付以外に日付はなく、バケーションが無限に続く世界が完成していた。
ふと空を見上げると、プテラノドンがビルの屋上に巣を作って、その隣でドラゴンが卵を育てていた。
そうしてしばらく車掌さんを待っているうちに、目の前の光景が頭ワンダーランドなのを受け入れざるを得なくなってくる。
さっき仕事に行こうとしていた中年のサラリーマンは5人組の幼女に襲われて拉致されていくし、通りがかった少年Aは黙々とコンビニで遊戯王カードの開封をしていた。
以前、人間がVRの世界に入ったらどんなことをするのか実験したデーターがあるのを思い出した。
ある人は困っている人を助けようとするし、ある人は卑猥なことを延々と行うと言われていたが、まあ、そんな感じの世界が唯の目の前に広がってしまった。
知らんが、幼女に拉致されているサラリーマンは30歳を軽く超えているだろうな。
人間、真に少女に誘拐されるロリコンになるためには、ある程度の年齢が必要になってくると筆者は確信している。
30歳に近づくにつれて少女の良さがだんだんと分かってきちゃいましてね。
唯が世界のどこを見渡しても、現実ではありえないような光景がどこまでも広がっていた。
そのありえない世界の中心で呆然と立ち尽くしていると、LINEに着信が入った。
それは同僚の皐からのメッセージだった。
夢の世界へ足を踏み入れても現実を直視し続ける人間の弱さが露呈しましたね。
完
オートロック式のエレベーターがカードキーがないので使えなかったため、徒歩で階段を上がって3階へ。
唯は302号室までやってきた。
ノックをする。
長い間で2回、短い間で3回。
こん、こん、こんこんこん。
ほんの30秒ほどで鍵は開く、扉も開く。
唯は自分が何を言っているのか分かっているのだろうか?
ある意味、一切忖度をしないスタイルなのか、さっきから地雷を踏みぬき続けている。
唯が人の精神を獲得するに至る日は訪れるのか、今の段階ではわからない。