発展してる東京駅周辺から500メートル北にいくと神田というスラム街
文字数 2,970文字
日曜日になった。
唯は目を覚まして、簡単な朝食を済ませて、今日一日何をしようか考えた。
そう思って唯はベッドに深く潜るのだった。
体の意識がどんどんショートしていき、やがて唯は浅い眠りに入っていくのだった。
気が付いたら唯は遊園地にいた。
地方にありそうな、あまり流行っていない遊園地だ。
ジェットコースターはすぐに終わりそうで乗る気にならない、そして3つのジェットコースターとお洒落なカフェしかない、そんなあまりにも退屈な遊園地だった。
すまねえ、こういう編成の遊園地が筆者の家の近くにあるんだが、まるで行く気にならない……正直言って、あまり流行っていない遊園地なのを素で認めざるを得ない。
その遊園地にあるカフェにピッピーが座っていて、スコーンとケーキを食べているのが見えた。
唯はピッピーに近づいていく。
しかし、どんなに近づこうとしてもピッピーとの距離は縮まらないのだった。
しばらく歩いてこれ以上は無駄だな、と思ったとき、ピッピーは唯のほうを向いた。
どうやら、唯はピッピーが作り出す理想の世界から追放されるようだった。
いきなり何が起きたのか普通の人は理解できないだろうが、唯は理解できてしまった。
要するに、唯はピッピーが理想とする世界から排除されたのだ。
唯は寝そべって、自分の夢の中の青空を見上げるのだった。
青空は、どこまでも透明だった。
雲一つなく、視界には遊園地の観覧車と青空以外には何も映っていなかった。
現実世界は唯にとってうるさい場所過ぎた。
毎日のように電車が走り、テレビの広告が流れ、騒がしい毎日に唯の心は疲弊していった。
子供のころは騒がしい環境でもやっていけたのだが、なぜか、唯は大人になってから騒がしい毎日に笑えなくなっていた。
そうか、結局のところ世間が言うところの幸せを唯は受け付けないんだ。
唯が目指している世界はあくまでも静かな世界、対してピッピーが作りたいのは、悪く言えば騒がしい世界。
ピッピーは唯に幸せになりたいかどうか尋ねてきたが、そのお話は解像度の低い提案だったのだろう。
いかにもお子様が考えそうなことだな、と唯は納得した。
脱出? いや、しばらくはこのままでもいいかもしれない。
現実世界が夢の世界になったとしたら、きっと疲れてしまう人がたくさん現れて、唯の世界のほうに流れ着いてくるだろう。
楽しい世界から追放され、静かな世界に落とされる人々が増え続けてこの遊園地に流れ着けば、さて、果たしてどちらが現実の世界と呼ぶにふさわしいか、ピッピーも考えを改めるだろう。
と、唯は思った。
そうだな、本当に静かな世界が実現したら、その世界の住人は楽しい世界を追求し始めるだろう。
さっきの理論と真逆の理論も、当然成立する。
なんか、麻薬が切れて禁断症状を起こした依存症患者みたいになってるな。
そうだろうな、この薄汚れた現実世界、ファミレスが提供してくれるパフェ以外に快楽がない、ゆえにその誘惑は絶大。
強制労働を味わう奴隷がチョコレート一切れのために残業をするのと同じ理屈だ。
すると、遊園地の敷地の反対側、ちょうど唯から見て一番遠いところにパフェが現れるのだった。
唯は周囲のアトラクションをすべて無視してパフェを手に取ろうとした。
パフェに近づくたびに唯の視界に楽しそうなアトラクションがどんどん増えていくのがわかる。
コーヒーカップ、迷路、ホラーハウスはなくて代わりにバイオRE2が遊べるプレステとテレビ、意味がよく分からないかもしれないが、確実に唯が好きそうなものが唯の視界にあふれてゆく。
唯はそれらの誘惑に一切動じず、パフェにたどり着いたのだった。
そして唯がパフェを手に取ると、背後に突然ルーシーが出現するのだった。
唯は少し沈黙した。
ルーシーは確実に唯の幸せを願っているはずだが、それで多くの人を犠牲にしてしまう、だから唯の本当の願いは叶えない。
だから、唯はルーシーの相手をあまりしないで、社交辞令として幸せの定義を語ってみたが、それはルーシーに見抜かれていたのだった。
ルーシーはほんの少しの間、沈黙した。
そしてこんなことを言い出すのだった。