夢の中でガチャを回してしまったら、一般的に言って危険
文字数 2,604文字
しばらく皐と濃密な時間を過ごした。
どういう理由かはわからないが、皐がそう望んでいたから。
「まあいいかな。私だってたまにレズソープ行くし、このくらいいいんじゃないかな?」
窓を見ると、太陽が半分に割れて中身が空へ垂れ流しになっていた。
隣で眠る皐を放置して、唯は少し重たい足取りで部屋から出るのだった。
「みんなの願いが叶っている、これこそ理想の世界がここに完成、か。実に素晴らしんだけれど」
肝心の唯の願いは5000兆円以外何も叶っていなかった。
なぜなら、唯の本当の願いは。
「あ、見つけたよ! 早速だけどお姉さんには死んでもらうからね」
「え、なんで受け入れちゃうの? まだ何も説明してないんだけど」
突然女の子が現れて死んでもらうと言ってきた。
それがどうしてなのか、唯には理解できた。
「いきなり現れて死ね発言しておいて、割と大人しいのね。もっと迅速に殺されると思ったけど」
「えーっとね、あなたには本当のことを知る権利があるよ。どうしてこれからあなたが殺されるのか、そのことを教えてあげにきたんだけど」
「そうね、こう見えても、それなりに頭はいいみたいで。すべての人の望みが叶う世界で、きっと私はとても邪魔な存在だからでしょう?」
「そうだよ。あなたは誰もが幸せな世界でとても邪魔な存在なの。あなたの本当の願いをかなえてしまえば、すべての人が不幸になってしまう。だからあなたには死んでもらうの」
「ところで、私はピッピーっていう名前なの。覚えておいてね」
「意外とかわいらしい名前なのね。他人の命を奪うくせに。それで、どうして私は殺されなくちゃいけないのかしら?」
「あのね、昔々あるところに神様がいました。神様は人間を救いたいと思っていたから何度も救いの手を差し伸べたんだけどね、人間の中にそれを拒む人が現れちゃったの」
「そうね、私は人々が幸せになるなら、それを拒むと思うわよ」
「うん、だからね、今の世界のようにみんなの幸せを実現させようとするとき、お姉さんみたいな人が邪魔なの。だから、あらかじめ殺すことにしたんだよ」
「ふーん、そっかー。じゃあ私は殺されて終了ね。私の願いって言ったら人類の絶滅とかその手の類だし。確かに皆の妄想が実現するとして、私の妄想を実現させたら全人類死滅だからね。邪魔で当然でしょう」
「で、具体的に刺したり潰したりして殺すわけ? 痛いのは割といやだなあ」
「うーん、殺すのは冗談だよ。本当はね、お姉さんにたくさんの幸せを感じてもらって、お姉さんが人類滅亡を望むのをやめさせてあげるのが私の目的なんだ」
「あっそうですか。私は幸せとかそういうの好きじゃないんで。今のままでいいや、さようなら」
そう言って唯はピッピーの前から姿を消そうとする。
足取りは少し早く、まるで逃げるように。
すると、道の真ん中に設置されているマンホールからピッピーが出てきた。
「ねえお姉さん。ありったけのケーキを食べたいと思わないかな?」
「じゃあ、糖分最高濃度のタピオカを飲みたいと思わないかな? きっとおいしいよ」
「すまねえ、甘いのは好きなんだけどね、生まれて初めてタピオカを飲んだ時、甘さをマックスにしちゃってね、それ以来、トラウマなんだ」
「じゃあ、私みたいな女の子と毎日楽しく暮らす生活はどうかな?」
「うわっ、人間じゃないなお前、人間はもっと幸せに生きるべきだと思うんだよね。基本的人権に幸福追求権っていうのがあるんだよ」
「ピッピーちゃんが言ってるのは幸福追求義務じゃないかしら?」
「うーん、よくわかんない。とにかくお姉さんはもっと幸せいっぱいになるべきだと思うな」
「ねえお姉さん。どうかな、お姉さんの願いを何でも叶えてあげるよ」
「じゃあ、糖分たっぷりのタピオカを頼むよ、まずはそこから」
「はい、糖分たっぷりのタピオカだよ。味は抹茶にしておいたからね。どうぞ」
唯はそのタピオカの容器のふたを開けて、中身をアスファルトの大地にぶちまけた。
「なんだよ、何でも願いを叶えてくれるんじゃないの? 私がアスファルトにバラまいたタピオカを飲み干せと言ったら飲み干すんじゃないの?」
「やっぱりお姉さんは鬼畜だね。どうしてそんな風に思考が歪んじゃったのかな? ピッピーちゃんに教えてくれると嬉しいな」
「あなたには無関係じゃないかしら。私の考えは私の考えだし、あなたの考えはあなたの考えでしょう?」
「そうかな? 私はお姉さんと同じ空間にいるわけだし、お姉さんと私は会話できるよね。だから私の考えはお姉さんの中に溶け込めるんじゃないかな?」
「いきなりそう来るか。私に幸せになってほしいとか、いったいその気持ちはどこから来るの? 他人がどのくらい幸せになってほしいかなんて、人それぞれじゃない。私はみんなの不幸せを望むし、あなたはみんなの幸せを望む。それは相容れないんじゃないかしら?」
「うーん、なんで、なんでそんなこと言っちゃうの? お姉さんつまんないの」
「放置はできないな。私は誰もが幸せに暮らせる世界を目指してるの。そこにお姉さんが漏れてしまうのは、私の計画に欠陥があったのを認めることになる。だから私はお姉さんも幸せにしなくちゃいけないの」
「誰もが、幸せに暮らせる世界だよ。誰の犠牲もなく、全ての人が楽しく暮らせる世界を作りたいの」
「それって、人間の中に殺戮が大好きな人が含まれていないことを前提にしているわよね。私は人類を駆逐したいし、私がいる段階であなたの計画は終わりよ。早く、私を殺したら?」
「だめ、お姉さんを殺してしまったら、私の計画が失敗に終わる。お姉さんも幸せにならなくちゃダメ」
「あははは、あなた、ひょっとして人間は全員平等だと思ってない? なんともまあ幼い考えかたね。反して意外だわ」
「人はみんな平等だし、排除されるべき人がいるとは思わないな。私。誰もがみんな幸せに生きることはできると思うわ」
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