第4話 クリスマス

文字数 994文字

「ママ、きょうサンタさんでしょ?ちゃんとおてがみだした?」

「出したよ、大丈夫。きっとサンタさんに届いてるよ。今もお空から優斗の事みてるよ、おりこうさんにしてるかな、ママの言うこと聞いてるかなって」

 優斗はびっくりした顔をして窓から空を見上げた。

「えっサンタさん、ゆうとのおうちみえるの? だってとおいよ、お空は。みえるの?」

「そりゃあサンタさんは何でもできるんだから、ばっちり見えてると思うよ。だからほら、もう歯みがいて寝てないと、あれ、優斗君まだ寝てないぞ、わるい子かな、プレゼントあげれないなって思っちゃうよ」

「ママはやくはやくみがいてよ、サンタさんこなくなっちゃう!」

 焦って足踏みしながら、私に歯ブラシを渡してくる優斗。その真剣な表情がいかにも子どもらしく愛らしく、久子は思わず微笑みながら、優斗の歯をやさしく磨いてやった。

 子どもを産む前は小さい子に大して興味はなく、どちらかと言うと煩くてうっとうしいとさえ思っていた久子であったが、優斗を産んでからはまるで人が変わったように、はじめての我が子を熱心に可愛がった。

 幼稚園に行きだしてからはずいぶん落ち着いたが、赤ちゃんの頃の優斗はカンが強くよく泣く子で、毎晩何度も夜泣きで起こされた。それでも自分の事を、この世にたった一人の、必要不可欠で絶対的な存在として認識し、必死で追い求めてくる小さな姿を見ていると、どうしようもない程の愛しさがこみ上げてくるのだった。
 
 優斗。世界でたった一人の、私の産んだかわいい赤ちゃん······

 ちいさな手には
 これまたちいさな指がきっちり十本
 あまりにもたよりなく
 ちょっとひっぱったら取れちゃいそう
 まさかそんなことはないでしょうけれど
 でも、そうっと持ち上げてみて
 ちょっと口に含んで
 これが愛の味わい
 あふれる

 今日はクリスマスイブ、明日はクリスマス。明日の夜は親子三人でケーキを囲んでささやかなパーティーの予定だ。丸焼きにするためのチキンは冷蔵庫で解凍中、ケーキは美味しいと評判の洋菓子店にて予約済。オードブルは奮発してデパートでお洒落な総菜を買おう。いいよね、たまの事なんだから。
 一年に一度のクリスマス、家族で楽しむ大切なイベント。パパサンタは今年、ママに何くれるかな? 
 優斗のわくわくが伝染したのか、久子もまるで子どものように、明日のクリスマスが待ち遠しく楽しみでたまらない。


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