第5話 キンチョウトカンワ

文字数 1,022文字

「は?わらってはいけない?それだけか?」

『それだけです』

馬鹿な……こんな状況で笑う奴なんている訳がない。

「お笑い芸人でも連れてくるのか?」

『いえ、そんな事はしませんヨ』

「じゃあ自然に誰かが笑うのを待つのか?」

『いえいえ、お互いに笑わせあってください。最後まで笑わなかった方には賞金が出ます』

そういえば、誰一人賞金の事に触れる者はいない……当たり前といえば当たり前だ、命を落とすかもしれないというのに金の事なんてどうだっていい。

もしも賞金が法外な額だとしても、その為に人を殺すとなるとどうだろう?

はいわかりました……とはならない。

それにだ……今いくらこの機械音声が言った所でそもそも信用できるのか?

こんなイカれたことをする奴を信用する事ができるだろうか?

そこまで俺がぐるぐると思案してる時に隣の男が喋った。

「あの……全員笑わなかったらどうなるんですか?」

お、そうだ!その手があった!全員笑わなければ死ぬこともない!

隣の男はなんとなく冷静沈着というか頼りになる気がした。

『そのばあいは……』

その場合は?

『1時間毎に徐々に強くなっていく電流を全員にながします』

「なんだって!」

うそだろ?

全員に?

それだとつまり……。

最終的に全員死ぬことにならないか?

その機械音声を全員が聞いて間もなく、なぜか中年の男性がいそいそと服を脱ぎ出した。

え?なにしてるの?

そしてパンツ1丁になったかと思うと徐に踊り出した。

なんとなくヤスキ節のような踊りに所々有名なお笑い芸人の動きを取り入れてる様に見える。

いやいや、忘年会などのお酒の席ではウケたのかもしれないが状況が違いすぎる。

当たり前だが素人がいくら頑張った所でいきなり笑いを取るなんて土台無理な話なのだ。

これだけの緊迫した状況では……。

いや、まてよ……たしかどこかで聞いた事がある。

お笑いの理論の中で緊張と緩和というのがあるらしい。

とてつもなく緊張した状態からの緩和によって人は笑ってしまうという事があるらしい。

だとしたらこの状況はあまり楽観できる状況でもないのかもしれない。

ほんとうにどうでもいい事で笑ってしまう可能性もあるということだ。

俺がそこまで考えた時に中年の男性は疲れたのか四つん這いになって息を吐いた。

ブブッ

そしてその瞬間全身の筋肉が緩んだ結果なのか大きなオナラをした。

やばい。

これはやばい……緊張と緩和だ。

俺はもっと早くこの事を皆に伝えるべきだったと後悔した。

なぜなら。

女子高生がたまらず笑っていたからだ。




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