付属  詩.抒情

文字数 1,400文字

いくら歩いても、梅雨は続く
雨は降り続く
かつて交わした約束に靄がかかり、先はまだまだ見えない
安心 生きる理由
そんな光が差す朝は未だ訪れない
痛み 苦しみ 悲しみ 怒り 絶望 やるせなさ
そんな憂鬱をポケットから落とせば排水溝に吹き溜まった
もしも家族が轢き殺されたら
もしも仕事が無くなったら
もしも未知のウイルスが蔓延したら
もしも大切な人がいなくなったら
もしも地震や大雨が起こったら
そういうもしもが、幾度もあったここ数年 特に長雨のこの令和においては尚更のこと
天気予報と感染状況ばかり気にして テレビやスマホの電源をつければ不安を煽られる
またスクリーンの中で置いて逝かれた人が泣いていた
出会いがあれば別れもあるのは重々承知だが、手を振れば込み上げてくる物もあるよな
人のことを思って痛む心ぐらいはあるつもりだし、地獄を今味わっている奴の力になりたいとも思う
だが目に止まる物全てに同情を配れる程の余裕も無し
増えていくテナント募集の貼り紙 下されたシャッター 電車を止めた奴を罵る会社員
政府 神様 仏様 救世主 祈り 終わりの日 陰謀説
全くもってそんな騒ぎやフレーズからは、今は遠く離れていたい
職場の先輩と仕事帰りに交わす乾杯 友人とのくだらねぇ会話
何気ない日常かもしれないけど、裏も穢れもないからバカデカく感じるんだよ
もちろん万人に自分の思うこと全てをわかってもらおうなんて思ってない
たとえ会ったことも話したこともない関係でも、声の届かない距離でも、理解してくれる奴だけの為に一文字ずつ紡ぎ続けるんだ
反動で没頭したゲームと漫画 でも結局自分を保つのは読書と散歩 そして言葉の書き殴りだった
過去から幾星霜 疲労感は否めないが背負った物もある
希望ある奴らに託したくなる
その心を失くさず、自分が行けなかった道へと旅立てと 自分が抱かなかった大志を抱けと
そして後は任せたぞと

一人でコーヒーを啜るワンルーム
安らぎをくれる静寂と、一人でいる孤独感がかき混ぜられて居候
そしてもう一人 土下座して泣きじゃくりながら美しき思い出を抱きしめている過去の自分と計三人暮らし
思えば16.256kmを流離う間に景色も持ち物も変わっていった
約束を交わした友人 優しく抱きしめてくれた恋人
あいつもあの娘も死んでいった
でも彼や彼女が教えてくれた希望や温もりは色褪せていない
そして今気がつけば 新たな友人や同僚、地元の仲間や幾多の理解者と多くの人に支えられていた
いつも自分を見張っている背後霊も
未来に繋げられなかった物達への懺悔も
己が人生と心を壊された悲しみも怒りも
無数の欠陥への苦悩もどうせ無くならない
この先、完璧に幸福な日が来ると期待するのも疲れた
でもそうは言うものの、生きてきて良かったと思える程の素晴らしき出来事が、出会いが、喜びが存在していることも知ってしまった
負の感情があるからこそ幸福を感じられるのだと、そして人間として生きていけるのだということに気がついた
これから歩いていく理由にはそれだけで十分だ
先の見えない世界だからこそ
言葉を綴ろう
心の文章を書き殴ろう
裏切られることを恐れるものか
自分が行きたい所へ行き、自分が話したいことを話し
全てが面倒に思えて諦めそうになる自分を奮い立たせ
今の自分ができることだけ、したいことだけに手を伸ばす
「いつか必ず」
この先の見えない令和にて
そのいつかに会いに、かつての約束を果たしに
これからも歩いていく
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