第17話 同盟だ!

文字数 3,153文字

 先生がプリントを配った。その問題の内容は、先生の話を聞いていればすぐに解ける内容。授業の復習と校外学習の予習を兼ねている。話されてない内容も一、二問はあるけれど、小学校で習った知識で十分解答できた。
 授業が終わると、作戦会議だ。僕は四人を集めた。

「明日の校外学習は、どんな作戦で行く? 先生をどうやってやっつける?」
「実は今回は、それは考えてないんだ」
「はあ?」

 もう三回も先生たちに勝ってきた。先生の絶対性と生徒の完璧性はもう既にボロボロだ。これ以上僕たちだけで戦っても、それ以上の戦果は得られないだろう。

「僕たちのクラスはもう、先生たちに勝ったも同然。それにさっきの社会の授業で、思いついたんだ!」
「何をよ!」
「同盟だよ!」
「同盟?」

 僕たち生徒にとって先生は、敵だ。でもそれはこのクラスの話だけじゃない。他のクラスも黙っているだけで、本当は先生たちに逆らいたいはず。
 僕たちは先生に勝ってきている。他のクラスだって先生から聞いていればそれを知っているはずだ。ならば僕たちが味方になれば、心強いはずだ!

「でもそれはワザワザ校外学習じゃなくてもいいんじゃない?」

 祈裡の言う通りだ。その気があるなら、昼休みにできる。でも、明日じゃないといけない。

「明日なら、先生たちの目の前で、同盟を結べる。僕たちの仲間が増えるところを、堂々と見せつけるのさ! そうすれば先生の戦意も薄れていく!」

 同盟と戦意喪失。その両方を僕は狙っていく。先生たちの士気を低くするのも、立派な戦術だ!

「でも、もう負けを認めているようなクラスが話に乗ってくれるかねえ?」

 氷威の心配も頷ける。でも僕たちには他のクラスの協力が必要だ。

 そしてそれは、早い方がいい。先生も僕たちの快進撃を黙ってみているハズがない。きっとどこかで作戦の妨害を図って来るはずだ。例えば、授業に集中させるために他のクラスと関わるなとか、仲良くするなとか、言ってくるに違いない。他のクラスは正忠の言ったようにもう既に先生の支配下。先生の命令を絶対に聞くだろう。それが公布される前に、僕たちが動かなければいけない!


 校外学習当日。僕たちは校庭に集合した。今日僕たちは勉強しながら仲間を探さないといけない。忙しい一日になりそうだ。
 グーっと僕のお腹が鳴った。朝ご飯はちゃんと食べてきたが、今日一日体力が持つか不安だ。おまけにやはり、この学校では校外学習や遠足はもちろんのこと、野外活動でも修学旅行でもお菓子は許されない! バナナも駄目だ!

「劉葉。わたしのお弁当、分けてあげてもいいよ?」
「遠慮するよ。だってそれは織姫のお母さんが、織姫のために作ってくれたものだから」

 やがてバスがやって来た。これから二十分、移動だ。
 もちろん移動の時間も僕は無駄にしない。バスは二組も一緒だ。

「やあおはよう。僕は劉葉」

「おはよ。俺は鮫島(さめじま)凌牙(りょうが)。よろしくな」

 隣の席は二組の生徒だった。ちょうどいい!

「ねえ凌牙君、君はこの学校の授業体制に満足してる?」
「してるわけないだろう! こんな学校、やめていいんならいつでもやめてやるよ!」

 凌牙とは気が合いそうだ。

「なら、僕と同盟を結ばない?」
「同盟?」

 凌牙の頭の上に、僕はクエスチョンマークを見た。

「協力してっていう意味だよ。一緒にこの学校に立ち向かおう!」

 凌牙はバス内を見回した。このバスに乗っている生徒のうち、半分は彼と同じ二組だ。

「でも、先公たちにどうやって? 俺のクラスの奴らじゃ足手まといだぜ…」
「そんなことない! 仲間が多いことに意味がある!」

 凌牙が何か言おうとしたが、僕は遮らせなかった。

「僕たちは既に先生たちに三回勝ってるんだ。この勢いを今、失うワケにはいかない。そしていずれは生徒全体が一丸となって学校に立ち向かう必要があるけれど、僕たちはまだ、他のクラスとすら連係が取れてないんだ。だいいち、僕たち四組の一クラスだけが盛り上がっても、他のクラスが救えない。僕は全国に広がってしまうかもしれないこの完璧絶対授業を絶対に廃止に追い込む。そのためには、君たちの力がどうしても必要なんだ!」

 凌牙は一度頭を下げた。

「あの鞭打ちの水谷のヤロウにも一泡吹かせられるのか?」
「水谷先生ならもう既に、僕らに屈したよ」
「本当なのか!」

 正確には織姫が頑張ったんだけど、僕らの勝利には間違いない。

「そんな話、全然聞かなかったんだが…」
「かん口令が出されてるんだよきっと。先生の失敗を隠す。戦争中にはよくあることだ!」
「戦争ね…。同じ学校で俺ら以上に頑張ってる奴らがいたなんて驚きだ。わかった。俺たちも参戦しよう!」
「凌牙、ありがとう!」

 僕は凌牙と握手した。同盟成立だ!

「二組の奴らには、俺が言っておく。絶対みんな賛成してくれるぜ!」

 バスの中では凌牙と、これまでの戦果を話した。


 ひめゆりの塔に着いた。午前中はひめゆりの塔とその資料館を回る。バスから降りた僕たちを先生は集合させ、

「一人でウロウロして迷子にならないように! できるだけ同じクラスの人と行動して下さい!」

 そう叫んだ。でもそんな事、守っていたら同盟なんて結べない。あと一組と三組が残っている。
 指定の時刻まで各自、行動となった。

「劉葉、一緒に回ろう!」

 僕は織姫と行動することとなった。

「織姫、他のクラスに知り合いとかいない?」
「うーんと、一組の須美ちゃんとは六年生の時同じクラスだったよ。よく話したし」
「なら、その子に会いに行こう。案内してくれる?」
「わかった!」

 資料館をウロチョロしていると、

「見つけた!」

 ある女の子が壕のジオラマを見上げていた。

「須美ちゃん、久しぶり!」
「織姫じゃない! 小学校以来だね。そっちの人は?」
「僕は古城劉葉。初めまして、織姫と同じ四組だよ」
「私は興梠(こおろぎ)須美子(すみこ)。みんな須美ちゃんって呼んでるから、劉葉君もそう呼んでね」
「わかった! 早速なんだけど須美ちゃん、君はこの学校に対して何か不満はない?」
「不満ね…」

 須美子は考え始めた。

「私個人としては、金沢先生が気に入らないかな。あの先生、無駄に丁寧語使うくせに一言多い、というか多すぎるのよ。あの人どうにかならないの?」
「金沢先生なら、もうやっつけたよ! 劉葉が上手く機転を利かせて、矛盾だらけの実験で恥かかせたの。あの焦り様、須美ちゃんにも見せたかったなあ」
「それ本当?」

 僕は頷いた。

「もう金沢先生は、恐れるべき敵じゃないね」

 そう言った。それに須美ちゃんは感動している。なら今だ!

「そこで須美ちゃんにお願いがあるんだけど、同盟を結んで欲しいんだ」
「ドウメイ…?」

 須美ちゃんは首を傾げた。

「一緒に戦うの!」
「ごめん、ちょっと意味がわからない…」
「僕もいきなり悪かったよ…。説明するね」

 僕は凌牙にした説明を須美ちゃんにもした。

「なるほど。でも、具体的に私たちは何をすればいいの?」
「まずは情報共有だね。金沢先生が僕らの前に沈黙したことを、クラスのみんなに教えてあげて!」

 須美ちゃんは喜んで頷いた。

「わかったわ! 金沢先生はもう、怖くもなんともないってこと、早くみんなに知らせなきゃ!」
「なら須美ちゃんはわたしたちに協力してくれるんだね?」
「もちろん! 先生に立ち向かうなんて、何処か面白そうだし、ね?」

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