第21話 先生を仲間に!

文字数 2,222文字

 社会の土屋先生とは、戦わなかった。だから勝利は味わえなかった。でもクラスの士気は高い。他のクラスと同盟を結んだことを、僕は五時間目の英語が始まる前にクラスのみんなに発表した。

「本当かよ!」
「すごい!」

 クラスから歓声が上がる。正忠の話はあえてしなかった。また意外な活躍をしてくれるかもしれないからだ。

「で、劉葉。次は何をするんだ?」
「それはちょっと、難しい。実は…」
「な、な、何ですってー!」

 祈裡が驚いた。無理もない。僕は堂々と言ったんだ。先生を味方につけるって!

「危険だわ! 絶対に失敗する。そんな事、できるワケないわ!」

 鈴茄の言う通りだ。
 まず危険がある。先生を味方につけるって、見方を変えれば先生に従うって取れてしまう。
 次に失敗しそう。この学校で、生徒の味方になってって、言われてそうする先生はきっといない。
 そしてできない。これはただの特攻みたいなものだ。意味のない犠牲が発生するだけだ!

「でも、そうしないことには、学校側は僕たちの言い分を、学業成績が振るわない不良がただ騒いでるだけって捉えちゃう。生徒の意見を改変しないでガツンと学校に言うには、先生を味方につける必要がある!」

 僕は引き下がらなかった。極めて危険な作戦。しかし、避けては通れない。


 英語の木村先生が教室にやって来た。

「起立! 礼! 着席!」

 授業開始! 今日も戦争が始まる!

「先生!」

 祈裡が手を挙げすに先生を呼んだ。

「おやおや何だい? わからないところでも?」

 アレ? 被弾しなかったぞ?
 先生は祈裡の席に向かった。

「劉葉。ここ、わかる?」

 織姫が小声で僕に聞いてきた。聞かれたからには答えないワケにはいかないんだけど、授業中の私語は被弾を意味する。

「多分、Mayだと思うよ…」

 僕は被弾覚悟で織姫の質問に答えた。
 でも僕も織姫も、祈裡も無許可の発言を記録されなかった。


 休み時間に雑談をする。

「やっぱ英語は、ネガティブアメリカンが教えた方がいいと思う!」
「祈裡。ネイティヴアメリカンの間違いだろう? 消極的になってどうするんだ?」

 氷威と祈裡はそんな会話をしている。その間、僕はうーむと考え事をしていた。

「そんなに悩んで、どうしたの?」

 織姫が僕に聞いた。

「どうして木村先生、私語を記録しなかったんだろう? さっきの時間、僕たちに弾丸は飛んで来なかったよね?」
「そう言えば…」
「きっと威張れなくなってきてるのよ!」

 鈴茄がそう言うが、違う気がする。現に火野先生、水谷先生、金沢先生の授業では、挙手しないで発現すると、少し怒られて記録される。負かしてきたけれど、そういうことはやめなかった。

「味方にするなら、木村先生がいいかもね」

 正忠が言った。

「どうして?」

 鈴茄が聞き返す。

「木村先生はほら、水谷先生の不正に目を瞑らなかったでしょう? それに僕はスパイだった時に、木村先生は他の先生と仲が良くないって聞いた。きっと木村先生は完璧絶対授業に本当は反対したいんだよ」

 正忠の言う通りなら、味方につけるべき先生は木村先生で決まりだ。

「でも焦らないで。もしかしたら、僕たち生徒に友好的に演じているだけなのかもしれない! 僕たちが先生を味方につけないといけないことを知っていて、あえてそう振る舞っているのかもしれない…」

 油断はできない。一歩間違えれば、この戦争は負ける。三回の勝利と同盟成立で、僕たちは自分でも気づかないうちに天狗になっているのかもしれない。少なくとも僕のクラスでは、さっきの祈裡のように、無許可で発言しようとする生徒が少し出てき始めている。

「負かしてきた先生を味方につけるってのはどう? 私個人的に、織姫のことけなした金沢先生のこと殴りたいんだけど?」

 やらないとは思うけど、暴力は駄目だ。それに、

「打ち負かした敵を利用するのは危険だよ」

 前に土屋先生の授業で聞いた元寇の話を思い出した。
 弘安の役の狙いだ。確かに日本を侵略しようとはしたらしい。でも元には別の目的があった。
 宋を攻め落として得られた兵士、つまり負かした敵国の兵士は、質が悪い。いつ反逆してくるかわからない兵士を元は手元に置いておきたくなくて、彼らに日本を攻撃させた。結果は日本の反撃と神風によって、元軍の敗北。でも元はその別の目的を達成した。
 宋の兵士の数を、見事減らしたのだ。
 史上最大の領土を持っていた元であっても、元敵国の兵士の扱いには困っていたのだ。こんな日本の沖縄の中学校の一クラスが、元と同じことできる? それは無理だ。負かした先生を利用しきれない。そして利用しきれないなら、いつか歯向かってくる…。それが怖くて元は弘安の役で、宋の兵士を使ったのだから。

 一度負かしたからと言っても、先生たちは僕たちをなめている。これではいつ、反旗を翻すかわからない!

「僕たちはまだ、中学生。対して先生は腐っても大人だ。調子に乗るなって言われたらそこで終わり。だから火野先生も水谷先生も金沢先生も、味方にはつけない!」
「なら、木村先生で決まりだね」
「いや待って。せっかく同盟を結んだんだし、他のクラスにも聞いてみようよ?」

 織姫が言う。

「そうしよう!」

 僕は賛成した。
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