35. シーナを探して

文字数 1,045文字

 屋敷の中にはおぞましい気配が散り散りに感じられ、所々で大きな物音や破壊音もあがっている。何頭もいる魔物は一緒には行動せず、それぞれが思い思いに動いているらしい。

 焦燥(しょうそう)に駆られながらも、黙ってキースに付いて行くリューイ。キースは、その期待に応えようと懸命にシーナの匂いを探すが、彼女の匂いはそこらじゅうにあり、焚かれている(こう)(かおり)も邪魔をして簡単にはいかなかった。

「シーナ、シーナ!」

 そこでリューイが大声を上げると、案の定、魔物がぞろぞろと現れて前後を(ふさ)がれた。
 リューイは舌打ちし、すぐ横のドアを開けて部屋の中へ逃げ込んだ。すぐさま鍵をかけ、窓から身を乗り出して下の階をのぞき、人の気配がありそうな部屋はないかと目を凝らしてみる。

「シーナ!」

「リューイ・・・。」
 シーナは、彼の声を窓の外で聞いた。

 目を覚ましたシーナは、たちまちこの異常事態に気付いて書斎の鍵をかけたが、それらはすぐにやってきて、ドアを(やぶ)ろうと体当たりを繰り返し始めたのである。ドアは悲鳴を上げてさかんに(きし)み、シーナは見つかりたくないと思うあまり、窓を乗り越えていた。足がやっと置けるほどの外の出っ張りに足をかけ、ぎりぎり窓の縁につかまって、そうして外壁(がいへき)の陰に隠れながらじっとしていたのである。

 彼の声はすぐ下の階から聞こえてきたが、身動きできないシーナはそちらに首を向けることもできずに、ただやっとの思いで叫び返した。

「リューイ!」

 リューイは反射的に顔をあげて上を見た。そして、シーナを見つけた。彼女は一つ上の階の、二つ隣の部屋の外壁にしがみついている。

「シーナ、今行く。」

 ひと言そう励まして、リューイも窓の外の出っ張りに降りた。そして、それを伝ってシーナのもとへ向かった。幸い彼女のところまで手を掛けられる箇所があり、肩の痛みにさえ耐えられれば、どうにかたどり着くことができそうだ。

 ところがその時、書斎のドアがついに破られた!

 魔物の群れがワッとばかりに乱入してきて、その迫力に驚いたシーナの手が、ふっと窓枠(まどわく)から離れてしまった。

「きゃああっ!」

 リューイが見ている前で、シーナが背中から落ちてくる。

 とっさに足元を()るリューイ。

 そしてシーナの体は、空中で大きく両手を広げたリューイの胸に飛び込んでいった。

 リューイはその時、彼女を受け止めることしか考えられなかった。それでも彼女の頭をしっかりと両腕で抱きこみ、自分の方が先に地面につくようにした。

 二人は一緒になって、魔物がうごめく闇の中へと落下していった。






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