第99話 刃(やいば)の巫子
文字数 2,066文字
結界の中、向かってくるメイスをサファイアが兵達と共に牽制する。
イネスは右手に意識を集中させながら、メイスを睨め付けた。
唇を舐め、心を集中する。
手を、指先まできれいにそろえ、そこに気を集中した。
ゆっくりとその手を振りかぶる。
イネスの身体が穏やかに輝く。
シュッ
空を切るように、イネスがその手をななめに振り下ろした。
ボッ!
ザンッ!
音を立てて羽根の炎が破断する。
空気を切り裂き、背後の木までもが、音も無く切れてずれ落ち、一瞬空まで引き裂いたようで雲まで破断した。
ザザザ……ドドン!!
木が落ち、羽を切られたことにメイスが驚愕して振り向いた。
「ギッ?!」
離れた炎の羽根に、再度手を振り上げるとそれは二つに裂けて千々に散って行く。
その、あまりにすさまじい切れ味に、兵達が騒然とする。
息を飲み、イネスの回りにいた兵が思わず後ずさった。
イネスが目を閉じうなだれる。
わかっている、自分は異質なのだ。
わかっている、この力だけは、リリにさえ知られることが恐ろしかった。
刃(やいば)の巫子……それがイネスの二つ名だ。
だが、それを人が呼ぶことは許さなかった。
俺は……僕は……この敬われるべきこの自分が、人から恐れ、嫌われることを、誰よりも、何よりも恐れたのだ。
もう……もう、隠せない。次に自分を見る人々の、顔を、視線を見るのが怖い。
でも、今はそれよりも……‥百合の戦士としての務めを果たす!
キッと目を見開き、前を向く。
メイスがこちらに向かってくる。
イネスはそれを見つめながら、祝詞を唱え、手を真っ直ぐ天に向けた。
「我が主の声を聞け!
我が手は刃物、我が手に慈しみはなく、すべてを穿ち、絶つものなり。
我が君、地の精霊、地の主(あるじ)、汝迷えるものに祝福を。
地を巡り巡る尊き力、祝福を持ってこの身に宿りたまえ。
この手は刃(やいば)、なれど!
人を守る物なり!」
イネスの輝きが増して、その光が手に集中する。
その光が空へと真っ直ぐのびた時、メイスに向けて、手を振り下ろした。
「ギャッ!!グアアッ!ナ、ナニッ!」
突然、メイスの身体が縦に裂ける。
「ヒッ!」
思わず、メイスが地に伏して顔を覆った。
彼の背が、メリメリと音を立てて裂けて行く。
「ギ 、ギ 、ギキャアアァーーッ!!」
メイスの裂けた背中から、一斉に数百の美しい瑠璃色の羽根を持つ青い鳥が羽ばたいた。
バササッ!!バタバタバタ!バババッ!!
「あ、あ、あ、わあっ!」
「あれは!鳥?!」
「鳥か?!一体……見たこともない!」
「なんて数!」
鳥たちは結界から出る事ができず、要の剣を目指してグロスに向かう。
「うおおっ!」
あまりの数にグロスがすくみながら、呪を唱え杖を向けた。
土で出来た兵が一つになり、壁を作る。
キアアア!!キイアアアア!!!
鳥が一斉に切り裂くような声を上げ、土の壁をもろくも打ち砕いた。
「なんと!うおおお!」
あまりの鳥の数にグロスが頭を守り、思わず地に伏せる。
鳥は次々と剣に体当たりをかけ、剣を打ち倒して結界をとくと一斉に空へ飛び立った。
「リリス!避けよ!」
ガーラントの叫びは、遠く離れて空で術に集中する彼には届かない。
気配に振り向くリリスの姿を最後に、鳥の軍勢が彼を飲み込んだ。
「リリーーーッ!」
イネスが、リリスを救おうとそちらへ手を向けた。
「くっ!」
人が切れるか、切れないか、成功率は半々。そう、半々なのだ。
それでも賭けに出て渾身の力で、手を振り上げる。
「ならぬ!」
兄巫子の声が響き、イネスの身体が凍りついて後ろにひっくり返った。
半回転して芝生の中へ顔から突っ込みながら、頭を押さえて兄巫子を見る。
「兄様!なぜ!」
「見よ!空を!あれに封じられていた聖なる鳥キュアが、炎を得て姿を取り戻すのだ!」
身を起こして振り向くと、咲き乱れる花壇の中、兄巫子が空に広がる火の玉を追う鳥たちの軍勢を指さす。
それは火を捕らえると、次々と火を飲み込み身体が青い火に包まれてゆく。
そして青く燃える火の鳥は、その姿が重なって一つになり、やがて1羽の巨大な鳥となった。
鳥たちの中から姿を現したリリスは赤く燃えるように輝いて、巨大な火の鳥を操り背に乗って燃える町へ向かってゆく。
「一体……あれはなんだ?」
呆然とそれを見送り、煙の上がる城下の方向を見ると次第に煙が減ってゆくのが見える。
それはあまりに劇的で、その場に行くまでもなくリリスが空から難なく火を消している様が頭に浮かんだ。
しかし呆然と空を見つめる人々の中で、数人の兵が我を取り戻しメイスに剣を向ける。
その動きに誘われ、他の兵達も次々と声を上げ倒れて動かないメイスに迫った。
「こいつだ!昨日も来た奴だぞ。」
「殺せ!またどんな力で襲ってくるかしれん!」
兵達が倒れたメイスの元に駆け寄り、剣を抜いて一斉に振りかざす。
恐怖と怨恨とが入り交じり、まだ少年の彼を殺すには十分すぎる刃が迫った。
「やめよ!」
セレスの声が辺りに響き、それが全身を突き抜け皆の動きが止まった。
まるで金縛りのように、動けない彼らに他の兵も足を止める。
セレスはそれに目もくれず、倒れているメイスの元に足を進め腰を落とした。
イネスは右手に意識を集中させながら、メイスを睨め付けた。
唇を舐め、心を集中する。
手を、指先まできれいにそろえ、そこに気を集中した。
ゆっくりとその手を振りかぶる。
イネスの身体が穏やかに輝く。
シュッ
空を切るように、イネスがその手をななめに振り下ろした。
ボッ!
ザンッ!
音を立てて羽根の炎が破断する。
空気を切り裂き、背後の木までもが、音も無く切れてずれ落ち、一瞬空まで引き裂いたようで雲まで破断した。
ザザザ……ドドン!!
木が落ち、羽を切られたことにメイスが驚愕して振り向いた。
「ギッ?!」
離れた炎の羽根に、再度手を振り上げるとそれは二つに裂けて千々に散って行く。
その、あまりにすさまじい切れ味に、兵達が騒然とする。
息を飲み、イネスの回りにいた兵が思わず後ずさった。
イネスが目を閉じうなだれる。
わかっている、自分は異質なのだ。
わかっている、この力だけは、リリにさえ知られることが恐ろしかった。
刃(やいば)の巫子……それがイネスの二つ名だ。
だが、それを人が呼ぶことは許さなかった。
俺は……僕は……この敬われるべきこの自分が、人から恐れ、嫌われることを、誰よりも、何よりも恐れたのだ。
もう……もう、隠せない。次に自分を見る人々の、顔を、視線を見るのが怖い。
でも、今はそれよりも……‥百合の戦士としての務めを果たす!
キッと目を見開き、前を向く。
メイスがこちらに向かってくる。
イネスはそれを見つめながら、祝詞を唱え、手を真っ直ぐ天に向けた。
「我が主の声を聞け!
我が手は刃物、我が手に慈しみはなく、すべてを穿ち、絶つものなり。
我が君、地の精霊、地の主(あるじ)、汝迷えるものに祝福を。
地を巡り巡る尊き力、祝福を持ってこの身に宿りたまえ。
この手は刃(やいば)、なれど!
人を守る物なり!」
イネスの輝きが増して、その光が手に集中する。
その光が空へと真っ直ぐのびた時、メイスに向けて、手を振り下ろした。
「ギャッ!!グアアッ!ナ、ナニッ!」
突然、メイスの身体が縦に裂ける。
「ヒッ!」
思わず、メイスが地に伏して顔を覆った。
彼の背が、メリメリと音を立てて裂けて行く。
「ギ 、ギ 、ギキャアアァーーッ!!」
メイスの裂けた背中から、一斉に数百の美しい瑠璃色の羽根を持つ青い鳥が羽ばたいた。
バササッ!!バタバタバタ!バババッ!!
「あ、あ、あ、わあっ!」
「あれは!鳥?!」
「鳥か?!一体……見たこともない!」
「なんて数!」
鳥たちは結界から出る事ができず、要の剣を目指してグロスに向かう。
「うおおっ!」
あまりの数にグロスがすくみながら、呪を唱え杖を向けた。
土で出来た兵が一つになり、壁を作る。
キアアア!!キイアアアア!!!
鳥が一斉に切り裂くような声を上げ、土の壁をもろくも打ち砕いた。
「なんと!うおおお!」
あまりの鳥の数にグロスが頭を守り、思わず地に伏せる。
鳥は次々と剣に体当たりをかけ、剣を打ち倒して結界をとくと一斉に空へ飛び立った。
「リリス!避けよ!」
ガーラントの叫びは、遠く離れて空で術に集中する彼には届かない。
気配に振り向くリリスの姿を最後に、鳥の軍勢が彼を飲み込んだ。
「リリーーーッ!」
イネスが、リリスを救おうとそちらへ手を向けた。
「くっ!」
人が切れるか、切れないか、成功率は半々。そう、半々なのだ。
それでも賭けに出て渾身の力で、手を振り上げる。
「ならぬ!」
兄巫子の声が響き、イネスの身体が凍りついて後ろにひっくり返った。
半回転して芝生の中へ顔から突っ込みながら、頭を押さえて兄巫子を見る。
「兄様!なぜ!」
「見よ!空を!あれに封じられていた聖なる鳥キュアが、炎を得て姿を取り戻すのだ!」
身を起こして振り向くと、咲き乱れる花壇の中、兄巫子が空に広がる火の玉を追う鳥たちの軍勢を指さす。
それは火を捕らえると、次々と火を飲み込み身体が青い火に包まれてゆく。
そして青く燃える火の鳥は、その姿が重なって一つになり、やがて1羽の巨大な鳥となった。
鳥たちの中から姿を現したリリスは赤く燃えるように輝いて、巨大な火の鳥を操り背に乗って燃える町へ向かってゆく。
「一体……あれはなんだ?」
呆然とそれを見送り、煙の上がる城下の方向を見ると次第に煙が減ってゆくのが見える。
それはあまりに劇的で、その場に行くまでもなくリリスが空から難なく火を消している様が頭に浮かんだ。
しかし呆然と空を見つめる人々の中で、数人の兵が我を取り戻しメイスに剣を向ける。
その動きに誘われ、他の兵達も次々と声を上げ倒れて動かないメイスに迫った。
「こいつだ!昨日も来た奴だぞ。」
「殺せ!またどんな力で襲ってくるかしれん!」
兵達が倒れたメイスの元に駆け寄り、剣を抜いて一斉に振りかざす。
恐怖と怨恨とが入り交じり、まだ少年の彼を殺すには十分すぎる刃が迫った。
「やめよ!」
セレスの声が辺りに響き、それが全身を突き抜け皆の動きが止まった。
まるで金縛りのように、動けない彼らに他の兵も足を止める。
セレスはそれに目もくれず、倒れているメイスの元に足を進め腰を落とした。