第2話 言葉の雨

文字数 3,809文字

あれから数日。
幻想郷の被害は目に見えて大きくなっていく。
「あんた達のせいだ」
「平和だった人里を返せ」
と、憎まれ口を叩かれる。
…とは言え、生活品を求めるには人里に行くしかない。
俺達は素顔を隠して人里を歩く。
─関係ないはずの妖夢までも、だ。
妖夢「…大変なことになっちゃったね」
ファイナル「遅かれ早かれこうなる。人の苦労も知らずに騒げるのはおめでたい事だ」
耳に入る罵詈雑言の数々。
歩いているだけで気が狂いそうだ。
妖夢「大丈夫?」
ファイナル「何がだ」
妖夢「最近、夜遅くまで何かしてるでしょ?」
ファイナル「ああ、それか…大したことじゃない。大丈夫だ」
…何となく分かる。
今の「大丈夫」は嘘だ。
私をこれ以上心配させない為の。
ファイナル「…なにか、変な事を言ったか?」
妖夢「…嘘つき」
ファイナル「…」
妖夢「最近、目に見えて疲れが見えてるのに。」
ファイナル「んだよ…分かってたのか…」
妖夢「ずっとあくびしてるもん。気づかない方が難しいよ」
ファイナル「ちょっと、考え事をな。」
妖夢「やっぱり…

?」
ファイナル「その通り。…っと。ついたな。頼んだぜ」
妖夢「うん。待っててね」
フードを脱いで店に入っていく。
その間俺は店の外で待つ。
人々の視線。
この格好もある意味目立ってはいる。
素顔さえ隠せればいい。
ファイナル「好きで戦ってる訳じゃねぇんだよ…俺だってな…」
ぶつけようのない怒りを自分自身にぶつける。
こうするしかない。

妖夢「…」
店内。
人の小声。
「まただよ」
「ああ。全く迷惑なもんだ」
「でもあいつはいないんだね」
「まだマシだな」
むかつく。
…ダメダメ。
必要最低限の物だけ買っていく。
会計が終わり、雑に商品を渡される。
妖夢「…ありがとうございました」
「フン…」
睨まれた。
これにはもう慣れた。
フードを被り、気持ちを切り替える。
妖夢「行こう」
ファイナル「ああ」

とは言え、夫婦仲は良好だ。
会話は弾むし、
何より一緒にいて楽しいのだ。
妖夢「今日は何作ろっか?」
ファイナル「妖夢の好きな物でいいんじゃないか?あ、そういえばな…」
適当な話。
それだけで、いい。
「あ、あの…」
ファイナル「お?」
子供だ。
「こ、これ…」
一輪の花。
赤いポピーだ。
「こら!やめなさい!」
子供から花を取り上げ、踏みにじる。
「あ…」
その親子はそのまま行ってしまった。
妖夢「…」
ファイナル「…見ろよ、妖夢。この花、生花だぜ。」
妖夢「確か…ポピーだっけ?」
ファイナル「そう。花言葉は「

」、「

」…だったかな。あの子は言葉じゃなくて花で伝えてくれた」
妖夢「…飾ってみる?長くは持たないと思うけど…」
ファイナル「せっかくのプレゼントなんだ。飾ろう。」
大切に拾い上げる。
ファイナル「…ありがとな。」

白玉楼
幽々子「あら、今帰ったのね。」
ファイナル「ええ。」
幽々子「…あなたにとって今の幻想郷は…辛いものかもしれないけど…」
ファイナル「そんな事ありませんよ。」
幽々子「そう…」
妖夢「ファイナル、このお花どこに飾ろう?」
幽々子「花?」
ファイナル「人里の子供がくれたんですよ。」
ボロボロの花びら。
土が付き、見た目は決して美しいとは言えなかった。
ファイナル「そうだな…ここならどうだ?」
妖夢から花瓶を受け取り、置く。
白玉楼に帰ってきたら必ず目に映る場所。
妖夢「いいね。これなら毎日見れるよ。」
ファイナル「だろ?」
幽々子「…健気ね」
妖夢「何か言いましたか?」
幽々子「いいえ?」
去る。
ファイナル「さて…ちょっと休憩でもしようか」
妖奈「お父さん!」
ファイナル「妖奈か。どうした?」
妖奈「遊んで!」
ファイナル「仕方ねぇなぁ。何して遊ぶ?」
妖奈「こっち来てー!」
ファイナル「引っ張るな…逃げたりしねぇから…」
その2人の後を追う妖夢。
妖奈「じゃじゃーん!」
ファイナル「なにこれ…」
妖奈「トランプ!」
ファイナル「お前また香霖堂に…まあいいや…」
妖奈「あ!それと霖之助さんがお父さんにって!」
ファイナル「あ?んだこれ…っ!?」
妖夢「どうしたの?」
ファイナル「…なんであいつが持ってんだよ」
妖夢「あれ…これって…」
この世界ではファイナル、エンド、イゼしか持っていないはずのもの。
妖夢「えーっと…展開式魔法具…だっけ?」
ファイナル「…すまん、妖奈。ちょっと出かけてくる」
妖奈「行ってらっしゃーい」
妖夢「あれ…わかってたの?」
妖奈「霖之助さんがね。「これを渡したら来るだろう」って。」

ファイナル「霖之助」
霖之助「やあ」
ファイナル「単刀直入に言う。お前が何故これを持っていた」
霖之助「…君は、「平行世界」を知っているかな?」
ファイナル「知ってるも何も…少し前に自分自身と会ったことがある訳だし」
霖之助「その魔法具は、君が出会った君の物だった。と、僕は思う」
ファイナル「と思う?」
霖之助「なにせ確信がつかないのさ。ソレについては君に任せるよ。」
ファイナル「…処分する」
霖之助「もったいないね」
ファイナル「持ち主が無くなったこれは危険な物だからな。お前が触ってこの辺り一体が消えなくて良かったな」
霖之助「どういう…」
店の外に出る。
ファイナル「見てれば分かる…そら!」
空に投げる。
霖之助「…うわっ!?」
ファイナル「危ね…あと少し遅れてたら巻き込まれてたな」
円形の爆炎。
魔法具の核を融解させ、巨大な爆発を起こす、
「メルトダウン」。
霖之助「なるほどね…君が言ってた事が良くわかったよ」
ファイナル「…これから気をつけろよ。じゃあな」

再び白玉楼
妖羅「…」
ファイナル「隣、いいか?」
妖羅「うん」
ファイナル「どうしたんだ。そんなに落ち込んで」
妖羅「…最近、影のやり方はだんだん手段を選ばなくなっている。俺達を殺すためなら、全く無関係の人だって殺す。…実は、人里に仲良くしてくれてる女の子がいるんだ。…いつかその子も殺されると思うと…」
背中が震える。
ファイナル「死ぬ気で守れ。…俺みたいになるなよ。」
妖羅「え…俺みたいになるな、って…」
ファイナル「そうだ。俺も、子供の頃に仲良しだったやつがいた。俺はあいつすら守れずに…無力を嘆いた。何度も、何度もな。」
妖羅「父さんが…」
ファイナル「大丈夫。お前はあの時の俺よりもずっと大人だ。」
妖羅「でも…」
ファイナル「お前の力は、何のためにある?」
妖羅「俺の…力?」
ファイナル「お前の刀は、何を守る為に何を斬る?」
妖羅「…!」
ファイナル「それにはお前なりの答えがあるはずだ。違うか?」
妖羅「そうか…そうだよね。ありがとう、父さん」
ファイナル「妖羅、ちょっといいか?」
妖羅「え、なに?」
ファイナル「こっち来いよ。」
寄り添う。
そのまま抱かれる。
妖羅「父さん?」
ファイナル「お前が産まれた時にしか抱いていなかったんだ。…それでも腕が覚えてるんだ。この大きさだったんだ、ってよ。…大きくなったな、妖羅。」
妖羅「…うん。父さんのおかげで…こんなにも、ね」
ファイナル「ありがとな。もういいぞ」
妖羅「こっちこそ。今日はありがとう!」

霊夢「ねぇ、魔理沙」
魔理沙「なんだよ、霊夢。」
人里。
珍しく飛ばずに歩いて白玉楼へ行く。
霊夢「この耳障りな言葉、誰に向けてだと思う?」
魔理沙「さあな。こんだけ嫌われてんならさぞかし恐ろしいやつなんだろうな。」
霊夢「…」
魔理沙「…現実はそう甘くないぜ。お前もわかってて聞いてきたんだろ?それで答えが変わるなんてことは無いぜ。」
霊夢「そうよね…」
魔理沙「私達に出来ることは、あいつに降りかかる言葉の雨を私達が傘になって受け止めることだ。」
霊夢「たまにはいい事言うじゃない。」
魔理沙「一言余計だぜ。ったく…」
?「あら、奇遇ね。あなた達も白玉楼に行くの?」
霊夢「レミリアじゃない。あんた飛べるんじゃないの?」
レミリア「今日くらいいいじゃないの。でも…なんでかしらね。ここに来ると何故か悲しくなる。まるでここだけ幻想郷とは違う場所のような…そんな気がするわ」
魔理沙「なあ、今度の運命はどんなだ?」
レミリア「…お先真っ暗って感じよ。」
魔理沙「まあいいや。行こうぜ」

白玉楼へ続く階段。
霊夢「桜も散り始めてるわね」
魔理沙「桜は散る時が1番美しいってな。」
レミリア「幻想郷は四季折々の景色が見れるのがいいわよね。次は…向日葵かしら」
霊夢「でしょうね…あいつに目をつけられるとヤバいけど」
魔理沙「そろそろ着くぜ」
レグルス「お待ちしておりました。」
魔理沙「おう。レグルス。」
レグルス「ご案内致します」
霊夢「白玉楼も賑やかになったわね」
行き交うのは顔見知りばかり。
レグルス「こちらの部屋です」
レミリア「…久しぶりね、ファイナル。」
ファイナル「お前もな。レミリア」
霊夢「変な噂ばっかりよ?人里。」
ファイナル「知らねぇな」
レミリア「ファイナル。あなた最近影を見た?」
ファイナル「いいや。」
魔理沙「お前もか。」
ファイナル「来られても困るけどな」
魔理沙「ここまで何もないと体がなまってるんじゃないのか?」
ファイナル「試してみるか?」
魔理沙「お?乗るぜ?」
レミリア「やめなさいよ」
ファイナル「まあ、冗談は置いておこう。影についてだが…幻想郷内部では全く見つからない。全くだ。」
レミリア「竜の国は?」
ファイナル「ちょくちょくって所だ。」
霊夢「嵐が来るわね…」
ファイナル「嵐で済むといいが」
魔理沙「…いつ頃に来るとかは」
ファイナル「分かるわけねぇよ」
魔理沙「だよな」
ファイナル「その日が勝負だ。せいぜい、頑張ろうぜ」
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