第8話 虐げられ、奪われてきた未来

文字数 2,943文字

「…巫女さんの言うことは信じられねぇ。あいつが?俺らを?守ってくれただぁ?ざけんじゃねぇっ!!」
何人もの人がそれに賛同する。
「そうだそうだー!」
「擁護するなー!」
「今日会ったら絶対に殺せ!いいな!」
「おー!!」
─その様子を陰から聞いている人物がいた。
ファイナル「言ってくれるな、あのクズ共」
エンド「無駄に怒声を張ってさ。やかましいよ、ほんとに」
イゼ「ねぇ、兄様…本当にやるの?」
ファイナル「じゃあなんの為にここまで来たんだ?」
イゼ「うぅ…」
ファイナル「正直、お前が付いてくるとは思わなかった」
イゼ「え?」
ファイナル「いつも通り白玉楼でじっとしてくれてると思い込んでた」
イゼ「兄様?」
ファイナル「憎いんだろ?奴らが。それでも憎めきれないんだろ?」
イゼ「…なんで私の気持ちを知ってるの?」
人間が憎いって事。
でも何故か…憎めきれない。
ファイナル「皆同じだからだ。憎悪の深さは違っても、俺達は皆少なからず人間への憎悪がある。」
イゼ「兄様…」
やっと気づいた。
私だけじゃない。
エンド兄様も私と同じだ。
憎悪があるのに、下手に親切にされるから振り切れない。
エンド「…イゼ、お前の背中は俺達が守るから…自信を持って。イゼは大切な家族なんだ。絶対、見捨てないよ」
イゼ「エンド兄様…!」
声が湿る。
ファイナル「俺達の逆鱗に触れ続けるとどうなるか…見せつけてやろうぜ」
エンド「ああ!」
イゼ「うん!」
その感情は醜いはずだった。
だが、今の俺達の瞳は生気に満ちている。
──今までの不満を全部ぶちまけてやる。

「─見つけたぞ!あそこだ!」
ファイナル「…小銃なんてどっから持ってきやがった…」
エンド「影でしょ」
イゼ「だよね」
ファイナル「影か…」
イゼ「あったるっかな〜♪」
軽い銃声。
次いで向こうから人の悲鳴が聞こえた。
イゼ「いぇいえい!ビンゴ〜♪」
エンド「珍しく上機嫌だね」
イゼ「え、だって兄様達と戦えるんだよ?嬉しいじゃん!」
そっか、そういえば久しぶりだな。
秒で納得する。
エンド「兄さんはどうおも─って兄さぁん!?」
銃弾の雨あられの中を突っ走っていく。
エンド「なんで当たらないんだよ…おっぶね!」
イゼ「もういっそ突っ込んじゃおうよ。その方が安全かも。」
確かに奴ら…身を出さずに撃ってるな…
エンド「よし、イゼ。次の銃声が止んだら行くぞ」
イゼ「了解」
─切れた!
エンド「行け!」
銃は弾丸を全て撃ち尽くせば一発目の弾を装填する時間がある─1秒にも満たない数字が。
その1秒は銃を使う人物の熟練度によって伸びる。
ましてや奴らはド素人─
簡単だ。
ファイナル「よくやった」
エンド「これくらい出来なくて何がゼロ部隊だ」
奴らは明後日の方向を撃っている。
ファイナル「斬るなよ。面倒な事になる」
イゼ「…はーい」
リロードに入る瞬間…
飛び出す。
1番手前にいるやつに飛び蹴り。
何人かが気づく。
遅い!
まず1人を背負い投げの要領で投げる。
そのまま前方を蹴って薙ぎ払う。
拳を見切って─カウンター。
刀の鞘で横腹を突く。
…首謀者が見えた。
「野郎─!」
ライトマシンガン(LMG)だぁ?
転がってるやつを盾にする。
そのまま突撃。
撃てるか?な訳ねぇだろ?
大事な仲間だもんなぁ?
「うっ…」
喉元に辿り着く。
「あ、悪魔め…!」
ファイナル「どうとでも言え。裏でこの世界を救ってる。その事実は変わらない。ところでお前。この武器はどこから調達した?」
「…昨日だ。昨日、黒い服を着た奴らが置いていった。「奴らを仕留めろ」つってな…!」
ファイナル「…バカが」
突き飛ばす。
ファイナル「そいつらの方が悪魔なんだよ。てめぇみたいなクズはまんまと口車に乗せられる。そのせいで俺達は苦労してきたんだ。…だから人間は嫌いなんだ…」
「じ、じゃああの巫女はどうなんだよ…!」
睨む。
殺意を込めて。
体が震えるのが見える。
ファイナル「いいか。『信頼』と『憎悪』は違う。根本からな。俺はあいつらを信頼できるし、その根拠もある。だが…お前達は今後も一切信頼しないからな。俺達が来た頃の人里に戻るように祈ってるぜ」
それだけ吐き捨てる。
エンド「兄s」
ファイナル「行くぞ。1秒でもここを離れたい」
3人が文字通り「暴れた」のなら、この程度では済まないことを幻想郷は知っている。

ファイナル「大丈夫だったか、イゼ」
イゼ「兄様。うん、大丈夫。」
フィル「ファイ義兄(にい)!イゼ義姉(ねえ)!」
すっかり幼い頃の呼び方になったフィルだ。
─一度死んでいるとは思えない。
ファイナル「どうした?フィル」
フィル「トランプやろう!」
ファイナル「トランプか…いいよ、やろう」

ババ抜き
フィル「俺からね。」
数分後。
ファイナル「あがりだ」
イゼ「嘘ぉ!?」
フィル「はっや!?」
更に数分後…
残り1枚。
フィル「ぐ…こっち!…っしゃ!!」
イゼ「あーあ。負けちゃった。」
フィル「次やろ!」
1時間後…
フィル「ダメだ…ファイ義兄に勝てない…」
ファイナル「珍しく運がいいな。自分でもびっくりしてる」
妖夢「ファイナル、竜の国からお客さんだよ?」
ファイナル「ん、すぐ行く」

マーク「よっ!ファイナル!」
ファイナル「帰れ」
マーク「開口一番にそれか!?」
ファイナル「やかましい。そもそも何しにここへ来た」
マーク「うーん…暇つぶし?」
ファイナル「失せろ」
マーク「冗談!冗談だ!」
ファイナル「次は無いぞ」
マーク「お前…こいつを覚えてるか?」
その写真…顔を見ただけで分かる。
ファイナル「こいつがどうかしたのか」
マークの顔が事務的な顔になる。
マーク「度々城に顔を出してはちょっかいを出してる。たまに小競り合いになることもあるそれと…先日、2人が行方不明になった一応見つかったが…」
ポケットからもう1枚の写真を差し出した。
既にぐちゃぐちゃだ。
こいつなら普段絶対しないはずだが…?
ファイナル「…」
なるほど。
マーク「…俺の同期だ。城内で非戦闘員だったんだが…」
ファイナル「相当弄ばれたな。可哀想に…」
致命傷となる所をとことん避けてやがる。
ファイナル「…すまない。お前達の魂にせめて安らかな眠りを─」
マーク「ファイナル…」
ファイナル「─俺も幼い頃にやられた。手足を撃たれて、腕を切られて…満足するまで殴られ蹴られ…まるで生きている「玩具」のように扱われた…あの瞬間のことはまだ覚えている。」
しかもそれはアイゼンが死んだ日。
「殺してくれ。」
懇願しても死ねない、死なせてくれない。それどころか傷が消えていくこの体を憎んだ。
挙句の果てにはたった一つのアイゼンとの思い出まで砕かれ…
ファイナル「っ!」
机を叩く。
じーんとした痛みが現実に戻してくれる。
ファイナル「…それで、向こうではなにかあったか?」
マーク「…『見つけ次第即刻拘束せよ。生死は問わない』と」
ゆっくりと腰を上げる。
ファイナル「状況はわかった…しかし、そいつがこっち(幻想郷)にいないとは限らない。お前達は竜の国を頼む。皆も不安がってるだろう」
マーク「ああ。ソル様もお前に会いたがってる」
ファイナル「近い内に行ければいいんだが」
マーク「とりあえず元気そうで何よりだ。俺はこれで帰らせてもらう」
ファイナル「─いい所だろう?」
マーク「そうだな。気に入ったよ。」
スキマに消えるマークを見送り、呟く。
ファイナル「…死ぬなよ…頼むから…」
1人の友として、そして仲間として、祈った。

END
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