第6話 白玉楼にて

文字数 3,698文字

依然として雨は振り続ける。
雨は地面に空を作り、また、海を作る。
イゼ「ん─」
目を開ければそこには見慣れた人影が座っていた。
博麗「起きた?おはよう。」
イゼ「れいむさ─」
いや、違う─
イゼ「あなたは?」
博麗「博麗霊夢よ。ただ、あなたが知る霊夢とは違うけどね。」
それで理解出来る自分がおかしく思える。
でもいい。
霊夢「起きたのね。倒れる前までの事、覚えてる?」
霊夢さんが2人。その状況がおかしいってことに気付け、自分。
イゼ「うん、覚えてるけど…」
そんで素直に答えるな、自分。
白玉楼の風呂は露天風呂だ。
一応、外から見られぬように仕切りがあり、ドアもついているのだが…
流石に素っ裸で助けを呼びに行くのは無理だった。
その結果がコレである。
女性全員が浴室内で倒れる、という結果だ。
博麗「まだサクラも起きないわね。流石にあとちょっとしたら自然に起きると思ってるけど」
イゼ「にしても…私達を閉じ込めたのは誰だろう?」
博麗「多分…アイルだと思う。」
霊夢「それとも…まだ姿を見せてない誰かか…」
博麗「それは無いわ。今この世界にはアイルの霊気しか感じないから。」
霊夢「そうなの。私にはわかんないわね」
博麗「分からなくていいわよ…貴女まで堕ちなくてもいい─」
博麗の目は空の彼方を見つめていた─

妖夢「幽々子様…大丈夫ですか?」
幽々子「あなたこそ。まともに吹っ飛んだでしょうに…」
妖夢「私はなんともありませんよ。それよりも幽々子様。体が冷えます。こちらへ」
妖夢が上着を幽々子に被せる。
雨は2人を徐々に濡らしていく。
幸いなのは屋根がその雨をほとんど防いでくれることだ。
妖夢(早く誰かと会わないと…)
「…お、妖夢じゃないか」
魔理沙によく似た声。
だけど気配は違う。
妖夢「魔理沙─じゃない…?」
魔理沙「…そっか。今はこっちの世界に来てるんだったか─」
黒い魔女服。
少しだけ泥が付いている。
魔理沙「私の事は「霧雨」って呼んでくれ。」
そう言ってこちらを見た顔は少し凛々しく見えた。
特に目が行くのは目の傷だ。
霧雨「この傷はあまり聞かないでくれ。」
妖夢「えっう…うん」
霧雨「この先の白玉楼に行くんだろ?早く行こうぜ。」
妖夢「あ、ならちょっと待ってて…」
霧雨「ああ、幽々子か」
霧雨はすっかり忘れていたような調子で言った。そして、
霧雨「─いつぶりだ、幽々子に会うなんて─」
と、呟いた。

幽々子「意外と早かったのね。…あら?あなた…」
霧雨「私は霧雨。別世界の魔理沙だ。」
幽々子「そう。よろしくね。」
霧雨「─あぁ。」
傷がある右目を帽子で隠しながら頷く。
基本的には、だ。
気にしなくていいのは…霊夢達といる時と、戦闘中だけだ。
白玉楼に着くまではしばらくかかった。
久しぶりに見る建物は昔と全く変わっていなかった。
ルイン「来たか」
霧雨「おう。待たせたな」
ルイン。別世界のファイナルだ。
向こうのファイナルとは、性格も、姿も少しずつ違うがな。
ルイン「博麗。奴らはどうなってる?」
博麗「少しずつ起き始めたわよ。今の所はイゼ、サクラくらいかしらね」
ルイン「そうか」
霧雨「ここに来るまでに影の襲撃はなかったぜ。しばらくは安全そうだ。」
ルイン「油断はするなよ。毒に溺れるのは俺だけじゃないからな」
霧雨「ああ。わかってるぜ。」

アイル「ちぇー。あいつらすぐ逃げちゃう。つまんないなー。」
魂魄「ぅ…っ…」
途切れ途切れになる意識。もうどれくらい毒を浴びたのだろう。
アイル「まだ死なないでね。というか死なせないからね。」
いっそ殺してくれた方が楽なのに─
そう考えるのは無駄だった。

妖羅「うーん…」
外は土砂降りもいいとこだ。ガラスに叩きつけるように降る雨はまるで俺に八つ当たりでもしてるんじゃないかと疑う程だ。
妖羅「割れたりしねぇよな…さすがに」
廊下に出る。相変わらず長い。
妖羅「妖奈〜」
妖奈「なにー?」
角からひょっこりと現れる。
妖羅「うおう…びっくりした…アイの事なんだけど」
妖奈「さっき上に行ったよ。多分咲夜さんに家事を教えて貰ってるんじゃない?」
妖羅「ああ、なるほど…」
一通りの家事も出来ないから教えてるんだ。
妖奈「にしても凄い雨だよねー。」
妖羅「全くだよ。そのうちガラス割れるんじゃないの?」
冗談のつもりで言う。
妖奈「アハハ!そんな訳ないじゃん!」
妖羅「はは。そうだよな。そんな訳─」
ピシッ
隣にあった窓にヒビが入る。
妖羅「え…」
咲夜「離れて!」
その瞬間、ガラスの破片が足元に広がる。
─少しでも遅れていたら。
その先は考えない事にする。
咲夜「ほら、向こうに行ってて。」
妖奈「あ、はい…」
咲夜「あ、それと…」
妖奈「なんですか?」
咲夜「くれぐれも、この雨には濡れないようにね。」
妖奈「?わかりました…」
咲夜さんの言ってたことはすぐに分かった。
─気を失ったレグルスさんが運ばれてきたんだ。
ロッキー「ちいっ…!レミリア!急げ!」
レミリア「わかってるわよ…!」
どうやら相当危険な状態らしい。
ロッキー「お前ら、ちょっと手伝え」
妖羅「もちろんだよ。何をすればいい?」
ロッキー「とりあえず風呂を沸かして来い」
妖奈「私が行ってくる!」
ロッキー「妖羅、服脱がすぞ」
妖羅「分かった。」
この毒は外からの来訪者に限り、効果を発揮する。
それは雨に濡れれば濡れるほど体の感覚を奪っていくものである。
次第にその被害は酷くなっていく。
大抵の死因は空腹を感じなくなることによる餓死と無痛覚による失血死だ。
レグルス「…ろ…き……が…ぅ…」
ロッキー「喋るな、レグルス。大人しくしてろ ろ」
妖奈「お風呂沸いt…」
妖羅「わーっ!」
大丈夫だよな!?ギリギリ見てないよな!?
ロッキー「よし妖奈、こっちを見るなよ。後ろ向いて目瞑ってろ」
妖奈「はーい」
レグルス「いいや…もう、歩けますから…」
ロッキー「うるせぇ。そんなフラッフラな歩き方で何が大丈夫だ。大人しくしてろ。」
結局、浴室までついて行くことになった。
ロッキー「ゆっくりな。十分に温まってから出て来いよ。」
レグルス「わかり…ました…」

ロッキー「とりあえずは片付いたな…」
妖羅「ロッキーさん、何があったんですか?」
ロッキー「毒雨だ。」
妖羅「毒雨?」
ロッキー「俺たちみたいな『外からの来訪者』に対して毒性を持つ雨だ。レグルスはそれに当たりすぎた。あれで済んだのは幸運だったな」
妖羅「え…どうして」
ロッキー「死ぬからだよ。脳が動かなくなればつまるところ死を意味する。お前らも気をつけろよ」
なるほど…だから咲夜さんが…
妖羅「わかったよ。気をつける。」

霧雨「…こんな時に」
ルイン「黙ってろ。」
妖夢「…まずいよ、ファイナル」
ファイナル「馬鹿でも分かるだろ。この状況…」
白玉楼全体を囲まれている。
霊夢「…来るわよ」
その一言で各々の構えが深くなる。
障子が蹴破られる。
「うらあああああああぁぁぁっ!?」
やかましい叫び声は一瞬で叫び声に変わる。
刀を振るう事に鮮血が弾ける。
圧倒的物量。
その一言に尽きる。
─ここで俺が弱気になってどうする。
折れてどうなる。
俺は…
俺の力は─
貴様らを消し去るために在る─
ファイナル「失せろぉ!」

キルア「──」
かすかに聞こえる…
この音は─
─戦闘音。
行かなければ。
白玉楼の周りに数え切れないほど居る。
なら、尚更─
だが、動けない。
動かないのだ。全く。
─横を見る。
そこには自分と同じような症状に見えるレイルとサクラがいた。
幽々子「落ち着きなさい」
キルア「幽々子さん─」
幽々子「今のあなたたちなら逆に足を引っ張るわよ」
分かりきってた事だ。
言われなくても。
…言葉が刺さる。
何も出来ない自分が憎らしい。
外から声が聞こえる。
あの人の声だ。
私は─祈ってるから。
─貴方の無事を。

「そあっ!」
1人に構ってなどいられない。
常に3人以上を相手取る。
ファイナル「…今更、屈せるか」
周りの空気が凍てつく。
それが殺気だと気付かない馬鹿はここにはいない。
それでも向かってくるか。
「うおおおおぉっっっ!」
ピキン!と音を立て、影が持っていた剣が折れる。
「なにっ…」
腕に纏った結晶。
下手な刃は返される。
ファイナル「これでも来るか?」
やかましい叫び声だ。
いつ聞いても。
抑えていた感情が湧き上がってくる。
ファイナル「─来い」
その感情は器から静かに溢れた。

博麗「向こうで嫌という程味わった苦痛に比べれば何もかも軽い…」
敵の攻撃をするすると躱す。
弾幕で怯ませ、刺突。
博麗が持っているお祓い棒は刀が仕込まれている。
短いが、それでも十分すぎるほどの殺傷力がある。
博麗「この冥界に散るのは…私達か貴方達か─どちら?」
霧雨「っと。待たせたな」
博麗「待ってない。むしろ邪魔」
霧雨「そういう事言うなよ。」
傷目の魔法使い。
正義?
人の為?
私が動くのはそんな単純な理由じゃない。
それだけ、覚えとけ。
霧雨「失せろ。」
ミニ八卦炉から放たれる極太レーザー。
霧雨「…やりすぎたか?」
博麗「ちょうどいいと思うわよ」
魔法は魔力をどう扱うかだ。
今はもう火力に興味が湧かない。
霧雨「…でも、こいつだけはいつまでも変わらないんだ」
ぎゅっ…とミニ八卦炉を握り締める。
霧雨「…行こうぜ。まだ居るんだろ?」
博麗「ええ。行きましょ」
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