2◆出口のない部屋
文字数 1,598文字
「それであなたのお名前はなんと言うのかしら?」
「あっ、琶右 って言います」
「そう、よろしくね琶右 」
慌ただしく答える琶右 に、年端もいかぬ少女は礼儀正しく答える。
「はい……でも、可愛い女の子ってなんのことです?」
琶右 は自らがそんな大層なものではないと否定しようとするが、アリエルの柔らかな指が桃色の唇に封をした。
「どこでどんな評価をされようとも、ここではあなたは可愛い女の子なの。
だってここの主人はあたしで、そのあたしが言うんだもの。間違いないわ」
少女の理屈を否定しようとする琶右 だが、そこで自らの姿が変化していることに気づいた。
座っていることを差し引いても視線が低い。
試しに立ってみても小柄なアリエルと目線の高さが思ったほど変わらなかった。
肌に疲れなどなく、きめ細かで輝いてすらいるようにみえる。
――信じられない。
顔に手を当てると、将来が遙か遠くに見えていた十代 の頃の感触だった。
そしてようやく気づく。
自らもアリエル に負けず劣らず破廉恥な格好であることに。
彼女は今、大胆なカットの桃色のキャミソール一枚しか身につけていない。
第二次性徴を迎えている分、アリエルよりもずっと扇情的だ。
羞恥で顔を炙られた琶右 は、少しでも露出部分を減らそうと薄い布地を懸命にひっぱる。
だが下へ引き太股を隠すと、こんどはその分胸の露出が多くなった。
そもそも生地自体がうっすらと透けていて、それだけでも彼女の羞恥の限界を凌駕している。
自らの裸体を少しでも隠そうと奮戦する琶右 の背後にアリエルがこっそり回り込む。
そして悪戯っ子のように裾 をめくると被害者 に大きな悲鳴をあげさせた。
「恥ずかしがることなんてないわ、ここにはあたし以外誰もいないのだから。
あなたは部屋で着替える時や、お風呂に入るときもおなじように恥ずかしがるの?」
「でも、だって……」
曇りのない空色の瞳で見つめられ琶右 はたじろいで視線を逸らす。
同性と風呂に入ったところでさほど気になるところはなが、見知らぬ少女と密室で互いに裸同然の格好。
そして相手が自分にただならぬ興味を持っているとなれば、警戒に似た感情が湧き上がるのもしかたない。
――そういえば
琶右 はあたりを見渡し異変に気づく。
部屋を均等に囲む五枚の壁のどれにも扉がついていないのだ。
ならば自分はどこから入ってきたのだろうか。
天井を確認すると、半球状になっていてそこにはプラネタリウムのように星が描かれていた。
星が写実的に描かれている割に、正座がデタラメに配置されているのが気にかかったが、やはりそこにも出入口となるような箇所はない。
壁のどこかに隠し扉があるのだろうかと茶色の瞳を向けると、そこに描かれた怪獣が形を変えていることに驚く。
最初は気のせいだと思ったが、彼女が目を離す度に極彩色の怪獣はその姿勢を変えていた。
「ここはいったい、なんなんです。
私なんか連れ込んでどうするつもりなんですか!?」
急激にもたらされた混乱は琶右 に大きな声をあげさせた。
「別にあたしがあなたをここに連れてきた訳じゃないわ。
むしろあなたが勝手に入ってきたの。もっとも退屈してたから来客は歓迎なのだけれど」
アリエルは動じる様子もなくそう説明する。
「あたしが自分で入ってきた……この部屋に?」
「あるいは、こわ~い怪獣に追われて逃げ込んできたのかもしれないけれど」
怪獣と言われ琶右 は極彩色のイラストを警戒する。
だがその怪獣たちは姿形をこそ変えこそすれど、壁の中から出てくる様子はなかった。
「あっ、
「そう、よろしくね
慌ただしく答える
「はい……でも、可愛い女の子ってなんのことです?」
「どこでどんな評価をされようとも、ここではあなたは可愛い女の子なの。
だってここの主人はあたしで、そのあたしが言うんだもの。間違いないわ」
少女の理屈を否定しようとする
座っていることを差し引いても視線が低い。
試しに立ってみても小柄なアリエルと目線の高さが思ったほど変わらなかった。
肌に疲れなどなく、きめ細かで輝いてすらいるようにみえる。
――信じられない。
顔に手を当てると、将来が遙か遠くに見えていた
そしてようやく気づく。
自らも
彼女は今、大胆なカットの桃色のキャミソール一枚しか身につけていない。
第二次性徴を迎えている分、アリエルよりもずっと扇情的だ。
羞恥で顔を炙られた
だが下へ引き太股を隠すと、こんどはその分胸の露出が多くなった。
そもそも生地自体がうっすらと透けていて、それだけでも彼女の羞恥の限界を凌駕している。
自らの裸体を少しでも隠そうと奮戦する
そして悪戯っ子のように
「恥ずかしがることなんてないわ、ここにはあたし以外誰もいないのだから。
あなたは部屋で着替える時や、お風呂に入るときもおなじように恥ずかしがるの?」
「でも、だって……」
曇りのない空色の瞳で見つめられ
同性と風呂に入ったところでさほど気になるところはなが、見知らぬ少女と密室で互いに裸同然の格好。
そして相手が自分にただならぬ興味を持っているとなれば、警戒に似た感情が湧き上がるのもしかたない。
――そういえば
部屋を均等に囲む五枚の壁のどれにも扉がついていないのだ。
ならば自分はどこから入ってきたのだろうか。
天井を確認すると、半球状になっていてそこにはプラネタリウムのように星が描かれていた。
星が写実的に描かれている割に、正座がデタラメに配置されているのが気にかかったが、やはりそこにも出入口となるような箇所はない。
壁のどこかに隠し扉があるのだろうかと茶色の瞳を向けると、そこに描かれた怪獣が形を変えていることに驚く。
最初は気のせいだと思ったが、彼女が目を離す度に極彩色の怪獣はその姿勢を変えていた。
「ここはいったい、なんなんです。
私なんか連れ込んでどうするつもりなんですか!?」
急激にもたらされた混乱は
「別にあたしがあなたをここに連れてきた訳じゃないわ。
むしろあなたが勝手に入ってきたの。もっとも退屈してたから来客は歓迎なのだけれど」
アリエルは動じる様子もなくそう説明する。
「あたしが自分で入ってきた……この部屋に?」
「あるいは、こわ~い怪獣に追われて逃げ込んできたのかもしれないけれど」
怪獣と言われ
だがその怪獣たちは姿形をこそ変えこそすれど、壁の中から出てくる様子はなかった。