蜜時のアリエル ―全年齢版―

5◆アリエルの耳掃除

エピソードの総文字数=2,783文字

 あたりに散らばったヌイグルミをぞんざいに蹴飛ばすと、アリエルは絨毯の上に空いた場所を作った。
 抱えていた大きな羊のヌイグルミを置き、それを背もたれに足を伸ばして座る。

 そして揃えられた腿を軽く叩いて、琶右(わつき)に頭を乗せるよう促す。
 琶右(わつき)は相手の要求に従い、身体を横に倒すと誘われるがまま頭を乗せた。

 肉付きの薄い股に、耳と頬が直接触れる。アリエルの低い体温は、火照った琶右(わつき)には心地よかった。

「お客様、当店自慢の枕の具合はどうです?」
「控えめに言って最高です」
 フザケたアリエルの口調に琶右(わつき)も笑って合わせた。

「それじゃ、楽しい時間を始めましょ」
 そう宣言すると、アリエルは細い指で琶右(わつき)の髪を優しく梳いて柔らかそうな耳殻を露出させる。
 そこに息を吹きかけると、琶右(わつき)の身体をくすぐったそうに揺させた。

 アリエルは琶右(わつき)の視界の外で自らの金髪の端を手にしてよじる。
 するとそれは先っぽに(さじ)がついた耳掻きへと変化した。

 自らの髪とつながれた白金色の耳掻きを丁寧に琶右(わつき)の耳殻に当てる。

 琶右(わつき)は自らの耳にふれたソレが通常の耳掻きと感触がちがうと気づいたが、まさかそれがアリエルの髪だとは想像もしない。
 ただ綿棒よりも柔らかく、ほのかに暖かな耳掻きの心地に癒やされていく。

 夢とはいえ、子供相手に耳掃除を頼むことに不安はあったが、それはまったくの杞憂だった。

 アリエルは彼女の耳殻の溝に丁寧に耳掻きをはわせ、その汚れを取り除いていく。

琶右(わつき)はいろいろ苦労してるみたいね」
「うん、まぁ……それなりに」

「ふふっ、ここでくらい正直になってもいいのに」
 曖昧に濁された答えにアリエルが笑う。

 琶右(わつき)は話題を変えようと熟練の耳掃除屋に質問をした。

「それより、ひょっとして私の耳って結構汚れてるの?」
「そうね、ちょっと溜めすぎかも。
 でもここに来る人はたいていそうだから」
 言葉をボカしてはいるが、それは肯定を意味している。

 耳の中とはいえ、不清潔であると少女に指摘され琶右(わつき)はほんのりと傷ついた。

 耳殻の掃除が終わるとアリエルはそこに軽いキスを落とす。
 琶右(わつき)にまだ照れは残っていたが、心地良さが勝りされるがままだ。

 白金色の耳掻きが外耳道へと入り込む。
 温もりと弾力性をもったソレはいとも簡単に琶右(わつき)の中へ挿入されると、なめ回すようにその場を這い回った。

 それは通常の耳掃除では決して味わえないような甘美な感覚だった。

 丁寧な運びはアリエルの優しさを感じさせた。
 それは感謝という薬剤に変わり琶右(わつき)の警戒心を解かしていった。

 それとともに琶右(わつき)の身体がツボを刺激されたように熱を帯びていく。

「なんだか身体が暑いわ」
「東洋医学だと、身体は冷やすよりも暖めるほうが良いらしいわよ」

 琶右(わつき)の言葉を適当に流しながら、アリエルは耳掻きを奥へ奥へと進ませていく。

 刺激は更に強くなり、不安がこみ上げてきたが、琶右(わつき)は奥歯を噛んでアリエルを信じた。

 強くなっていく刺激に、琶右(わつき)の呼吸が次第に荒くなる。
 身体に浮いた汗が薄手のキャミに吸われるとそれまで以上に体型を露骨に晒していた。

 琶右(わつき)のなかに表現しがたい疼きが生じる。
 それを契機に刺激の質がちがう形に推移していく。

 それはこれまで彼女が経験したどんな行為よりも心地よい快楽であった。
 快楽はアリエルが動く度に訪れ、琶右(わつき)の脳を溶かしてしまうのではないかと恐怖させた。

 一度は捨て身になった彼女だが、不安が強くなれば危機感も目を覚ます。

「アリエル、そろそろ、もう……」

 掠れる声で訴えるもののアリエルは「もう少し」「大丈夫だから」と歯医者のような言い分で作業を続ける。
 その表情には楽しそうな笑みが浮かび、瞳はいつのまにか夕暮れの満月のように赤く染まっていた。

 そうしている間にも琶右(わつき)はより深い快楽へと沈められていく。

――これ以上は無理
 耐えきれなくなった琶右(わつき)は、耳掻きが入ったままにも関わらず逃げ出そうとした。

 だが彼女の身体は拘束されたように動かない。

 それもそのハズ、琶右(わつき)の身体は人間の手を形どったアリエルの髪で抑えられていたのだ。
 どれだけ力を振り絞ってもみじろぎひとつできない。

 そうしている間にも、刺激は強化されていき、彼女は目に見えぬものに追いつめられていく。

 意識が明滅し、正常な思考から遠ざけられる。

 彼女は逃げるよう、求めるよう、必死に見えない階段を駆け上っていく。
 身体は身じろぎひとつできない、疾走しているのは彼女の意識だ。

 そして頂点を踏み越えた瞬間、琶右(わつき)の意識は宙を舞った。

「――――――――っ!」

 固定されていた身体が勝手にのけぞり痙攣する。

 意識は己の居場所を見失ったが不思議と恐怖はなく、むしろ無我を得たように落ち着いていた。

 そして自分の心から何かが剥がれ落ちたのを琶右(わつき)は感じていた。

 少しずつ呼吸がなだらかになり、瞼を半分ほどもちあげるとアリエルが慈愛の表情で見下ろしていた。

 アリエルは奥深い場所に入れた耳掻きを引き抜くと、そこに付着した黒い垢をフッと息で飛ばす。
 垢は宙で膨らみキツネを模すと、床を転がり他のヌイグルミたちの中に混ざった。

 琶右(わつき)は視界に入りこんだヌイグルミ(それ)を虚ろな瞳でみつめる。
 キツネの意地悪な顔つきは知っている誰かのもののように思えたが……それを明確に思い出すことはできなかった。

「どう、スッキリしたでしょ?」
「…………うん」

 心地の良いまどろみに沈んでいた琶右(わつき)は漠然と返事をする。

 いまの気持ちを無理に言葉にする必要はない。
 それで相手(アリエル)もわかってくれるハズだ。琶右(わつき)は微睡みの中でそう夢想していた。

 だが現実はそうならなかった。

 アリエルは善意をもって非情な言葉を彼女へと告げる。

「それじゃ、次にいきましょうか。
 次もちゃ~んと気持ちよくしてあげるから楽しみにしてて」

 いましがた限界を超えたばかりの琶右(わつき)に、もう一度おなじことを繰り返せと言うのだ。
 快楽で達した境地とはいえ、連続で限界を迎えるのは拷問に等しい。

 アリエルは無垢さを装うと、琶右(わつき)の抵抗をものともせず、再び耳掻きを彼女の奥深くへと侵入させた。

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