第4話

文字数 460文字

「赤ちゃん、出来たんだ」
悪い予感は的中した。
「良かった、産んでくれ。僕頑張るから」
他の答えは持ち合わせてなかった。
「少し一緒に暮らして、そのうえで考えたい」
彼女の希望に、その夜から僕はしばらく彼女の部屋から仕事に通った。
夫婦みたいにスーパーで買い物。
彼女を労る僕。
穏やかな数日間、しかし、それは冷たく、仄暗かった。
「あなたの事は好きだよ。優しいし。でも、どうしても不幸な境遇に甘んじようとしてる様に見えちゃって…」
まただ。
僕は自分の生い立ちを不幸と思った事はない、つもりだった。
けれど、どっかで「こんな僕で良いのかな?」と思ってるから、好きと言われた相手を全力で好きになろうとする。
所詮は自己愛、相手は幸せじゃないのだろうか?
「今はお金ないけど、僕は君と子供居たら頑張れるんだ」
中卒。
底辺の仕事。
芽が出ないバンド。
大卒、大手ゼネコン、バンドだって僕のとこより調子良い。
どうしたって釣り合わない。
彼女が首を縦に振る事はなかった。
僕はあの馬券の金を彼女に渡して部屋を出て、病院に付きそった。
それきり、彼女と会う事はなかった。
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