1.気がついたら俺だけだった

文字数 2,798文字

なぜだ、なんでこうなった!

 西暦2950年、人類は太陽系を縦横無尽に航海していた。

 時は第二次大航海時代と呼ばれ、様々な惑星探査が行われているが、未だ人類が居住可能な惑星は発見されていない。

 地球はもはや人が溢れすぎ、自然とのバランスを考慮すると、もはや地球だけでは人類を支えられなくなっていた。
 そのため、急速に宇宙探査の技術が発展し、太陽系のあらゆる惑星へ進出することが可能になった。

 金星大気圏内、火星、月、軌道衛星、木星衛星の幾つかなど、強力な機械のサポートの元、なんとか人類は生活圏を広げていたが、環境は厳しく、溢れ出た人類を全て支えることは困難であった。

 火星と木星間にある宇宙ステーション「イェール」は、少しの努力をすれば人類が居住可能であろう惑星を発見していたが、いかんせん25光年も先にあったのだ。
 そこで技術者の叡知を結集させて生まれたのが、長距離転移航法...端的に言うとワープ技術。

 ワープ技術の開発成功のニュースは全人類の喝采をもって迎え入れられた。この技術があれば、将来的な人口爆発にも耐えうる。そう期待されたのだ。
 全人類の希望と期待を一身に受けた宇宙船ポチョムキンは、宇宙ステーションイェールから出航し、ワープを敢行した。

 宇宙船ポチョムキンは見事、人類居住可能惑星「ホープ」へと到着することができた。

いや、出来たんだが。

乗組員がいない!

もう一度言う、

乗組員がいない!

 全乗組員の宇宙服はある。しかし、中身がない。ワープの時にどうにかなったのだろう。乗組員のその後を想像したくない。

 通信は不能。ワープ技術が不完全だったため、ワープ技術を応用した超光速通信とかいう通信は機能しない。もしかしたら、通信機が故障しているだけかもしれないが。
 そんなことはどうでもいい!なんでよりによって俺一人なのだ。
いや、ひょっとしたら可愛らしい美女が残ってるかもしれない。

 俺はメインコンピュータ「シルフ」にアクセスし状況を確認することにした。
 シルフはポチョムキン号を管理するコンピュータで、最新の人口知能を搭載しており、船員の技術的サポート、船の自動操縦などトータルで俺たちを助けてくれる。人口知能搭載のため、非常時の柔軟な対応も可能という優れものである。

音声サポートももちろん可能なのだ。

「シルフ!船員の状況を確認してくれ!」

 シルフはファンタジーな小説によく出てくる「風の精霊」をモチーフにされており、俺たちがコミュニケーションを取りやすいよう会話用ホログラムを出すことができる。ホログラムの容姿は、緑色の髪に、水着姿。背中からは小さな羽がはえている妖精といった感じだ。サイズも俺の膝元くらいまでの身長になる。

俺の声に反応して、シルフは妖精のホログラムを投影した。

「残念、島田健二はボッチになってしまった」

 日本のアニメのような声で応答したシルフ...なんか態度おかしくないかこいつ。

「えっと、なんだその言葉使いは...」

「島田、わたしはあなたのような下っ端になんで遠慮しなきゃならないのかなー?どう?くやしい?」

怒りでプルプルしながら、ダメだここで切れてはいけない。

「船員の安否はどうなっている?」

「生体反応は無し、地球から25光年、ここにいるのは島田だけ」

ガッデム!怖いので船員のことは想像したくない。

「ワープに取り残されて、宇宙空間に裸で放置されたものと推測します」

 ギャー言うな言うな。そんな感じだろうなとは思っていたけど。容赦ないなこいつ。

「船に損傷箇所はあるか?」

「通信機が使用不能以外は、オールグリーン」
 
 ここにいてもジリ貧だ。とにかく通信さえなんとかなれば希望はある。
着陸し、長期滞在可能なら、修理もできるだろう。

 着陸候補地は2つ。極地域、赤道付近にある大きな大渓谷。
イェールからの観測結果では、平均気温は85度。気圧は1.5気圧。酸素濃度は2パーセント。重力は0.8から1.2。
 とにかく暑いので極地域と渓谷の下ならまだ気温もましだろう。太陽光を利用することを考慮すると、極地域のほうが有利だ。ただ、極地域は起伏が激しくプラント設置に支障が出るかもしれない。

「よし、大渓谷へ着陸しよう。頼むぞシルフ」

「島田。あなたやっぱりバカでしょー。観測機を飛ばすなり、先にやらなきゃいけないことあるんじゃないの?」

 シルフの言う通りだ。俺は船員がいなくなってしまったことに動揺していたのか、重要なことがいくつも抜けていた。
 通信機を修理するためには確かに、着陸し修理すべきかもしれない。しかし、ホープの観測は25光年先からの観測に過ぎない。

 液体の水が存在可能で、生命が生存可能なエリアをハビタブルゾーンという。
 ホープはハビタブルゾーン内にもちろん存在し、液体の水はあるだろうと推測される。
 大気の構成比率は二酸化炭素が60パーセントを占めると推測され、温室効果により現地平均気温が85度と計算されていた。
 これくらいの気温なら、上空や地下、極地域であれば、生命の生存に適した気候のはず。
 もし、生命が存在するのなら現地生命体を汚染しないよう、酸素プラントなどの環境構築設備の使用には、細心の注意を払わねばならない。
とはいえ、俺は現地生命体がもしいたとして、現地生命体に配慮する気はない。

 いや、語弊がある。現地生命体に配慮することで、自分の生命が脅かされるのなら、俺は現地生命体を犠牲にする予定だ。
まさしく、人類の敵たる行いではあるが、俺を観測できる人間は一人もいない。
 だから俺はせいぜい足掻いて、生き残ってやろうと思う。

「そうだな、シルフ。どうも動転してたみたいだ。現地の大気成分調査、地形調査を先に実行しよう。並行して生命体らしきものがいるかもしれないので、そちらも調査しよう」

「観測機の操縦は出来るのかなー?」

「残念なことに、俺はただの整備士だ」

「さすが島田!使えない!」

「分かってるくせに聞くな!船員のデータは持ってるだろう。素人でも出来る範囲で、残りは自動操作で頼む」

 そもそも、観測機やプラントは人一人でなんとか出来るものでもない。
 そのために船員は数十名いたわけだ。また、イェールとの通信しながらミッションを行う。幸いというか、緊急時のためにシルフ単独で出来ることはそれなりにある。

 担当する船員に不測の事態があったときのため、多量のマニュアルもある。

ようやく少し落ち着いて来た。まずは探査だ。

「俺のボッチライフがはじまる!ただの整備員島田は生きていけるのか。乞うご期待」

その通りだけど、お前が言うな!
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