5.きのこじゅーす
文字数 6,371文字
「先にアズールへ、俺からのお土産を見せておくよ」
俺は、長さ20センチほどの白銀のインゴットを取り出し、アズールへ見せた。
これは、白銀と呼んでいるが、地球の白銀と全く違い不思議な合金のことだ。
[ありがとうございます!私が一回で持って帰るより多いです。二回分くらいあるかも]
謎の羽音で喜びを表現するアズール。
「また取っておくから、白銀を集める時間でここへ遊びに来てくれないか?」
アズールのお仕事状況とか分からないし、多忙な中、白銀を取りに来ているのかもしれない。収集時間を歓談時間に使うなら大丈夫かと思った次第だ。
[あまり甘えるわけにはいかないのですが、そうしてもらえるのでしたら、お話する時間が取れます]
「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、まずは...アズール、あんたはどんなものを飲むんだい?」
[普段は水を飲んでます。水に溶けるキノコを混ぜたキノコジュースとか、ある種のシダの実を潰したジュースとかですね」
キノコジュース...不味そうなんだけど。今更だけど、物の名前が俺の知ってる単語に変換されているな。テレパシーは言語を翻訳するものではなく、意識を直接伝えるものだから、アズールのイメージが俺の持つイメージに近いものに変換されてるのだろう。逆もまた然り。
集落を見る限り、主な植物はシダ類か細菌類のキノコ類が主に見えた。食性もそれに近いのかな。カミキリムシって草食だし。
「甘いジュースとかはないのかな?」
[甘いジュースですか、キノコジュースで甘いものはありますよ]
またキノコか!果実系もありそうなんだけどなあ。裸子植物らしきものもあった気がするけど。ああ、裸子植物って果実は実らないか。種で食べれるようなものはありそうだけど、ジュースにはならないか。
せっかくの来客に出せるものがないのは残念だけど今は仕方ない。
「ん、下手なもの食べて消化出来なかったりしたら困るしなあ。今日は水で我慢してくれ」
と、シルフに頼み水を持ってきてもらった。
アズールは不思議そうに、クリスタルカーボン製のグラスを眺めた後、グラスに触れてビックリした様子。
[島田さん、これすごく冷たいです!]
「冷たいのはダメかな?」
[飲んだことありませんが、不思議な感じですね]
冷水に口をつけ、少しだけ口に含むアズール。ドキマギしながらもさらに口を付けてくれている。
「今度来るときは、何か食べ物か飲み物を持ってきてくれないかな。お礼は白銀でよければ、今度そのサイズの白銀を4本準備しておくよ」
[4本頂けるのでしたら、ぜひ。次来るときには持ってきますね]
この後少しの間歓談した後、アズールは帰っていった。今回わかったことは、アズール用のドームは問題なく呼吸可能であったこと。次回アズールが食べ物を持って来てくれれば成分調査を行い、アズールが食べれるかもしれない地球産の植物を見繕ったり、逆に俺が食べれるかもしれないホープ産の食べ物が見つかるかもしれない。
せっかく、未知の惑星に来たことだし、食は試してみたいなー。次回が楽しみだ。
「シルフ、会話の内容はだいたい伝えたが、どう思う?」
「ちょっと無警戒すぎて逆に疑っちゃうわね。悪意ある者に今まで触れたことがないみたい」
「んー。実際のところ、性質的にそういう者がいないのかもしれないなあ。集落を見る限り、生活していくだけでギリギリな雰囲気だものなあ。洞窟の中にある空間だけで生活していく上に、そこまで科学技術も発展しているようには見えないしね」
「全員が協力しないと生きていけない環境なのかもねえ」
「とりあえず、次回用も含め白銀のインゴットはそれなりに作っておくか」
「りょーかい」
「ところでシルフ...ひよこちゃんはどうなってる?」
「鶏はまだまだだねー」
今の俺の楽しみは、アズールとの会話もそうだけど、家畜ドームで生まれたひよこちゃんの成長を見守るのも楽しみの一つとなっている。早く大きくなって卵産んでね!
この鶏は品種改良されており、食べるなら30日前後で食肉に回せ、卵も同じく生後30日前後で産むことができる。おそらくあと20日ほどで卵を産むようになってくれるはずだ。
10匹ほど飼育しているので、何羽かは潰して食べよう...ああ待ちどうしい!
スペースはどれだけでも拡大できるし、飼育数も50匹くらいまでなら問題ないが、鶏を飼育するにも餌が必要だ。餌となる粟・稗・ひまわりの種などは絶賛育成中だ。
植物ドームは現在2棟あるけど、どんどん拡大予定で、あと3ヶ月もすれば、豊富な植物が食べれるようになるだろう。米も食べれる!
モヤシなど生育の早いものはすでに収穫に入っていて食べることができる。はやく葉物野菜と合成食料のループから脱出したいなあ。
実は木もいくつか植えてはいるけど、木は生育までに数年かかるのでこれが成長するまでここに居ることを想像したくはない...何年ぼっちしろと。
「島田。生活環境は落ち着いてきたから、周辺調査に力をいれない?」
「んだなー。このカルデラの周辺20キロほどと、湖の調査をしたいなあ」
「湖はアリの巣のように入り組んでると想定されるけど、アズールのような知的生命体までいたから、他にもいろんな生物がいそうだね」
「アズール以外にも知的生命体がいるかもしれないし、まだ見てないけど危険な生物がいるかもしれない」
アズールは友好的な種族だったが、獰猛な猛獣が湖地下に潜んでいるかもしれない。湖も相当広いのでサメなどの危険な生物がいるかもしれない。
陸まで上がってくることはないだろうが調査しておくに越したことはない。
地上は未だ動く生き物を見ていないが、陸上適用している生物がいないわけではない。現にアズールたちは陸棲だしな。
こうして周辺調査に力を入れることになった俺たちだったが、4日目に地下洞窟内にとんでもない生物を発見する。ドーベルマンほどの大きさをした白銀色をした蟻...アズールたちの住む集落とは直接洞窟が繋がってはいない。
アズールの集落から巨大蟻がいた洞窟まで行こうと思えば、一旦湖まで出てから巨大蟻の洞窟へ行く必要がある。また、蟻の生息地はアズールたちの集落より300メートル以上深い位置にある。
まあたぶん接触することはないだろうが、ホープで初めて発見した危険生物だ。
そして、7日目には地上で生物を発見する。といっても地衣類だろう見た目の生物で見た目はコケに近い。地上は気温60度という高温の世界ではあるが、こういった細菌類は環境適応力が高いので生存していたものと思われる。
地衣類かどうかは分からないけど、地衣類と同じような性質を持つならば、れっきとした光合成ができる生物になる。こうした生物が増えて行くことで、いずれ地上も酸素が増えていくかもしれない。
しかし、まだまだ未発見の生物は多数いそうだ...探索すればするほど出てきそう。
ぼっち8
蟻だー/蟻だー/
冗談はさておき、湖に蟻が打ち上げられていた。白銀は生物が死ぬと本来の重量に戻るので、白銀装甲の蟻も例外ではなく、死ぬととても重たくなる。
蟻はまだ食い荒らされておらず、検査のためにドームへ持ち帰ることにした。
しかし、ドーベルマンサイズの蟻の死骸ともなると重量もそうとうあるな、こちらには削岩機で掘った岩を運べるローパーもあるから重さは問題でないけど。
蟻はシルフに生態調査してもらうとして、湖に蟻が打ち上げられていたことは今後問題だ。
蟻が陸上でも活動できるなら、俺の居住区にとって脅威となり、自由に水中移動できるならアズールたちの集落に押しかけるかもしれない。
たまたま迷い込んだ蟻が泳ぐことが出来ずに死骸となっただけならいいんだが。
蟻、蟻ねえ...
蟻が重量化、巨大化した場合、地球基準で考えると小さな蟻より生存競争に不利になる気がするんだが。
蟻は気門と言われる体に開いた穴から呼吸する。人間などの大型生物と違って自発呼吸をするわけではないので大型化した場合、他に比べ呼吸が不利になる。
洞窟環境を考慮すると、洞窟内は水で満たされたところが多々あるので、広範囲に移動するなら水中を泳ぐことが必要だ。蟻は気門から呼吸するわけだから、水中に浸かると呼吸できない。短時間なら死ぬ前に水中を抜けることができるかもしれないけど...
地球上の蟻の場合、水に浮くので水中に沈まないまま水から逃げ切ることも可能だ。まあ、それくらい出来ないと雨降ったら終わりだからね。
この巨大蟻は巨大化してるので、餌がそれなりに必要だろう。昆虫類はエネルギー効率がいいので、同じサイズの犬に比べると二十分の一以下の食事量でも充分生存できるだろうけど、それでもサイズが大きい分、餌はそれなりにいるはず。
巨大蟻が地球の蟻と違って一度に少数の子供しか産まないのであれば、大幅に軽減されるが、それでも餌を捕るために広い範囲を巡回する必要があるわけだ。
そうなると、水中移動出来ないのは非常に不利にならないか?
蟻の生息地域が広範囲で水のない洞窟なのかもしれないけど。
しかし、有利な点もある。消費するエネルギー量からするとハイパフォーマンスを誇る戦闘能力だ。巨大な顎と毒針は脅威と言える。この巨大蟻が毒針を持っているかは分からないが、地球の蟻はハチ科なだけに、毒針を持った種が多数派だ。
考えても仕方ない。シルフの検査結果を待とう。
今日でちょうど、アズールが前回来て以来7日が経つ。一度目と二度目の訪問はちょうど7日だったので、そろそろアズールが来てもいい頃だ。
今後の対策を含め情報を得たいところだ。もっとも一番の楽しみは食材だけどね!
と考えごとをしているとアズールが訪ねて来たようだ。
[こんにちは]
アズール用のドームに案内した俺は、冷水を出した後、巨大蟻について聞いてみることにする。
[蟻ですか?赤の一族のペットでしょうか]
また謎の一族が。蟻はペットだったのか。まさかあれに騎乗は出来まい。アズールたちは俺たちに比べ小さいとはいえ、人間の10歳児程度の大きさはある。荷物運び用かな。
「赤の一族?ってアズールたちのこと?」
[いえ、私たちは青空の民と呼ばれています]
ってことは、全くの別種族かもしれない。
「赤の一族って、アズールたちと見た目が違うのかな?」
[はい。赤の一族は大きな尻尾が特徴です]
新展開!ホープは知的生命体が多種族か。地球は文明を持つ種族が人間だけだから多種族だと絶え間ない戦争になったりするのだろうか。人間は同種同士でもずっと戦争してるしなあ。
[私たちと赤の一族は基本不干渉です。世界の危機にはお互い協力することになってますが]
なるほど。生物として別物だから、何かのきっかけで、争いが起こるかもしれない。洞窟世界は環境が過酷なので、争っていてはお互いに環境に押し潰されるかもしれない。
そのため、最も平和裡にことが進む不干渉。大きな天災があったりすると協力するってことか。技術力が今後上がっていくだろうから、いずれは向かい合うことになるだろうけど、地球からしたらビックリの平和主義だ。
「その赤の一族のペットが、湖に打ち上がってたから何事だと思ってさ」
[迷い込んで溺れたのでしょうか]
あの蟻、泳げないのかー!ペットじゃないと生きてけないんじゃないか。
「お、溺れるんだ。まあ、ただの事故なら今後心配はないかな?」
[恐らくは]
「ありがとう。安心したよ」
その後、俺はアズールから食べ物を見せてもらう。キノコやらシダやら、大きな種など、異星の植物は興味深い。
これを解析すれば、アズールの食べれるものや、俺が食べれる異星のものが少しはわかってくるだろう。細菌やウィルス対策はどうしよう...シルフに実験マウスを育成させるか。
ノンビリとした時間を過ごし、アズールは帰って行った。次の訪問はとんでもない事態になるのだが...
アズールを見送った後、さっそく貰った食材を分析してみることにする。
キノコは二種類あって、一つがジュースになるというあれだ。もう一つはなんか真っ赤で毒々しい。食用だよなこれ。
キノコジュース用のキノコは、驚いたことに糖分が多分に含まれている。少し溶かしてみると、紅茶のような香りがするとのことだ。
流石に未知の植物に直接触れるわけにはいかなあので、キノコジュースの香りもまだ楽しむことは出来ない。
成分自体は有毒なものは入ってないとの結果が出た。ホープ由来のウィルスの毒性まで全て検査上は問題なさそうだけど、マウスに一度食べさせて様子を見てからだなー。
真っ赤なキノコは、見た目とは裏腹にエリンギのような成分だった。こちらも毒性のある物質はなかった。
種はバナナ一本を太くしたような見た目で、色も黄色。近い地球産のものはメロンと出た。
これを見る限り、栄養価や消化吸収可能な食べ物は人間に近いかもしれない。多分アズールたちは草食だろうけど。
次に巨大蟻。荷物運び用かと思いきや、食欲かもしれない。白銀の殻を取ると、まるでエビカニのようにプリプリの身が詰まっている。
この身の成分はザリガニに近いようだ。蟻の食性は雑食。やはりこの大きな顎が脅威だなあ。幸い毒針は 退化していた。
成分調査完了!
今日はほうれん草とモヤシを収穫だー。大豆も取っておいたのでこれも食べれる。
ようやく天然物の素材も幾つか食べれるようになってきたなー。
ほうれん草とモヤシのバター醤油炒めに、豆類のサラダ、フライドポテト。
調味料は地球から持ってきた分しかないけど、まだまだ在庫はある。
醤油や酒は熟成開始しているけど、そうそう完成しないし、完成するまで居るのかここに...少し鬱だ。
いやいや、せっかくの食事に暗くなってどうするんだ!来月には卵と鶏肉が食べれるぞー。牛も育成を一応開始したし、乳製品もいずれ。
では、いただきまーす!
「島田!来客よ」
え、ええー。しかしぼっちたるもの、貴重な来客を無駄にするわけにはいかない。
「シルフ、隔離ルームに俺のご飯運んでおいてー出迎える」
アズールがこの前来てからまだ5日だけど、何かあったのか。
俺は、長さ20センチほどの白銀のインゴットを取り出し、アズールへ見せた。
これは、白銀と呼んでいるが、地球の白銀と全く違い不思議な合金のことだ。
[ありがとうございます!私が一回で持って帰るより多いです。二回分くらいあるかも]
謎の羽音で喜びを表現するアズール。
「また取っておくから、白銀を集める時間でここへ遊びに来てくれないか?」
アズールのお仕事状況とか分からないし、多忙な中、白銀を取りに来ているのかもしれない。収集時間を歓談時間に使うなら大丈夫かと思った次第だ。
[あまり甘えるわけにはいかないのですが、そうしてもらえるのでしたら、お話する時間が取れます]
「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、まずは...アズール、あんたはどんなものを飲むんだい?」
[普段は水を飲んでます。水に溶けるキノコを混ぜたキノコジュースとか、ある種のシダの実を潰したジュースとかですね」
キノコジュース...不味そうなんだけど。今更だけど、物の名前が俺の知ってる単語に変換されているな。テレパシーは言語を翻訳するものではなく、意識を直接伝えるものだから、アズールのイメージが俺の持つイメージに近いものに変換されてるのだろう。逆もまた然り。
集落を見る限り、主な植物はシダ類か細菌類のキノコ類が主に見えた。食性もそれに近いのかな。カミキリムシって草食だし。
「甘いジュースとかはないのかな?」
[甘いジュースですか、キノコジュースで甘いものはありますよ]
またキノコか!果実系もありそうなんだけどなあ。裸子植物らしきものもあった気がするけど。ああ、裸子植物って果実は実らないか。種で食べれるようなものはありそうだけど、ジュースにはならないか。
せっかくの来客に出せるものがないのは残念だけど今は仕方ない。
「ん、下手なもの食べて消化出来なかったりしたら困るしなあ。今日は水で我慢してくれ」
と、シルフに頼み水を持ってきてもらった。
アズールは不思議そうに、クリスタルカーボン製のグラスを眺めた後、グラスに触れてビックリした様子。
[島田さん、これすごく冷たいです!]
「冷たいのはダメかな?」
[飲んだことありませんが、不思議な感じですね]
冷水に口をつけ、少しだけ口に含むアズール。ドキマギしながらもさらに口を付けてくれている。
「今度来るときは、何か食べ物か飲み物を持ってきてくれないかな。お礼は白銀でよければ、今度そのサイズの白銀を4本準備しておくよ」
[4本頂けるのでしたら、ぜひ。次来るときには持ってきますね]
この後少しの間歓談した後、アズールは帰っていった。今回わかったことは、アズール用のドームは問題なく呼吸可能であったこと。次回アズールが食べ物を持って来てくれれば成分調査を行い、アズールが食べれるかもしれない地球産の植物を見繕ったり、逆に俺が食べれるかもしれないホープ産の食べ物が見つかるかもしれない。
せっかく、未知の惑星に来たことだし、食は試してみたいなー。次回が楽しみだ。
「シルフ、会話の内容はだいたい伝えたが、どう思う?」
「ちょっと無警戒すぎて逆に疑っちゃうわね。悪意ある者に今まで触れたことがないみたい」
「んー。実際のところ、性質的にそういう者がいないのかもしれないなあ。集落を見る限り、生活していくだけでギリギリな雰囲気だものなあ。洞窟の中にある空間だけで生活していく上に、そこまで科学技術も発展しているようには見えないしね」
「全員が協力しないと生きていけない環境なのかもねえ」
「とりあえず、次回用も含め白銀のインゴットはそれなりに作っておくか」
「りょーかい」
「ところでシルフ...ひよこちゃんはどうなってる?」
「鶏はまだまだだねー」
今の俺の楽しみは、アズールとの会話もそうだけど、家畜ドームで生まれたひよこちゃんの成長を見守るのも楽しみの一つとなっている。早く大きくなって卵産んでね!
この鶏は品種改良されており、食べるなら30日前後で食肉に回せ、卵も同じく生後30日前後で産むことができる。おそらくあと20日ほどで卵を産むようになってくれるはずだ。
10匹ほど飼育しているので、何羽かは潰して食べよう...ああ待ちどうしい!
スペースはどれだけでも拡大できるし、飼育数も50匹くらいまでなら問題ないが、鶏を飼育するにも餌が必要だ。餌となる粟・稗・ひまわりの種などは絶賛育成中だ。
植物ドームは現在2棟あるけど、どんどん拡大予定で、あと3ヶ月もすれば、豊富な植物が食べれるようになるだろう。米も食べれる!
モヤシなど生育の早いものはすでに収穫に入っていて食べることができる。はやく葉物野菜と合成食料のループから脱出したいなあ。
実は木もいくつか植えてはいるけど、木は生育までに数年かかるのでこれが成長するまでここに居ることを想像したくはない...何年ぼっちしろと。
「島田。生活環境は落ち着いてきたから、周辺調査に力をいれない?」
「んだなー。このカルデラの周辺20キロほどと、湖の調査をしたいなあ」
「湖はアリの巣のように入り組んでると想定されるけど、アズールのような知的生命体までいたから、他にもいろんな生物がいそうだね」
「アズール以外にも知的生命体がいるかもしれないし、まだ見てないけど危険な生物がいるかもしれない」
アズールは友好的な種族だったが、獰猛な猛獣が湖地下に潜んでいるかもしれない。湖も相当広いのでサメなどの危険な生物がいるかもしれない。
陸まで上がってくることはないだろうが調査しておくに越したことはない。
地上は未だ動く生き物を見ていないが、陸上適用している生物がいないわけではない。現にアズールたちは陸棲だしな。
こうして周辺調査に力を入れることになった俺たちだったが、4日目に地下洞窟内にとんでもない生物を発見する。ドーベルマンほどの大きさをした白銀色をした蟻...アズールたちの住む集落とは直接洞窟が繋がってはいない。
アズールの集落から巨大蟻がいた洞窟まで行こうと思えば、一旦湖まで出てから巨大蟻の洞窟へ行く必要がある。また、蟻の生息地はアズールたちの集落より300メートル以上深い位置にある。
まあたぶん接触することはないだろうが、ホープで初めて発見した危険生物だ。
そして、7日目には地上で生物を発見する。といっても地衣類だろう見た目の生物で見た目はコケに近い。地上は気温60度という高温の世界ではあるが、こういった細菌類は環境適応力が高いので生存していたものと思われる。
地衣類かどうかは分からないけど、地衣類と同じような性質を持つならば、れっきとした光合成ができる生物になる。こうした生物が増えて行くことで、いずれ地上も酸素が増えていくかもしれない。
しかし、まだまだ未発見の生物は多数いそうだ...探索すればするほど出てきそう。
ぼっち8
蟻だー/蟻だー/
冗談はさておき、湖に蟻が打ち上げられていた。白銀は生物が死ぬと本来の重量に戻るので、白銀装甲の蟻も例外ではなく、死ぬととても重たくなる。
蟻はまだ食い荒らされておらず、検査のためにドームへ持ち帰ることにした。
しかし、ドーベルマンサイズの蟻の死骸ともなると重量もそうとうあるな、こちらには削岩機で掘った岩を運べるローパーもあるから重さは問題でないけど。
蟻はシルフに生態調査してもらうとして、湖に蟻が打ち上げられていたことは今後問題だ。
蟻が陸上でも活動できるなら、俺の居住区にとって脅威となり、自由に水中移動できるならアズールたちの集落に押しかけるかもしれない。
たまたま迷い込んだ蟻が泳ぐことが出来ずに死骸となっただけならいいんだが。
蟻、蟻ねえ...
蟻が重量化、巨大化した場合、地球基準で考えると小さな蟻より生存競争に不利になる気がするんだが。
蟻は気門と言われる体に開いた穴から呼吸する。人間などの大型生物と違って自発呼吸をするわけではないので大型化した場合、他に比べ呼吸が不利になる。
洞窟環境を考慮すると、洞窟内は水で満たされたところが多々あるので、広範囲に移動するなら水中を泳ぐことが必要だ。蟻は気門から呼吸するわけだから、水中に浸かると呼吸できない。短時間なら死ぬ前に水中を抜けることができるかもしれないけど...
地球上の蟻の場合、水に浮くので水中に沈まないまま水から逃げ切ることも可能だ。まあ、それくらい出来ないと雨降ったら終わりだからね。
この巨大蟻は巨大化してるので、餌がそれなりに必要だろう。昆虫類はエネルギー効率がいいので、同じサイズの犬に比べると二十分の一以下の食事量でも充分生存できるだろうけど、それでもサイズが大きい分、餌はそれなりにいるはず。
巨大蟻が地球の蟻と違って一度に少数の子供しか産まないのであれば、大幅に軽減されるが、それでも餌を捕るために広い範囲を巡回する必要があるわけだ。
そうなると、水中移動出来ないのは非常に不利にならないか?
蟻の生息地域が広範囲で水のない洞窟なのかもしれないけど。
しかし、有利な点もある。消費するエネルギー量からするとハイパフォーマンスを誇る戦闘能力だ。巨大な顎と毒針は脅威と言える。この巨大蟻が毒針を持っているかは分からないが、地球の蟻はハチ科なだけに、毒針を持った種が多数派だ。
考えても仕方ない。シルフの検査結果を待とう。
今日でちょうど、アズールが前回来て以来7日が経つ。一度目と二度目の訪問はちょうど7日だったので、そろそろアズールが来てもいい頃だ。
今後の対策を含め情報を得たいところだ。もっとも一番の楽しみは食材だけどね!
と考えごとをしているとアズールが訪ねて来たようだ。
[こんにちは]
アズール用のドームに案内した俺は、冷水を出した後、巨大蟻について聞いてみることにする。
[蟻ですか?赤の一族のペットでしょうか]
また謎の一族が。蟻はペットだったのか。まさかあれに騎乗は出来まい。アズールたちは俺たちに比べ小さいとはいえ、人間の10歳児程度の大きさはある。荷物運び用かな。
「赤の一族?ってアズールたちのこと?」
[いえ、私たちは青空の民と呼ばれています]
ってことは、全くの別種族かもしれない。
「赤の一族って、アズールたちと見た目が違うのかな?」
[はい。赤の一族は大きな尻尾が特徴です]
新展開!ホープは知的生命体が多種族か。地球は文明を持つ種族が人間だけだから多種族だと絶え間ない戦争になったりするのだろうか。人間は同種同士でもずっと戦争してるしなあ。
[私たちと赤の一族は基本不干渉です。世界の危機にはお互い協力することになってますが]
なるほど。生物として別物だから、何かのきっかけで、争いが起こるかもしれない。洞窟世界は環境が過酷なので、争っていてはお互いに環境に押し潰されるかもしれない。
そのため、最も平和裡にことが進む不干渉。大きな天災があったりすると協力するってことか。技術力が今後上がっていくだろうから、いずれは向かい合うことになるだろうけど、地球からしたらビックリの平和主義だ。
「その赤の一族のペットが、湖に打ち上がってたから何事だと思ってさ」
[迷い込んで溺れたのでしょうか]
あの蟻、泳げないのかー!ペットじゃないと生きてけないんじゃないか。
「お、溺れるんだ。まあ、ただの事故なら今後心配はないかな?」
[恐らくは]
「ありがとう。安心したよ」
その後、俺はアズールから食べ物を見せてもらう。キノコやらシダやら、大きな種など、異星の植物は興味深い。
これを解析すれば、アズールの食べれるものや、俺が食べれる異星のものが少しはわかってくるだろう。細菌やウィルス対策はどうしよう...シルフに実験マウスを育成させるか。
ノンビリとした時間を過ごし、アズールは帰って行った。次の訪問はとんでもない事態になるのだが...
アズールを見送った後、さっそく貰った食材を分析してみることにする。
キノコは二種類あって、一つがジュースになるというあれだ。もう一つはなんか真っ赤で毒々しい。食用だよなこれ。
キノコジュース用のキノコは、驚いたことに糖分が多分に含まれている。少し溶かしてみると、紅茶のような香りがするとのことだ。
流石に未知の植物に直接触れるわけにはいかなあので、キノコジュースの香りもまだ楽しむことは出来ない。
成分自体は有毒なものは入ってないとの結果が出た。ホープ由来のウィルスの毒性まで全て検査上は問題なさそうだけど、マウスに一度食べさせて様子を見てからだなー。
真っ赤なキノコは、見た目とは裏腹にエリンギのような成分だった。こちらも毒性のある物質はなかった。
種はバナナ一本を太くしたような見た目で、色も黄色。近い地球産のものはメロンと出た。
これを見る限り、栄養価や消化吸収可能な食べ物は人間に近いかもしれない。多分アズールたちは草食だろうけど。
次に巨大蟻。荷物運び用かと思いきや、食欲かもしれない。白銀の殻を取ると、まるでエビカニのようにプリプリの身が詰まっている。
この身の成分はザリガニに近いようだ。蟻の食性は雑食。やはりこの大きな顎が脅威だなあ。幸い毒針は 退化していた。
成分調査完了!
今日はほうれん草とモヤシを収穫だー。大豆も取っておいたのでこれも食べれる。
ようやく天然物の素材も幾つか食べれるようになってきたなー。
ほうれん草とモヤシのバター醤油炒めに、豆類のサラダ、フライドポテト。
調味料は地球から持ってきた分しかないけど、まだまだ在庫はある。
醤油や酒は熟成開始しているけど、そうそう完成しないし、完成するまで居るのかここに...少し鬱だ。
いやいや、せっかくの食事に暗くなってどうするんだ!来月には卵と鶏肉が食べれるぞー。牛も育成を一応開始したし、乳製品もいずれ。
では、いただきまーす!
「島田!来客よ」
え、ええー。しかしぼっちたるもの、貴重な来客を無駄にするわけにはいかない。
「シルフ、隔離ルームに俺のご飯運んでおいてー出迎える」
アズールがこの前来てからまだ5日だけど、何かあったのか。