10.真実

文字数 6,426文字

「さて、なんて呼べいいのかな?」

[ルベールとでも呼んでください]

「ルベール...」

 俺がそうつぶやくと、シルフが意味を教えてくれた。裏とかいう意味らしい。なるほどアズールの裏側ってことか。

「ルベール、シルフとの会話はできないのか?」

[残念ながら、シルフさんには私の念は届きません]

 ふむ。ルベールもシルフとは会話できないのか。シルフの意見を聞きながらやりたかったんだけど仕方ない。キーボードで入力しながら文字でルベールの会話をおこすことも考えたんだけど、よけい面倒なのでやめた。

「ルベールとアズールは別人と考えていいのかな?」

俺の推測に、ルベールは肯定する。

「ルベールがどういった存在なのかはわからないが、あんたがこちらを監視していたんだな。そして」

[はい。私が島田さんたちを見ていました。そして、この星の者ではありません」

地球の人間と同じで宇宙に行くだけでなく、光速の壁を突破できる技術を持っているのか。

「なるほど。アズールとの関係性は分からないけど、ここにある機械類は危険なものではないとかだいたいの使い道を教えたりしたのかな」

[概ねそのとおりです]

「他の星から来たということは、あれかな、俺たちを地球まで送ることとかできるのか?」

[いえ、不可能です]

もしかしたら、できるのかもしれないけど、そう簡単には行かないか。ひょっとしたら帰れるかなと思って聞いてみたけど、甘くはないか。

[島田さん、あなたたちの知識では、エネルギーの認識はいくつありますか?]

また、不可解な質問だな。エネルギーの認識ってなんのことだ。

「えっと、太陽光を電気に変換して乗り物を動かしたりはできるんだけど、どういう意味なんだ?」

[なるほど。私たちの認識ではエネルギーは3種類あります。ひょっとしたらもっとあるかもしれませんが。まず、あなたたちが認識しているエネルギーが一つ。電気や重力など、科学的に計測できるものです]

話が見えないぞ。ああ、ひょっとして。

[次にあなたたちが、白銀やテレパシーについて謎の力と言っていましたよね。それが二つ目のエネルギーです]

謎の力は物理法則で測れない。俺たちが知る物理とは別の法則があるということか。

[三つ目が、今私が使っているエネルギーです。私の本体は遠く星の彼方にありますが、私の意識...魂でしょうかはここにあります]

オカルトちっくになってきたな。霊体みたいなものなのか。精神のみで外出できるのなら、あらゆる物理法則を無視することができそうだな。エネルギーという限り、ガソリンがなくなった車のようにエネルギーが尽きると動かなくなるのかな。
ルベールは3つのエネルギーを認識し、使うことができる。俺たち地球の人間は、一つ目の科学的に計測できるエネルギー...第一エネルギーとでも言うか...のみ使うことができる。
それに対し、白銀やテレパシーは第二エネルギーを使う事によって利用することができる。ルベールはさらに第三エネルギーを使うことで、肉体から精神を切り離し自由に動くことができるというわけか。

「ちょっと信じられない話だが、事実テレパシーも、ルベールもここにあるからな。テレパシーや白銀の力を第二エネルギーとすると、ルベールは第二エネルギーも使えるから俺とテレパシーで話ができるというわけか」

[そうです。ただこの惑星では、第二エネルギーは誰しもが使える力ではありません。アズールやリーノはテレパシーを使えますが、彼女らの一族全てが使えるわけではありません]

ふむ。テレパシーが使えるのは全員ではないのか。ならアズールやリーノは異種族同士のコミュニケーションを取るために重用されていることだろう。
異星人であるルベールの目的は何なんだろう。俺たちの元々の目的は住むところを探しての探検だ。つまり資源を取るためにホープに来た。高い資金を払ってまで惑星探査に乗り出すのだからルベールも同じような目的か?

「そのよくわからないが、ルベールが精神だけ自由に行動できる力を第三エネルギーとしよう。自由に行動できるあんたが、なぜアズールと行動を共にしているんだ?」

[第三エネルギーは有限です。この惑星でも僅かながら第三エネルギーが眠っていますが、微々たる量しか集めることはできません。アズールと行動を共にすることで消費を抑えているのです]

なぜアズールなのかはわからないけど、きっと条件やらがあるんだろう。資源の採取に来て、資源を取らずにここに留まる理由がわからないな。俺たちの倫理観で言えば、現地生命体がいた場合は現地生命体の汚染、絶滅を防ぐために放置して帰還することも考えられる。
もし、そうだとしたらとっとと帰ればいいのだ。現地調査をする学者か何かかもしれないけど。それならそれで、もっと自由に行動できるよう第三エネルギーとやらをいっぱい持って来ればいい。
もしかして、

「ルベール、あんたは帰りたくても帰れないのか?俺のように」

[そうです。私はこの惑星に囚われてしまいました。あなたと同じように]

あちゃー。俺と同じぼっちだったのかルベールさん。なんか突然親近感が出てきたぞ。

[この惑星は、第二エネルギーが極度に大きいのです。私は第二エネルギーを採取するためにここへ来たのですが。あまりの第二エネルギーの大きさにこの星に囚われてしまったのですよ]

意味不明だ。続きを待とう。

[第二エネルギーは全てのエネルギーに干渉します。この惑星の莫大な第二エネルギーはほとんど使われることなく漂っています。そのため、第一エネルギーにも第三エネルギーにも強く干渉してきます。ですので、私は帰ろうとしても第二エネルギーに阻まれてかえることができないのですよ]

ワープ失敗の原因は過剰な第二エネルギーなのか!観測もできないけど、第二エネルギーが壁になって超光速通信の電波は遮断され、ワープ技術はホープから他への脱出を阻む。精神体である第三エネルギーも例外ではなく、第二エネルギーの壁に阻まれるのか。
そう考えると、よく俺は壁と衝突して消滅しなかったよな。船員の肉体は壁に阻まれ消し飛んだが、俺と機器類は無事だった。機械自体はこの壁の影響を受けないかもしれないなあ。ただ、ワープのようなエネルギーの力は阻むのか。憶測でしかないから、実際のところは不明だけど。
結論、島田は幸運にも消し炭にならなかった。島田とルベールさんは晴れてぼっちに。

「よくわかってないけど、取り敢えずルベールは帰還できないんだな。そしてエネルギーの節約も兼ねてアズールと共にいると」

[はい。間違いではありません]

「ふと思ったんだけど、アズールから離れてここへ来てるわけだよな。エネルギーは大丈夫なのか?」

[そうですね。あまり無駄には使えませんので次アズールがここへ来たときに話をしませんか?ただ、彼女が眠っている時にしか体を借りれませんが]

「普段はアズールの体の中にいる?のか。彼女の意識がないときには動かせると」

[そうです。意識があるときでも彼女と会話はできますが。こういった話は彼女に聞かれたくありませんし]

「それは俺も同意だ。次来た時にゆっくり話をしよう。とりあえずルベールに危険はないとわかった」

わざわざここに話をしに来たことからも、すぐに俺と敵対関係になることはないだろう。ルベールが去った後、俺はさっそくシルフと状況確認をすることにしたのだった。



一気に情報が入ってきて頭が混乱しそうだ。ただルベールがくれた情報は全て正しいかどうかはわからない。少なくとも全部が全部嘘ということはないと思う。
俺に協力的な理由がイマイチはっきりしないんだけどなあ。
まず、頭を整理するためにもシルフにさきほどのルベールとの会話を伝える。

「というわけなんだ。情報が大量なうえ、胡散臭くて正直ちょっとなあ」

「第二エネルギーとか第三エネルギーとかよくわからないわね。とにかくホープには何か不思議な力が働いていて、ワープが失敗したと考えればいいのかしら。もしかしたら原因はルベールかもしれないけどね」

「そうだな。ルベールが俺らの船に起こった事故の全ての原因という線も捨てきれない。情報を精査し検討していこうか」

第二エネルギーは、俺たちの知っている科学で観測できるエネルギーとルベールが言う第三エネルギーに干渉できる。第二エネルギー由来の物質として俺が知っているのは白銀だ。
白銀は生き物が生きているうちは想定される金属重量より遥かに軽い。ただ、生物が死ぬと想定される重さに戻る。試しに俺が触れてみたところ重量は変わらなかった。白銀のインゴットを持ったアズールは軽々と運んでいたのできっと重量が軽くなっているものと想定される。
アズールもおそらくリーノも白銀の重量を軽くできるんだ。蟻やエビでさえ、効果を発揮できるのに俺にはできないなんて、ひどい。第二エネルギーを使った他の用途はテレパシーだ。これはルベールの言葉を信じるのならば、同一種族であっても使える者と使えない者がいる。
そして、ホープは極度に第二エネルギーの濃度が濃いので、何もせずに放置している状態だと、自然と第一、第三エネルギーに影響を及ぼすという。

「第二エネルギーだけど、テレパシーはシルフには繋がらないんだよな。そんで、ルベールの言うことを信じるなら、第二エネルギーの壁とやらも人体には影響があったけど、機械には一切影響はなかった。ワープは虚数空間というエネルギーの筒を作って通過するものだから、壁にぶちあたって消えたのか?」

「言ってることが正しいとしたら、第二エネルギーは炭素生命体にしか干渉ができないんじゃないかな」

「炭素生命体って、俺の想像する生物全てか。炭素以外の生命体っているのかな?」

「現時点では発見されていないわ。ルベールの精神体?ってのが炭素生命体とは言えないわよね。この点は第三エネルギーの考察のときに追求してみましょう。ともかく有力な説としては、第二エネルギーは生命体または、純粋なエネルギーに影響を与えることができるのかな」

「そうだな。ワープの際につくる虚数空間は純粋なエネルギーのトンネルだ。ただ、電気とか無線とか俺たち使えてるよな。それはどうなんだろうな」

「使えてるものは事実としてあるんだから、エネルギーの総量なのかな。そういう意味では宇宙船の動力炉も影響を受けてないわよ」

んー、第一エネルギーへの影響は相当量の純粋なエネルギーじゃないと影響を与えれないのか。よくわからない。

「ああ、こう考えたらどう?ワープ技術は第二エネルギーを知らず知らずのうちに使っている。だって、物理法則では光の速さは超えれないけど、ワープ技術はそこを突破するんだからね」

「発想の転換だな。しかし第二エネルギーは観測できないんだよな。ああ、そうか」

虚数空間ってのがそもそも変なんだ。虚数ってのは現実にある数字ではない。なぜそうなったのかわからないけど、虚数空間を作り出す技術が発見された。架空の数字である虚数が。
そんな不思議な空間は、観測不能の第二エネルギーが関わってるかもってことか。たしかにそう考えるとしっくり来る。

「つまり、第二エネルギーは第一エネルギーのうち、生命体には影響を及ぼせるが、生命体以外のものには純エネルギー(電気など)を含め、影響を及ぼさないってことか」

「そう。そのほうが辻褄は合うわ。だから私は一切第二エネルギーの影響を受けない。もちろん宇宙船の動力炉もね」

「第二エネルギーについてはそういう解釈でいこうか。観測できれば俺でも第二エネルギーは使えるのかなあ」

「第二エネルギーの使い方がわからないのでなんとも言えないんだけど、エビや蟻でも利用できるエネルギーでしょ。なら体に第二エネルギーがあれば無意識に使えるものもあるんじゃないかな?白銀とか」

「第二エネルギーは第一エネルギーと同じく広範囲にきっと使えるだろうから、第二エネルギーの出力・変換の仕方によってできることが変わるのかな。ただ俺たちから見ると、不思議パワーにしか見えないけど」

「そうね。なんとかして観測できないことには何とも言えないわね。ただ機械に一切影響を及ぼさない変わりに、機械での観測は不可能と思うわよ。ルベールも言ってたわよね。科学的に観測できるエネルギーが第一エネルギーだって」

「つまり、機械を使った科学的な観測では観測できないのか。んー、俺のシックスセンスでなんとかならんかな?」

「そのシックスセンスとやらは、どうやって使うのかしら?」

冗談なのに、突っ込まないでー。第二エネルギーが干渉して機器が壊れることはないことがわかっただけでもよしとするか。

「ところでシルフ。第二エネルギーより何かわかりやすい言葉にできないかな?」

「不思議パワー?」

ネーミングセンスねえなおい!あ、こういうのはどうだ。生き物にのみ干渉する力、科学じゃ観測できない力ということで、

「マナってのはどうだ?」

「ファンタジーな名前ね。あんたの頭と同じだわ」

いや、もう第二エネルギーでいいよ...第二エネルギーが俺でも使う方法があるかルベールに聞いてみよう。

「第三エネルギーだけど、第二エネルギーよりさらに想像がつかないんだよな」

幽体離脱?のエネルギーなのか、ここまで来るともはや想像もつかない。

「聞いた限りだと、幽体とか幽体離脱のイメージに近いわね。精神体だったっけ」

「聞いた限りだと、肉体から精神だけを切り離して、精神体として動くそうだけど、ルベールの姿が見えなかったように俺には認識できない」

そう、精神体であるルベールは俺の目では視認できなかった。第二エネルギーを使いこなすアズールなら見ることができるのかもしれないけど。第二エネルギーは第三に干渉できるってことだから。

「第三エネルギーについては、想像の域を超えてるから、現状認識をしておけばいいんじゃない?」

ルベールは現在第二エネルギーの壁に阻まれて、ホープから出ることができない。第二エネルギーの壁がない場合、どれくらいの速度で移動できるのか、とか宇宙空間でも平気なのか、とかは不明。
おそらく、精神体というものを想像するに、あらゆる物理法則を受け付けず、どのような環境であっても影響を受けない。
第二エネルギーの壁がない場合、どこまで移動できるのか、とかは聞いといたほうがいいな。

「ルベールが言うには、第三エネルギーもホープには存在するそうだけど、量があまりないみたいだ」

「自己維持がせいぜいってところなのかしら。精神体とやらは、第三エネルギーが食事みたいなものと想像しておけばいいのかしら」

「想像でしか話ができないのが辛いところだけど、アズールと一緒に居ない限りエネルギーを消耗するらしい」

「そこまでエネルギー不足なら、ひょっとしたら第二エネルギーの壁が無くても動けないかもしれないわね」

「壁がなければ、補給を受けれるかもしれないけどな。想像に想像を重ねても仕方ない。現状ルベールはエネルギー不足であまり活動できないことと、俺たちに敵対的ではおそらく無いってことだけでいいか」

「そうね。ルベールともう少し話すれば島田が帰還できる方法がわかるかもしれないわね」

「んー望みは薄そうだけどなあ」

この時、俺はまだ別の危機の可能性を考えていなかった。気がついた時に顔が真っ青になるのだが...
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