19.む、無線機ーーーー

文字数 4,044文字

 実験、調査と進めているが、第三エネルギーの密度調査もやっておきたいな。
高度によってどれだけ変わるのか、第三エネルギーのたまりやすい地形はどのような場所なのかが分かれば、シルフの探索もやりやすい。
 現状は、地表になるべく近く、閉鎖空間を探している。
 もし、極地域に近いほうがよいとか、逆に赤道がよいとか当たりを少しでもつけておきたいんだよなあ。
 調査するには、アズールに同行してもらう必要がある。俺は宇宙服があるので、探査航空機に乗れば割とどこでも行ける。航空機から降りなければ、ほぼ安全だと思う。未だに空を飛ぶ生物は見ていないからね。

 そんなわけで、アズールを乗せて地表まで行けないかシルフに相談してみる。
 シルフも考えていてくれたようで、宇宙船を使えば、アズール専用の気密空間を作ることは可能だけど、宇宙船のエネルギーを消費してしまうとのことだ。
 できれば、太陽光発電の電気だけで動かせる乗り物が望ましい。宇宙船のエネルギーは温存できるだけ温存しないと、いざという時に足らないじゃ目も当てれない。
 地表とカルデラの気圧差は地球での水圧のように少しづつ慣らせば大丈夫だろう。気温は精密機械用に空調が効いた航空機を出せばよいか。なら問題は空気だけかな。
 外の酸素濃度は1パーセント程度と呼吸できる空気ではない。

「シルフ、アズールに気圧は高度を少しづつ下げて適応してもらうとしたら、酸素バルブでなんとかならんかな?」

 酸素バルブとはシュノーケルを短くして、吸引口を左右二つにしたような器具で、外気を酸素に変換してくれる。水中でも使える水陸両用になっており、ダイバーに大人気な商品である。

「空調で気温調節して、酸素バルブでアズールの呼吸が問題ないなら行けそうね」

「ならさっそく、呼んでみるか!」

 俺はシルフにアズールの持つ無線機に通信してもらう。きちんと繋がったようで、通信可能のメッセージがディスプレイに出る。

「アズール。聞こえるか?」

 俺は声をかけるが、返ってくるのは羽音ばかり...

 あ!

 無線だとテレパシーが使えないのか。そういえば顔を合わせないとダメだったか。

「島田!」

 シルフが机をバンバン叩いて笑い転げている。高級な無線機はただの呼び鈴の役目しか無さないことがわかってしまった。

「ま、まあ、今のでひょっとしたら来てくれるかもしれない。待ってみよう」

 憮然とした顔で俺は腕を組み、未だ笑いが止まらないシルフを恨めしそうな目で見やる。

「そ、そうね。島田。違うお客さんが来たようよ」

 違う?誰だろう。

「誰だろう?」

「あんたワザと言ってるの?ぼくちんお友達多いのーとでも思ってるのかしら。ぼっち人生が長くてついにおかしくなったのね」

 哀れむ目で見つめられても困るのだけど、ほんの冗談に決まってるじゃないか。わかってるよ食いしん坊な赤い人だろ。
 ちょうど、リーノにお願いしたいことがあったんだ。
 俺はシルフに蜘蛛を調理するよう頼み、シルフが会話できるよう白銀の箱を準備してリーノの到着を待った。

[こんにちは]

 リーノはサンタが持つようなずだ袋を肩にかけた姿で登場した。
 何か大きめのものをもってんのかな。

「やあ、よく来てくれた。今日は蜘蛛を用意してるぞ」

[おお...]

 俺はいつものテーブルにリーノを案内する。すでに、蜘蛛料理がテーブルには置かれていた。仕事がはやいなシルフ。
 蜘蛛は硬いササミみたいだということなので、ハーブて包み蒸しあげた。お好みで塩か黄色キノコパウダーをどうぞ。

「まあ、掛けてくれよ」

 椅子に座るよう促したんだけど、リーノの目が料理から離れない。目を離さないまま椅子に器用に座ったリーノを見ると思わずクスッと来る。

[今日は、先日の蟻と蜘蛛のお礼を持ってきたんだ。集落のみんなお前たちに感謝していてな。ぜひお礼を持って行ってくれと言われてね]

 なるほど、ゴミ処理してくれた上にお礼をくれるとは赤の一族に惚れそうだ。

「俺たちがお願いしたんだから、お礼は本来こっちがするくらいだよ。わざわざありがとうな」

[あの蟻と蜘蛛のおかげで暫く狩猟に出なくてもよくなってな、集落の整備をしたり、牧場を拡大したり、何かと助かったのだよ。これは私だけでなく、みんなからのお礼だ。ぜひ受け取ってくれ]

 そう言って出してきたものは、握り拳より少し小さなサイズの濃い紫色の蛍石。この蛍石石は透明に濃い紫色がついているものだった。
 次に取り出したものが少し大きい。赤みがかった金色の、ギザギザした細長い金属。大きさは長さ20センチほどが4本ある。どうも一本の長いギザギザを4つに分けたようだな。この金属、なんか嫌な予感がする。

「ありがとう。ありがたくいただくよ。シルフ。この二つを解析しておいてくれるか?」

「りょーかい」

 シルフはテーブルの定位置で三角座りの姿勢のまま、片手をあげて了解の意を伝えてくる。

「リーノ、冷める前によければ食べて行ってくれ、食べる前にすまないけど、この箱にテレパシーを繋いでみてくれないか?」

 お預け状態で申し訳ないけど、シルフと会話できるか試しておきたい。

「あー、テステス?聞こえるー?」

 シルフの声にリーノは驚愕に肩を震わせたかと思うと、片膝を付きじっとシルフに目線を合わす。まるで、姫に傅く騎士のように。

[シルフ殿、あなたと会話できて光栄だ]

 なんなんだ、この態度の差は。

「俺とえらく態度が違うじゃないか」

[強者には強者に対する礼があるのだよ。そういえば島田、マナが微弱ながら君から感じ取れるな。マナが使えるようになったのか?]

 微弱って失礼だな。毎日練習してるんだぞこれでも。未だに集中しないと体を巡らせることも大変なんだけど。

「アズールのおかげでなんとかな。シルフは第二エネルギーを使えないんだけど、それでも強者なのか?」

[島田、私が感じたことだが、君は力は弱いが頭は相当切れる者だ。だから私たちが狩猟を生業にしていることは、すでに勘付いていると思う。狩猟で大事なことは何だと思う?]

「怪我しないようにすることと、確実に獲物を発見し、仕留めることかな?」

[概ねその通りだ。私は相対した相手の強さを大凡感じ取ることができる。あくまで自分を基準にしてだけどね]

「なるほど、リーノの見立てでは俺たちはどうなんだ?」

[失礼を承知で言うが、島田、君の強さは息絶えかけた蟻以下だ。片手で相手するのもやり過ぎだと思うほどにね。シルフ殿は、伝説の巨龍ではないかと思うほどの絶大な力を感じる]

 死にかけの蟻以下って!そんなに弱いのか俺。だから野良蟻洞窟のことであんなに驚いていたのかよ。 シルフが巨龍とはリーノの目はシルフが抱える機械類を感じ取っているのだろうか。
 極端な話をすると、宇宙船の動力炉を暴発させれば、ホープそのものに甚大なダメージを与えることはできる。

「島田が死にかけの蟻って。あ、ごめんごめん。死にかけの蟻以下だったわね。
リーノ、話は食べながらでいいから食べてね」

 シルフは笑いすぎだろ。シルフの言葉を受けるとリーノは猛然と食べ始めた。暫く会話もできないな。
 それにしても、相手の力量を測る力か。格闘家同士が相手の力量を肌で感じるシーンがよく漫画で見るけど実際分かるものなんだろうか?第二エネルギーの力か?

[今日の蜘蛛は食べたことがない柔らかさだ。君の知恵は素晴らしいな]

 リーノは満足そうに口元を拭い、満足そうだ。

「リーノ、少し危険なことなんだが、暇な時に協力して欲しいことがある」

[ほう?]

「俺たちは今、カルデラの深部探索をしていてさ、ほら俺はほら...」

[なるほど。島田は弱いから代わりに見てきて欲しいとかそんなところか]

 言いづらかったことをアッサリ言うやつだな。

「場合によっては俺も行くつもりなんだけど、報酬は食べ物だ!深部にはまだ見ぬ食材もあるはずだ。どうだ?もちろん、何も取れなくても、蜘蛛や蟻の特別なものをご馳走するよ」

[ふむ。まだ見ぬ美味か。それは興味深い。私たちでも未だ到達したことのない未踏の地に挑もうと言うのだな。本当にできるのか?]

 食材に惹かれているちょろい奴め。

「ああ、シルフがいれば可能と思う。知ってるとは思うが深く潜ると暗闇になっているよな?その奥に何があるかは調べたんだぞ」

[あの暗闇の奥か。暗闇は深く、進んでも出口が見えない。その奥までシルフ殿は調べたのか]

「ああ、その奥はな、ここの湖より大きな地底湖がある。そこは蛍光色が天井にびっしり繁茂している」

[本当か嘘かわかないが、君たちに協力するのも面白そうだな。そうだな、一つ条件を出そう。未踏に挑もうと言うのだから、君たちの力を見たい」

 乗ってきた!リーノの協力は探検以外でも今後必要になるかもしれないから、是が非でも協力してもらいたい。

「どんな条件だ?リーノの安全はできる限りのことはこちらで行うつもりだけど」

[この湖の底に主がいるのを知っているか?巨大なタコだ。そいつは大変な美味らしいんだが、いかんせん底から上がって来ることがまずなくてね。私たちもさすがに湖の底まで行くのは骨が折れる]

 湖の底か、後でシルフに聞いてみるか。

「了解だ。これを持って帰ってくれ」

 俺は、アズールに渡したものと同じ無線機をリーノに渡す。不思議そうに無線機をいじっていたリーノに言葉を続ける。

「完了したら、それで呼び出すよ。音が鳴るから、分かると思う」

[わかった。音が鳴ったら、折を見てこちらに来させてもらおう]

 よし、リーノの協力を得るためにも頑張りますか。
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