四時限目

文字数 893文字

 まばゆい照明。スポットライトの先に現れた二人組。
 それが、お天気アイドルユニット『パスカルガールズ』のうっちーともっちーだった。
「ああ、顔が……ッ。顔があります……うっちーの美しいお顔が……おおっ」
 うっとりとため息を漏らすおれ。
 パスカルガールズの二人の顔にはちゃんと、目と鼻と口があった。
 美しい目と鼻と口が。
 見とれている場合じゃなかった。
 おれはうっちーのイメージカラーであるホワイトにサイリウムをセット。
 曲の〈コール〉に合わせて、合いの手を入れながらサイリウムを振る。
 そう、ぱんつはピンクの時があるかもしれないが、うっちーのイメージカラーはホワイトなのだ。
 三曲続けて速いビートの曲が続く。
 四曲目でCMのタイアップ曲が入り、ファンのかけ声もヒートアップする。
 おれは思う。曲を聴きながら思う。
 おれはうっちーに愛されているんじゃないか、と。
 この歌の数々は、まるでおれとうっちーを祝福しているかのようだ。

「愛されてる。愛してる。おれはうっちーに愛されていて、おれもまた、それ以上にうっちーを愛している!」

 おれが叫んだその刹那、観客席にはおれ以外、誰もいなくなった。
 そしてステージにはマイクを持ったうっちーが振り付けをしながら歌っている姿。
 おれとうっちーの目が合う。
 うっちーはおれにウィンクをした。
 鼻血が出るほど、その仕草はキュートだった。
 愛し愛されるとはこういうことか、と思った。
 アイドルに愛されるとは!
 まさしく奇跡!
「そっか。……得心がいった。これは、奇跡の力なんだ……。顔がなかったら、おれはうっちーに顔を認識されないはずだ。でも、今まさにうっちーはおれをおれと認識し、おれに向けて歌っている。つまり、おれが〈顔のない大衆〉の一人であろうと、うっちーは愛するおれを認識できるんだッ! これが愛のパワーと言わずしてなんと言う?」
 刹那は終わり、ふと気づくと、観客は全員元の場所にいて、サイリウムを振っていた。
 永遠なんて一瞬で決まる。
 おれは満足し、そして唸るようにサイリウムを振り続けた。
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