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文字数 1,010文字

 その後、赤木は沢口らとともに昴電気の野球部を正式に発足させた。
 軟式野球ではあったが「軟連のBクラス」に所属するけっこう本格的なチームだ。
 チームの名前はもちろん「すばる」。
 ユニフォームは、赤木がL地球から持ち帰ったものと全く同じデザインにした。
(裏文字のまま!)
 沢口は「こんなユニフォームはダサイ! だいたい裏文字なんてありえねえ!」なんて、強硬に反対したが、無論赤木は譲らなかった。

 野球チームといえば、赤木は金剛を見習って少年野球チームを二つ作った。
 チーム名は「レグルス」と「シリウス」だ。
 清川や須良部のような選手が出たらいいな、と赤木は思っていた。
 それから、東京の飲み屋「シングルムーン」に勤めていた尚美も、宮崎へ帰ってきて、「ダブルムーン」で勤め始めた。
 やはり二つの地球の「ダブルムーン」は関連しているのかなと、赤木は不思議に思った。
 そしてみんな地元に帰ってきて、時々この店に集まり、わいわいと楽しく過ごした。
 もちろんこの店は、いつも草野球チーム「すばる」の祝勝会場兼残念会場となった。

 さて、赤木は二度目の肩の故障から奇跡の復活を遂げた。
 しかし、残念ながら、さらに球が遅くなってしまった。
 またL地球の別江府コーチから習った「鋭く縦に割れるカーブ」は、R地球の軟球では、なぜかうまく投げられなかった。それに「ひげそりシュート」も、ただの「すっぽぬけ」になってしまった。
 赤木はもはや歯江鳥に何の恨みも無かったのだ。
 そこでもっぱら「ひょろひょろ球」とか「緩いカーブ」で相手の打ち気をそらすのが、彼のいつもの作戦だった。
 それでもL地球のプロ野球よりさらに野球のレベルの低い、こちらの草野球では充分にエースを張る事が出来た。
(時にバントの処理で、サードへ放っていたが…)

 しかし、それも長くは続かなかった。
 甲子園出場経験者の、銀剛という凄いピッチャーが入ってきたのだ。
 彼の顔は、向こうの「すばる」の金剛と瓜二つだった。
 また彼と同じかそれ以上にムキムキだった。
 彼がキャッチャーだったら良かったのにと、赤木は少々悔しがった。

 エースの座を追われた赤木はその後、もちろん戦力外通告を受けることはなかった。
 しばらくは中継ぎやら敗戦処理やらで投げていたが、その後はもっぱら、ベンチでヤジを飛ばすのが彼の役目となった。
 それでも、野球が楽しくて仕方がない様子だった。

 鏡の星のベースボール 完
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