飛鳥トオル 59歳。革命的思想を内に秘める男。離婚調停中。

文字数 8,482文字


※トオル

つけられてるな……。

電柱の影に潜む、あの長い髪はアリサか。
体形のせいで遠目からでも判別できる。
アリサよ。最近また太ったな。

身長は160以上あるが、あの見た目だと体重が60は超えているな。
ダイエットしろと言いたいところだが、若い娘に体型のことは口にできん。
小さい頃に食べすぎなのを指摘したら食事中に泣きだされてしまってな。ごほん。

俺は三人の娘のことは平等に愛したつもりだが、小さい頃から
私によくなついてくれたアリサは特別に思っている。
出来が悪くて泣き虫だったルナも愛おしくてたまらない。

妻のことも愛している。嘘ではない。
みんなとはいつまでも家族でいたかった。

だが、今はもうそんなことを言ってる場合ではないのだ。
俺は家族のことを捨ててまで、革命的情熱を燃やさないといけない。
子供も全員学校を出たことだし、そろそろ頃合いだろうとは思っていた。

「いらっしゃいませ。同志よ。合言葉をお願いします」

「こちらは百貨店「子供の世界」の隣の者だが」

「同士・飛鳥殿ですね。奥の席へご案内いたします」

私の居場所は、このジャズ喫茶だ。
喫茶なのは表向きで、実際はソビエト共産党の一支部として使用されている。
日中の時間帯は喫茶店として営業しているが、18時以降は政治サロンへと変わる。

ここには、あらゆる人種国籍の共産主義者が揃う。
ソビエト連邦を構成した、16の共和国の諸民族。
ロシア人やベラルーシ人を初め、モンゴル人から中国人、
ザ・カフカ―ス系のグルジア人やアゼルバイジャン人もいる。

我々は彼らと世界の行方について話し合う。
ただの話し合いではない。秘密の政治集会である。
やがてはこの日本で共産主義革命を起こすための準備を進めているのだ。

今はまだ小さなサロンに過ぎないが、水面下では着々と力をつけ続けている。
最近ではコロナ渦で無職となった男女を兵隊や工作員として募集し、
軍事訓練を始めている。

単純な軍事力では、日本の自衛隊と警察を倒すことなど到底不可能である。

そこで栃木ソビエトは、内部から日本国を破壊するため、
ソ連の「保安委員会」に準ずる組織を作った。

主な仕事内容は次の三つである。

①防諜
➁監視
③破壊工作


日本国は極東に位置する。
そのため極東の隣国と連絡を密にすることは重要だ。
ソ連、北朝鮮、韓国、中国にいるスパイと繋がり、
BC兵器(生物化学兵器。毒ガスや最近など)を取り寄せる。

日本国の内務省を初め、各省庁に潜入するスパイ。
政府要人とその家族を誘拐するための工作員。
金融機関へアクセスするサイバーテロリスト。
ネット、報道機関で暗躍する、ボリシェビキの記者。

まずはこれらの仕事に従事する工作員を時間をかけて要請する。
彼らに求められるのは高度な知性、経験、強靭な体力。
そして自らの生命と財産を投げ出せるほどの革命的情熱だ。

『暴力推奨。全ての権力をソビエトへ』
かつて、レーニン率いるメンシェビキ(共産党左派)が
選挙中に広めたスローガンである。

ちなみにこれらの活動を遂行する上で、大量の資金が必要になるが、
主に銀行強盗によって資金を調達する。

(革命が起きる前のスターリンは、5回も国営銀行を強盗した。
 その後ロシア帝国の秘密警察に捕まり、7回もシベリア送りになったが、
 そのたびに脱走してモスクワまで戻ってきた)

また資本家階級の子息を誘拐し、身代金を要求するなど、
金を得るためには手段を択ばない。金無くして政治活動などできないからだ。


「合言葉を忘れただと? 貴様は部外者に違いない!!」

喫茶の玄関口で、ぽっちゃりした若い女が捕らえられている。
うむ。認めたくはないが、長女のアリサである。

本来であれば部外者が、そうと知らずに入った場合も
地下室で取り調べをする決まりになっている。
私は身内なので見逃してもらえないかと同志
(同じ共産主義者のことを、階級にこだわらずこう呼ぶ)
に頼むと…

「同志・飛鳥殿よ。そちらの女性が、
 自らのご息女であると証明はできますかな?」

軍服に身を包んだ、中年男性の同志にそう言われる。
何事かと、若い女性兵らも集まって来た。
みな一応にソ連の軍服姿のため、
喫茶店内はまさに異国の雰囲気である。

俺はアリサに身分証明書を出すように言ったが、散歩程度の
軽い気持ちで私を尾行したため、何も持っていなかった。
黒いジャージのズボンに紺色のTシャツを着ているラフな格好だ。

「すまないのだが、証明できそうにない。
 私の娘は今日はたまたま身分証明書を持ってきていないのだ」

「ダクトゥーシュナ(わかりました) では地下室へどうぞ」

と女性兵に軽く言われてしまう。

この女は旧ソ連人なのか、長身で胸がでかい。
濃いまゆげ。黒い瞳。後ろで結った金髪。凹凸の激しい顔つき。
この顔立ちは……ロシヤ系ではない。
白人なのだが、山岳地帯特有の色素の濃い肌。カフカ―ス系だろう。

「待ってくれ。娘に拷問は困る」

「ニィエト(いいえ) あくまで尋問の形を取りますので」

「信用できるか!! 15分でかまわん。15分ほど時間をくれ。
 家に帰って娘の健康保険証でも持ってこさせ…」

そこで気づく。娘は会社を辞めたらしいから、
今現在は会社の保険証を失ったのかもしれない。
社保から国保の切り替えには市役所を通さないといかん。
市役所か……。地方自治体にて自民党行政の手先……。
国民から生命と財産を奪う、悪しき専制政治の象徴である!!

「イットシュド ビイ アサイレントプレイス。
 ワットハプンドヒア、アワコミニィスツ?
 (お静かに。何の騒ぎかしら同士たちよ)」

英国英語の発音である。
恐れ多くも高野ミウ閣下が登場したのだ。

地下室、地下室とやかましい部下どもから
事情を聴き、すぐに黙らせてしまう。

「話は分かりました同志飛鳥よ。
 つまらない騒ぎに巻き込まれてしまい、災難でしたわね?
 部下達を悪く思わないでください。みな党と同志レーニンに
 忠誠を誓った身ですから、鉄の規則を破ることは決してしませんもの」

「いえ、こちらこそ誤解させてしまい、申し訳ありません。
 まさか娘が私を尾行しているとは予想外でして……」

共産党・中央委員会に所属する同志高野は、実質的な
栃木ソビエトの最上位に君臨する女性だ。28と年齢は
お若いが、学生時代より圧倒的なカリスマを発揮したそうだ。

彼女の出身高校は、栃木県の中でも最上位の共産主義教育が
ほどこされた学校で「小ソビエト」とまで呼ばれていた。
学内では資本主義的思想をもった生徒が
存在するだけで地下に連行され拷問される。

学校の敷地の一部は強制収容所となっていて、収容所送りに
なった生徒の大半は、卒業まで収容所での生活を余儀なくされる。

高野ミウは生徒会の副会長だった。生徒会とは、学園ボリシェビキとして
生徒はもちろん教師まで監視し、監督する役割を担う学生組織だ。

ミウは学内の反対主義者をたびたび一網打尽にして功績をあげた。
彼女が在学中に作りあげた数々の校則は、
改正されずに今でも使われているというのだから驚きだ。

現在は学園の長として「学園」を支配し続ける。
彼女は高校生だった時から組織を率いて来た。

共産主義の徹底。マルクス・レーニンへの賞賛。
資本主義、民主主義の否定。
反対主義者の摘発、逮捕、収容所送り。

学内には生徒を逮捕し監視するための強大な組織があった。
保安委員部という、秘密警察に相当する生徒組織だ。
彼らには反対主義者を拷問をすることが許可されていた。

『国内を革命するには、まず教育の現場から資本主義的発想を
 根絶させないといけない。「学園」の存在は、戦後の左翼教育で腐りきった
 文部科学省と、不健全なグローバル資本主義に対するアンチテーゼとなる』

ミウ閣下の持論には私も大いに賛同している

高野ミウは、人を使う側でも使われる側でもない。
その一段上。「世界の秩序」を作る側の人間なのだ。

私は初めて彼女と会った時、レフ・トロツキーの生まれ変わりが
そこにいるのかと思った。私は本気で日本労農赤軍が近い将来に誕生し、
自らが陣頭指揮を執って戦う姿すら想像し、涙さえ流した。


「あなたが飛鳥アリサさんですね。お初にお目にかかります」

「は、はい。高野さんですね。
 先ほどは助けていただき、ありがとうございました」

娘は緊張と恐怖からか、頬が赤い。
同志高野の貫禄に圧倒されたのだろう。
高野ミウの美しさに見惚れているのかもしれない。

アリサは女だが、可愛い女を好む。
同性愛者というわけでは決してないのだろうが、高野ミウにように
美しい女を見ると写真にでも撮って飾っておきたいと言い出すのだ。

アリサの部屋には女の子の可愛らしいフィギュアが置いてあった。
テレビ漫画のキャラクターか? と聞くと怒られる。
今どきの若者は漫画をアニメと呼ぶらしい。

「同士閣下は、アリサのことを私の娘として認めていただけるのですね?」

「はい。同士トオル氏が今まで党のために忠誠を
 尽くしてくれたことを評価してのことです。つまり信用ですよ。
 うふふ。ボリシェビキにはふさわしくない言い回しかもしれませんね。
 こうして近くで見ていると分かります。アリサさんは
 目元がお父上にそっくりなものですから。私も今では
 一児の母ですから、親が子を思う気持ちは理解しているつもりです」

高野ミウは、大学時代に学生結婚をしたらしい。
旦那の名前は変わっていて、太盛(せまる)という。
旦那はめったに表舞台に出てこない。
家ではもっぱら専業主夫であり、イクメンであると伝えられている。
恐妻家だとの噂もある。確かに妻がこれほどの権力者ではな。

軽い夫婦喧嘩をしただけでも、部下を連れてきて拷問されかねない。
妻は旦那に対する執着がすごく、旦那に対する愛情は
結婚後10年経過した今でも衰えないらしい。

旦那は妻の束縛に耐え切れず体調を崩し、数年にわたる
植物人間と成ってしまうが、現在は奇跡的に回復したようだ。

植物人間だった時の旦那は、それはひどいものだったそうだ。
冗談のつもりでそのことをからかった
ウズベキスタン系の女性兵士連中がミウの怒りを買い、
眼球をバーナーで焼かれた後、四肢切断の罪になったという。

休憩所で何気なく話した内容が、盗聴器によって本部に知られたのだ。
ボリシェビキは常に味方の中にスパイがいないかに細心の注意を払う。
ソビエト域内は警察国家と化しているのだ。

俺はボリシェビキに入党して間もない頃は信用がなかったため、
スーパーの帰りでさえ、誰かにつけられてる感じがあった。
きっとスーパーの店員にもボリシェビキが混じり込んでいたのかもしれない。

家庭でも家族との会話には注意が必要だ。
だから俺は、資本主義者である妻や娘達とは一緒に暮らせない。
すでに家庭を構えている人間は、家族のために
命を張ることを躊躇する恐れがあるため、それ相応の覚悟が求められる。
だったらいっそ、俺は家族を捨てることで信用を得ようと思った。

ミウ閣下は世間話から初めて、アリサとの距離を近づけようとしている。
巧みな話術に緊張感が幾分和らいだのか、アリサの態度も柔らかくなる。
互いに同い年だと知ると、ますます話に花が咲きつつあった。

「本日アリサさんは共産党本部まで足を運んで頂いたわけですが、
 これも一つの縁だと思い、地下室を見学していきませんか?」

「地下室……? 共産党本部……?」

意味がわかないのだろう。
ミウはまず相手にフレンドリーに接してから、
急に仕事の話題を振る。私の時もそうであった。

「最近、オレオレ詐欺が流行しています。
 アリサちゃんもニュースで毎週聞くでしょ?
 実は地下室に犯人を捕まえているんですよ」

「え……?」

「しかもね。末端の構成員じゃないの。組織の中核に位置する人間を三人もよ。
 これは自民党の行政組織である、無能な警察では絶対に出来ないこと。
 もっとも奴らには初めから捕まえるつもりなんてないんだろうけどね。
 どうかなアリサちゃん。良い機会だし、犯人達の顔を見て行かない?」

地下室と聞くだけでいかにも怪しい。
娘はさすがに拒否しようとしたが、私が娘の肩を叩いて同行させることにした。
同志高野には命を救われているのだ。断れるわけがない。むっ? なるほど。
同志の目的が何となくわかったぞ。

喫茶店の地下は、地上の喫茶店のほぼ同じ広さだ。
地上とは違い、客がくつろげるような空間ではない。
地下は政治犯の自白を強要するために拷問をするための場所だ。


※ アリサ

罪人達は、鉄製の椅子に座らされていた。

中年の男。スラックスにYシャツ姿のバーコードハゲだ。
20代らしき金髪の男。真っ赤なアロハシャツに短パンとラフな格好。
30代半ばくらいの女。ストレートの茶髪。Tシャツにジーンズ姿。

後ろ手に手錠。足は、イスの足の部分に縄で縛られている。
自殺防止のためか、口には猿轡(さるぐつわ・ボールギャグ)がはめられている。

「こいつらが、オレオレ詐欺グループの中核とみられるメンバーです」

ミウさんが説明してくれる。
(本当は名字で呼ぶべきなんだけど、
 ファーストネイムで呼んでほしいと
 怖い顔で頼まれたからそう呼んでいる)

ミウさんが、テーブルの上に置いてある機材に手を触れる。
ブレイカーの電源を入れるように、レバー式のスイッチをしっかりと握り、
わずかに上へ押していく。

「ぶっ……ぶぶっ……んぐっ……」
「ぐぐうっ……」
「うぐっ………」

犯人達の体が小刻みに動き始める。痙攣してるみたいだけど……、
まさか電流でも流されてるんだろうか?
陸に打ち上げられた魚のような勢いで、どんどん震えが激しくなっていく。

中年の男は、ギャグの間からよだれかゲロだか分からない液体がこぼれていく。
女は髪を振り乱して、こちらに助けを求めるような必死な目で見てくる。

「これはね」

ミウさん……。どうしてそんなに冷たい顔を。

「死なない程度の微量の電流を流し続けているんだよ。
 電極はイスの後ろ側につなげられているの。
 電流を流されるのって辛いんだよ。
 体中の神経を焼かれるような痛みが走り続ける。
 呼吸もまともにできないし、一瞬で視界は真っ黒。
 だからほら、あんな風に無様にけいれんし続けないといけないの」

ミウさんは、掃除用具入れみたいなロッカーの中から電動工具を取り出した。
あれは……電動ドライバー?

ブウウウウウウウン

コンセントがいらないタイプみたいで、ミウさんがスイッチを押すと
鋭い音が鳴り響いた。犯人達は震え、泣き、金髪の男はギャグを
はめたまま、ゲボを吐く仕草を見せる。口にたまった液体をギャグのせいで
吐き出すことも出来ず、このままじゃ窒息死そうだった。

ミウさんは、メスを取り出して、そいつのギャグをつなげていた
バンド部分(後頭部)を乱暴に切り裂いた。

「いぎいぎいいいいぎぎ!?」

男は耳元にも裂傷を負ったみたいで、耳たぶが切れてしまった。
床に血液でべっとりとした耳たぶがある……。

私はこの時点で見てられなくて、気絶しそうになったんだけど、
「大丈夫か? 気を確かにして最後まで見なさい」と父に支えられる。

どうしてお父さんはこの惨状を冷静に見てられるの?

金髪の男は、体の自由が利かないためイスごと床に倒れ込み、
思う存分吐いた。腐臭にこちらも吐きそうになってしまう。
部屋には換気扇がいつくもついているけど、
全然効いてないんじゃないかってくらい匂う。

ミウさんはそいつの顔を蹴ってから、馬乗りになる。

「さーて。今度はあんたの耳の穴にドリルをつっこんじゃおうかな?」

「ひぃぃぃぃぃ!! いやだぁぁぁ!!」

「それとも眼球に穴をあける? 唇の方がおしゃれかな。
 穴が開いた部分にピアスでもつけてあげようか?」

「あばばっ……高野様……何でも言うことを聞きますっ……
 命だけは……どうか命だけはぁ!!」

ミウさんは、そいつの肩にドライバーで穴を空けた。
すっと入れてすぐに抜く。すると血がぷしゅーと飛び出て……。
ドライバーの先端部分には、血と生々しい肉片がこびりついてる……。

金髪は絶叫し、また吐いた。

私は耐え切れず両手を口で押えると、お父さんがバケツを
用意してくれたので、その中に吐いてしまう。
口だけじゃなくて鼻からも液体が出てしまった。
苦しい。気持ち悪い。もう死にたい。

茶髪の女は、失禁していた。
ジーンズ越しに、足元に黄色い液体が流れ込んでいく。
顔色は死人のように色を失ってしまい、口を開き白目をむいている。
気絶したのかもしれない。

この女の口を見てあることに気が付いた。
歯がないのだ。他の犯人達も同じ。
年老いた老人のように、歯が全て抜け落ちている。

ミウさんは、私の視線に気づいたのか、丁寧に説明してくれる。

「ああ、これ? 拷問の初日にたくさん殴ったからね。
 それで何本か抜けちゃったんだけど、どうせなら全部抜いたほうが
 さっぱりするかなって思って、ハンマーで口を叩いて歯を全部砕いてあげたんだよ」

「初日って……どれだけこの人たちは拷問されてるんですか?」

「んーそうだね。今日で6日目だよ」

この人達は……6日も拷問され続けているの?
捕らえられ、体の自由を奪われ、毎日この地下で好き放題いたぶられる。
想像しただけで私にはとても耐えられない。
私だったら舌を噛んで自殺するけど、ギャグが……。
その他にも自殺防止策とか徹底されてそう。

ミウさんは、電動ドライバーを私に差し出して、

「あなたもやってみる?」と言う。

金髪の耳の穴をねらえと言われたけど、
無理に決まってるじゃないですか。
ついさっき私が吐いたの見てなかったんですか?

「こいつらを捕えるまで、それはもう苦労したよ。
 まず組織の末端を捕まえて、それから半年以上かけて
 関連する人物を割り当ててから、こいつらの事務所を発見した。
 茨城県のひたちなか市にあったよ。海沿いの廃工場の地下に
 こいつらのアジトがあってね。こいつらの規則で3か月に一度だけ
 そこで会合をするそうなんだけど、そこを一網打尽にしたんだ」

「へ、へえ。それはすごい。色々大変だったんですね」

「うん。大変だった。日本の警察はどんなに頑張っても、
 オレオレ詐欺の末端構成員を捕まえるのがやっとでしょ?
 末端の奴らは臨時の雇われだよ。こいつらをいくら捕まえても意味がない。
 だって日本の行政は、本気で組織をつぶすつもりなんてないんだもん」

「それはどういう意味なんですか?」

「そこのバーコードハゲが教えてくれたよ。オレオレ詐欺の
 本当の親玉は、自民党の総務省と財務省なんだってさ」

信じられない情報だった。ミウさんが言うには、
国内で実に20年以上も横行しているオレオレ詐欺の真相は、国家によるテロ。

巨額の財政赤字を抱える日本国。国家歳入の半数にも及ぶ社会保障費の
支出をまかなうには、赤字国債の発行に頼って来た。
だけど時のアベースキー政権では、財政収支の改善を国民にアピールするために、
むしろオレオレ詐欺を政府主導で奨励した。

その結果、多くのお金持ちの老人から、総額で1,5兆円にも及ぶ資金を巻き上げた。
ニュースで報道されている額は、あくまで警察が表向きに知りえたとされる
金額で、正確ではなく過小。

オレオレ詐欺は不思議な詐欺事件だ。世界一の操作能力を持つと評判の日本の警察でも
本部の足すらつかめない。理由は簡単で本気で捜査してないからだ。
そもそも警察は行政組織の奴隷。行政が主導で詐欺をしていたら捕まるはずがない。

アベースキー首相は、検察長官の人物の任命権を握っていたりと、
実は独裁政治と全く同じことを平然と行っている。こちらの件は、
森かけ問題で自らが刑事起訴されないために行った措置で、明確な憲法違反だ。

行政手続きの簡素化と表向きの理由を付けて、マイナンバーを国内に普及させる。
そして政府は国民の預貯金状態を正確に知ることができた。
あとはその資産額を詐欺グループに知らせて「金持ちからピンポイント」
に電話をかけ、時に強盗に押し入り、お金を奪う。

日本ではここ30年で総額10兆円以上のお金が奪われながらも、
その行方は不明だ。使途不明金。これらがいずれかの
産業に流れれば、関係者達ならすぐ分かる。

おそらく盗んだお金は国家予算に計上され、
社会保障費の補填に回されたか、
あるいはアベースキーの好きな空母建設費に使われたのかもしれない。

「今日の拷問はこれまでにしようか。続きはまた明日ね」

ミウさんはそう言い、部下たちに何事かロシア語で伝えてから、
私とお父さんを開放してくれた。
お父さんはミウさんから預かった大切な資料をカバンにしまう。
帰ったら私もよく読むようにと言われた。

でもお父さん……。
私だって政府のことは大嫌いだけど、
人を拷問してまで世の中を正そうって気にはならないよ。
悪を正すために自分が悪になったら本末転倒だと思う。

自民党だって国民の過半の支持を得て第一党の地位についているわけだし、
自民党がした悪さは私たち国民が責任を負担するべきじゃないのかな。

う……今だって吐き気が止まらないのに、難しいことを
考えたら足元がふらつく。次の仕事が見つかるまで暇なので
明日にでも資料に目を通すけどね。
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