日本国政府は、赤狩りを実行した。

文字数 5,152文字

※高倉アユミ

初めて兄を好きになったのは、小学生の時だった。
いいえ、もっと前から兄のことが好きだった。
人を好きになるのに理由なんているのだろうか。

私は兄と手を組みながら街を歩いてた。
そしたら偶然出会った同級生の女の子がいて、
私と兄が仲が良すぎて変だとバカにしました。

翌日から学校では私のあだ名がブラコンちゃん、お兄ちゃん大好き女になった。
男子たちからも、後ろ指をさされて笑われた。何がそんなにおかしいのか。
兄と妹が手を繋いで歩いていたら、そんなにおかしいのか。

私はむしゃくしゃしたので、うわさを流した娘に後ろから
襲い掛かり、ボコボコにして排水溝の中に流してやった。
子供の大きさだと排水溝の溝にはまるだけで、
なかなか流れてくれない。汚いゴミだ。

その1週間後、私は学校で校長先生に説教された。
しばらく自宅謹慎ということで、1週間は自宅で
自主学習することになった。これを高校では停学と呼ぶ。


「脱走兵が出たことは非常に残念だ……」

「ナツキ兄さま。彼女たちを許してあげて。
 飛鳥家の姉妹は将来性のあるボリシェビキじゃない」

ここは宿舎の3階の司令部。私の兄と姉が話をしています。

「しかし他の訓練兵への示しもある。
処罰なしというわけにはいかない」

「1週間の独房入りで済ませましょうよ」

「ふむ……。本来なら銃殺刑のところを、少し軽すぎないか?」

「きっと私のせいなのよ!!
 私がお兄様と聖徳太子ごっこを披露しちゃったから
 きっとボリシェビキの将来に絶望してしまったのよ!!」

「父上のトオルさんはどうしてるんだ?」

「衛生兵が治療は済ませてるから、
 あとは回復を待つのみとなっているわ。
 ちょっとアユミ。トオルさんの様子を見てきなさい」

はいはい。私は一階の医務室へ足を運んだ。

「ぐかー」

トオルさんは気持ちよさそうに寝ていた。
死にそうな感じじゃない。弾はお腹を綺麗に貫通した。
その後の処置が的確だったので大事には至ってない。
でもこういうのって普通は死ぬんじゃないの。
銃弾が貫通したってことは、内臓とかやばそうだけど。

「また来ますね。お大事に」

私はそう告げて、司令部へ戻る。

司令部では兄が姉とイチャイチャしていた。
というか姉が兄さんに一方的に抱き着いてキスしているんだけど。

私はイラっとしたけど我慢して、邪魔しちゃ悪いですねと
だけ伝えて、部屋を出ようとした。

ズドオオオオオオオオオオオオオン

建物が、揺れた。
部屋の花瓶が床に叩きつけられ、破裂する。
窓ガラスに亀裂が走る。私はバランスを崩して尻餅をついた。

「自民党の反撃が始まったぞ!!」

私たち一同は宿舎から飛び出て森の中へ逃げた。
今何時だろうと、軍服の胸元から懐中時計を出す。
夜の8時過ぎだ。夕食後にほっこりしていたところを狙われたのか。
ちなみに私たちは全員軍服を着用している。
孤島では軍服で生活するのがマナーなのだ。

チュドオオオオオン
バッコオオオオオオオオオン

ミサイルが雨のように降ってくる。
島の形が変わるのではないかと
思うほど激しい揺れに襲われる。

耳を塞いでも鼓膜が破れるほどの爆音で体が縮こまってしまう。
訓練兵たちは地面にはいつくばって一歩も動けない。
宗教は禁止されてるのに神の名前を口にした女もいる。
こんな状況では無理もないと思うけど。

「もう終わりよ!! 兄さん!! 
 私たちはここで皆殺しにされるんだわ!!」

「うろたえるなユウナ。ボリシェビキは
 どんな時も鉄の意志で乗り切るんだ!!」

私たちは森の中を這うように移動して秘密の地下実験場へ。
ここには鉄人28号の格納庫もある。
核シェルターとしての機能も有してる一種の要塞だ。
以前にも説明したと思うけど、マジンガーゼットに出てくる
光子力研究所でググればここの描写を省ける。

「兄さん!! 鉄人で反撃をするべきよ」
「その前に困った話を聞いてくれ」
「なに!?」
「リモコンを宿舎に置いてきてしまったんだ」
「なんですって!?」
「あとトオルさんも病室に置いてきてしまった」

そういえばトオルさんを忘れてた。
私が森から観測した結果、大砲の砲弾が少なくとも
20発は宿舎に直撃していたから、死んだと考えるべきだろう。
骨が残っているかどうかも怪しい。

私の姉はついにパニックを起こし、意味もなく服を脱ぎ始めて
下着姿になった。醜い素肌をさらすなよ。男たちが吐いたらどうするんだ。

「反撃する手段がないんじゃ、皆殺しにされるだけだよ!!」

「落ち着きなさいユウナ。ここは孤島だがソ連の一部だ。
 自動報復システムを起動させよう」

兄さんが『赤いスイッチ』をぽちっと押した。
コントロールルームから「ウイーン」とアラームが鳴り響く。

『自動報復システム発動まで、あと1分。
 対ショックに備え、各員はベルト着用のこと。繰り返す』

私はベルトがどこにあるのかとキョロキョロする。
訓練兵たちもキョロるけど、見つからない。

「敵にミサイルを撃ち込むだけだから、ベルトは必要ないんだ。
 ベルトの件は宇宙戦艦ヤマトから拝借したネタだ。意味はない」

ナツキお兄ちゃんは緊急事態でもジョークのセンスを忘れない、
本物のソ連人だ。ソ連の先人たちは世界最強の
ナチスを倒したことを忘れてはいけない。

約束の1分が過ぎ、地表から轟音が響いた。
森のいたるところにミサイルの発射基地があるみたいで、
そこからミサイルの一斉射が始まった。その数40。
監視衛星からの映像とレーダーで、ミサイルの行方を追う。

ヒユー。チュドーン

残念ながら、ミサイルは大気圏から降下する途中でほとんどが迎撃された。
そもそも私たちはどこへ向けて撃ったのか。

ナツキ兄さんが、電話でボリシェビキ本部と連絡をしている。
そして衝撃の事実が明らかになった。
長崎県の周囲の海域に、海上自衛隊の主力艦隊が集結している。
艦隊の主力となるのは、イージス艦を中心とした護衛艦隊。
海上からの攻撃なら鉄人の反撃を受けないと考えてのことらしい。

ちなみに敵の指令はアベースキー首相。
アヤちゃんが海に捨てたはずなんだけど、
色々がんばって東京まで奇跡の生還を果たして、
立件民主党を撃破。直ちに政権を取り戻して現在に至る。

我々孤島ボリシェビキは、ミサイルを打ち尽くしてしまった。
先ほどの40発は、いやがらせ程度の迎撃装置に過ぎない。
実は全弾発射できたわけではなく、整備不良その他の
理由で半分しか発射できなかった。実戦なんてこんなもんか。

あくまで主力兵器は鉄人28号。でもリモコンどうしよう……。

「諸君!! これより決死隊を募る!! 
 勇気のあるものは、宿舎まで鉄人のリモコンを取りに行くんだ!!」

兄さんの呼びかけに一同は静まる。
画面越しに外の様子を見ると、空一面を埋め尽くすほどの
ミサイルが降ってきている。本日の天気は晴れ時々ミサイルです。
外出時には厚手のコートを忘れないようにしてください。

概算ですでに160発以上のミサイルがぶちこまれている。
自民党の作った自衛隊ってこんなにミサイルを持っていたのね。

「私が行きます」

「おお……行ってくれ……って、なんで君が!?」

自殺志願者として手を挙げたのが川村アヤだったのだ。

「もはや鉄人の力を借りることでしか状況を打破することは不可能。
 また同志飛鳥が生きてる可能性を考え、救出しなければなりません」

なんという献身的精神。
この子は15歳でそどうしてこまで……。
ユウナがガッツポーズしてるのが腹立つ。

「け、決死隊は男性の仕事だ!! 
 男性諸君、誰か勇気のあるものは挙手しなさい!!」

「ボリシェビキは男女平等に義務を負う社会です!!
 かつてソ連の同志はそうでした。帝都ベルリンに一番乗りした
 兵に女性もおりました!! ソ連では女子だけで結成された
 女子飛行連隊も存在しました!! 私は党の名誉のために死にます!!」

そしてあなたの命令で死にますとまで言った。

想いが重い。うちの兄にこんな時まで色目を使ったつもりなんだろうか。
この子が外に出て自殺したとしたら兄は一生負い目を感じることになる。
漫画とかでよくあるパターンで、私は一生あなたの心の中に生き続けるって?
この子、小6病かもしれない。

「同志閣下!! 若い娘を死地に駆り立てるくらいなら僕が代わりに!!」
「そうか水谷君!! なら頼む!!」
「はい……と言いたいところですが、足がすくんで動けません!!」

今も上空では自衛隊の戦闘機の編隊がぐるぐる回って高性能爆弾を落としていく。
森に火災が発生し、瞬く間に周囲に炎が広がっていく。
このままでは、孤島の面積の大半を占める森が全部焼かれてしまう。

「同志閣下!! 俺からも言いたいことがある!!」

今度は寺沢アツトさんだ。

「我々の指揮官は、旅のパンフレットにはユウナさんだと書いてある!! 
 だがユウナさんの現状を見てくれ!! 
 子猫みたいに脅えちまって、兄であるあんたの腕にしがみついてる!! 
 なんで下着姿なのかはこの際不問にするが、つまりだ。
 指揮官のそんな姿を見せられて誰が決死隊になんかに参加できるかってんだ!!」

「ぐぬぬ……」

上官に敬語を使わない時点で、スパイ容疑がかかるんだけど。
アツトさんは本当に思ったことは何でも口にできる人なんだね。
兄もたぶんここまで面と向かって歯向かってくる人は初めて見たと思う。

「同志閣下!! 意見具申させていただきます!!
 いっそのこと降伏するべきでは!?」

とアリサさんが挙手ながら発言する。

「我々は海上自衛隊の圧倒的な戦力に包囲されており、
 また鉄人が出撃不能の状態が続き、もはや白兵戦しか戦う手段は
 ないのかと思われます。このまま攻撃を受け続けては……」

「降伏したら僕たちは拷問されてから裁判にかけられ、
 絞首刑にされるが、それでもいいかね?」

「う……」

資本主義国では、国家の転覆を狙うアカ(我々のこと)には容赦しない。
逆さ貼り付けの十字架でも生ぬるいくらいの拷問は覚悟するべきだろう。
アベースキー首相は一度捕虜になっているから、
私たちへの恨みはすさまじい。女は間違いなくレイプされる。

「落ち着き給え諸君。この地下の防御力は諸君らの想像以上のものだ。
 核でも撃ち込まれない限りビクともしない。ここは籠城戦だ。
 敵の弾だって無限ではない。さらに30日分の水と食料が
 備蓄されている上に、上下水道も整備され……」

「同志ナツキ閣下!! 水道管が破裂しました!!」

部下からの報告が飛ぶ。描写してなかったけど、訓練兵の他に
姉が連れてきた部下の兵隊が10名もいるよ。衛生兵とか通信兵の人。
彼らはオペレーターの席に座って、絶望的な状況を教えてくれる。

「停電対策に用意していた予備のバッテリーが、
 もう持ちそうにありません!!
 あと20分以内にここの電源は落ちてしまいます!!」

「自衛隊のヘリが、毒ガス弾と思われるものを投下。
 島周辺の空気が汚染されていきます!!」

「爆撃機が、チャフ(電子妨害装置)を撒布!!
 こちら側のレーダーが機能しません!!」

ずどん、ずどんと、天井が揺れ続け、ついに停電。
姉の悲鳴がうるさい。早く声枯れろよ。
兄さんがろうそくにマッチで火をつけて、なんとか明るさを保つ。
こんな時でも、ゆらゆらした炎をみてると心が落ち着くものだ。

私は全部諦めてる。人生なんてこんなもんでしょ。
死ぬときは死ぬんだから、姉みたいにわめいてもしょうがない。
私は兄さんのことが好きだから、兄さんと同じ場所で
死ねることだけが幸運かな。
だからアヤの言ってたことも理解できてしまう。

「お、お兄ちゃん……。これで最後だから、どうか
 ユウナのことを抱いてください。もう人目なんて
 どうでもいいわ。最後はあなたの腕の中で死なせてください」

姉はついに下着まで脱いで、白豚に変身していた。お腹はやっぱり出ていた。
こんなメス豚の肌を見て男性陣がズボンにテントを張ってるのが不思議。
この女のどこに性的な魅力があるんだろう。

「なあルナちゃん。俺と手を握ってくれないか?」

「はい……」

「ありがとな。俺は口下手だから、うまく伝えられるか不安なんだ。
 だが俺たちはここで死んじまう運命だ。だからよ、正直に伝えるぜ。
 俺は君のことが好きだったんだ。君といると楽しかった」

「アツトさん……。私もアツトさんとお話しするの
 楽しみにして生きてました」

アツトさんとルナちゃんもラブコメを始めた。
人間は死期を悟ると生殖活動を始めたりするんだよね。
危機的状況で結ばれる男女、俗にいう「吊り橋効果」も期待できる。
少女漫画もミサイルが撃ち込まれてる状況で物語が始まれば、
すぐに結ばれるね。その代わりすぐ別れるだろうけど。

「あのぉ。ちょっとすみません」

私がオペレーターの背中に声をかける。
自殺用の拳銃をもらおうと思ったんだけど、
息がない。すでに自分の頭を打った後のようだ。
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