第8話

文字数 879文字

 どうもツムギは勇気を振り絞ると足元をにらむ癖があるらしい。
「パパ、ツムギね、嘘ついてたの。実は中学生の時から友達なんてひとりもいなかった。パパには二十人いるって嘘ついてたけど…… グループ分けすればあぶれちゃうから、修学旅行に行きたいと思ってなかったの。家計なら気にするなって、パパ、昔と違って出世したんだぞって、格好つけてたけど。余計なお世話だったの」
「待ってツムギ、パパ今その話聞きたくない」
「部活に入らなかったのだって、本当はいじめが怖かったから、だれより先に下校したかったの。活動費とか、ユニフォームとか、関係ないの。ただ、運動部の先輩も、文化部の先輩も怖くて、青春から逃げてたの」
「聞きたくない! パパ、聞きたくない!」
「骨芽細胞に刺激を与えなかったのだってツムギの責任、あたしの背が小さいのだってあたしのせいだよ。ガチで危機感足りなかったよ。パパは勝手に自分のせいにしちゃってさ、さみしさを埋めたいバツイチ男性の心を正当化しちゃってさ、ツムギのため、ツムギのためって言い訳して婚活っていう名の女漁り。ツムギ、その背後でどれだけ孤独な夕食を過ごしたの?」
「やめて!」
「あたしはパパがそばにいてくれればそれでいいのに」
 ツムギはケイスケの胸の中にすっぽりと収まった。
「あたしはパパがそばにいてくればいい……」
「ごめんツムギ…… ごめんね? ぼくは…… ごめん」
「だからね。お義兄ちゃんのこと、許してあげよ?」
 えっ! 許しちゃうの? それは違くない? 誰もがぎょっとした後。

「絶縁くらいで」
 ですよねー。

 ケイスケはその日のうちに涙で腫れぼったい顔をしたまま、百均で買ってきたようなペラッペラな鞄をアキラに投げつけた。
「出ていけー! 今すぐ荷物をまとめて出ていけー! 二度と敷居をまたぐな! 半径10万光年に近づくなー!」
アキラは逆ギレして信じられない暴言を吐いて消えていった。ばか、あほ、まぬけ、お前の母ちゃんでべそー!
「は? でべそはてめえの母ちゃんだろがい!」売り言葉に買い言葉だった。
 パパ、ちょっと来て。ツムギの二回目の説教が始まった。
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