第8話

文字数 608文字

秀ちゃんのレストラン取材から2か月後、私は退職した。
秀ちゃんのレストランのある温泉地へ移住するために。
リノベーションしたホテルがスタッフ募集をしていて先月の滞在時に話をまとめておいた。
狂気じみた行動かもしれないが、秀ちゃんの居場所を知ってしまってから近くに行きたくて仕方なかった。
その気持ちには抗えない。たとえ会うことがなくても、彼が生活している場所で同じ景色を見たり、同じ気温を感じたりしたかった。

1か月をいう短い時間に自然の姿は様変わりしていた。
ツツジが咲き誇っていた場所には鮮やかな名前の知らない花が。
そして秀ちゃんのレストランへ。
何か様子がおかしい。
取材時に対応してくれたスタッフの女性が笑顔で話かけてくれた。
「先日はありがとうございました。」
「こちらこそ、大変お世話になりました。」
「オーナーも地元のフリーペーパーに載ると集客がすごいって言ってました。」
「今日オーナーさんはお休みなんですか?」
「それが、今イタリアにいるんです。なんだか行きたくなった。ってこの気持ちには抗えないって先週旅だっっちゃったんですよ。」
笑いながら答えてくれた彼女に私はどんな顔を見せていたのだろう。
でもなんだか嬉しかった。秀ちゃんも私も自分の心に抗えない人間だという事が。
またフィクションのような生活を私はここで送る事になる。
でも、いつかまた会えるかもしれない。それだけ良い。
大好きな人がこの世界のどこかにいる。それだけで良い。
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