第5話

文字数 1,068文字

 こうなったら仕事を選んでいる場合じゃない。
 一念発起した南小路はある決断をした。宣伝なしでテレビに出る覚悟を決めたのである。こういった例は過去に無い訳ではなかった。時代劇俳優のTは元女子アナの娘とバラエティ番組に出まくっているし、南小路と同じ強面で有名な俳優のNも、ねじりマフラーでジョークを繰り出し、世間を賑わせている。

「まさか、あれだけ嫌がっていたバラエティにまた出演してくださるなんて、まさかと思いましたよ、南小路先生」
 プロデューサーの金井はご機嫌で挨拶を交わす。それを引きつった笑顔で返す南小路。
 こうなったら恥も外聞もない。プライドなどクソくらえだ!

 久しぶりのバラエティは多少ぎこちないものの、思っていたよりも上手くいった。自分は道化師の役を演じているのだと言い聞かせたのが功を奏したのかもしれない。

 だが、元々タレントとしての才能があったのだと自覚するのに、たいして時間はかからなかった。

 南小路大五郎は、徐々にテレビの仕事が増えていく。
 やがてワイドショーのコメンテーターやドキュメンタリーの仕事も舞い込んでくるようになると、本業である舞台やドラマの依頼もそれに比例するかのように増加していった。本の執筆や講演依頼も後が経たず、さすがにCDデビューは断りを入れたが、気が付けば若者からダイゴちゃんと呼ばれるようになった。
 最初はそのあだ名に嫌悪していたが、女子高生からの黄色い声援に囲まれると顔の二ヤケが止まらない。自分から「ダイゴで~す」とおどけるようになっていった。

 バラエティの仕事は次第にエスカレートしていく。大御所の貫禄はどこへやら、激辛料理やバンジージャンプまでこなすようになってくると、南小路はこれこそが天職なのではないかとさえ感じるようになった。
 いつぞやはゲテモノ料理を前に「こんなの食べられるわけないだろ! スタッフは馬鹿なんじゃねえのか」と罵ってみたり、熱湯風呂ではパンツ一丁で「押すなよ、押すなよ」と喚いて見せたり、バレバレのドッキリに気付かないふりをするのも、すっかりお手の物だった。

 発言もより過激になっていく。ワイドショーでは脱税で捕まった政治家を罵倒したり、親を亡くしたものの、懸命に生きる子供に涙を見せる。
 その一方で失言も多く、ふとした文言がネットで話題となると、それが南小路の人気に拍車をかけた。

 深夜のバラエティにおいては下ネタ全開。「こないだピーがピーとピーしているところをピーが乱入して修羅場となったさ。そこでピーが乱入してピーが……」
 もはや何を言っているのか判らない。
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