第3話

文字数 965文字

「もう金輪際お断りだ。あんな惨めな思いは二度としたくない」どうにか収録を終えたものの、南小路はマネージャーの北柳に釘を差した。
 重い空気が漂う中、先ほどのコガネムシ宮田がノックをして入って来た。彼は笑顔を浮かべ握手を求めている。
「先ほどはえろうすんまへんでした。しかし、さすがは南小路先生や。金井プロデューサーの評価も上々やったですよ」
「私こそ失礼した。ついムキになってしまって。少々大人げなかったな」
「またまた~。あれは先生の演技やったんでしょう? ワザと怒ったふりをして会場を沸かせてもうた。さすがは大物俳優だけのことはありまっせ」
「いや、そんなつもりは……」否定をしたが、宮田は聞く耳をもたない。
「彼らも先生にイジられて感謝しとります。またよろしゅうお願いします」
 会釈をした宮田は、満面の笑顔で楽屋を後にしていった。
 北柳の表情にも笑顔が宿る。
「先生はあれでよかったんです。バラエティは本音を出してナンボです。天然っぷりがウケたんですよ。案外バラエティの才能があるのかもしれませんね」
 しかし南小路の気持ちは優れなかった。
「そんな才能は要らんよ。それより宣伝の効果はどうだったかな」
「バッチリです。これが放送されれば、きっと大反響間違いなし! なにせテレビには滅多に出ない事で有名な南小路大五郎が十年ぶりに出演したかと思えば、ちゃんと笑いを取ったんですから。視聴率も期待できますって。ほら、司会のコガネムシ宮田さんも金井プロデューサーが褒めてたって言ってたじゃないですか」
「俺は何もしておらん。どうせ物珍しがっているだけだろ。単なる見世物に過ぎん!!」

 そんな南小路の思いをよそに、いざ蓋を開けてみれば盛況の嵐であった。
 強面で厳格なイメージである南小路大五郎の意外な一面は、ワイドショーにも連日取り上げられるほどのブームが巻き起こった。
 そのおかげかどうかは判らないが、彼の舞台は大成功を収め、次なる主役舞台も早々に決定した。

 南小路の思惑とは裏腹に、バラエティの仕事の依頼が次々と舞い込んでいく。しかし以前の事がトラウマとなり、断り続ける南小路。
 そんな彼の元に、今度は大作映画のオファーがあった。主演ではないものの、三番手クラスの重要な役どころである。もちろん二つ返事で了承した南小路。彼としてもここが正念場だった。
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