プロローグ

文字数 1,127文字

 崩落する地下遺跡の最下層、そこで彼は泣き叫んだ。”かつて愛してしまった”その女性(ヒト)を抱き抱え、膝をついたまま悲嘆に暮れる……彼が奈落を討ったとき、遺跡も水没を開始した。天井が倒壊し、頭上から落盤が降り注ぐ。濁流は、すぐ上の階層にまで迫り、今まさに彼を飲み込まんと迫る。
 でも、彼は動けない。救いたかった女性を、救うべきだったこの女性を、その手で殺めてしまったのだから……
 「楽しい思い出……作らせてくれよ……」
腕の中で息を引き取った哀れな女性……彼女を救えなかった悲しみが、泣くこと以外を赦さない……
 「この記憶を消して、やり直せるのなら……欲しいかな。楽しい思い出……この記憶は、私を壊わすから」
彼女はそう言っていた。そう呟いて泣いていた。最後まで救いを求めていたのだ。掟の門の前に立ち、あと一歩のところで踏ん張っていた。踏ん張っていたけど、光の先に飲み込まれ、救われぬままに、命を落としてしまった……

 左手の甲、”争いの盾”が輝きを潜め
「マーリー!聞こえるか!?マーリー!」
右手の矛が覚醒した。青紫に輝く烙印が、新たな異能を発現させた。それが、奈落を砕くチカラとなる。でも……
「蓮、やっぱりあなたは面白い人……こんな私を、ヒトとして扱ってくれる……」
彼女を救うことはできなかった。異形と化した彼女を、打ちのめすことしかできなかった。
「違う形で出会いたかった。でも、それは叶わない……だから、自分を責めないで……」
「諦めるな!」
彼の言葉(おもい)に、彼女は首を横に振る。
「私を救えないと後悔しないで。後悔するくらいなら……どうか私を……殺してください……」
 彼女は救い(おわり)を望んでいた。でも
「気づけなかったのは……”俺の罪(よわさ)”……わかっているなら、歩み止めるな」
彼はそれを聞きいれない。
「私の苦しみを想ってくれるなら……」
いや……
「彼女を苦しめたのは……”あの男の罪”……だからって俺は、無関係じゃない!」
聞くことが出来なかった。聞きたくないのだ。
「どうか私を、助けようとしないでください……」
「必ず助ける!想いを捨てるな!」
 彼は、生まれた時代の悪意を一心に浴びた……時代(あれほど)の悪意を、ひとりで抱え込める訳がない。
「醜い私を、これ以上見ないで!」
 彼は時代に挑んでしまい、悪意の中心を目の当たりにした……
 凋落しつつある教えに縋ることも、吹き飛ばされる祈祷師のマントにしがみつくことも許されず、彼は悪意に立ち向かった。降り注ぐ悪意のすべてに、暴力で応えた……応えざるをえなかったのだ。
 「マーリー!眼を開けてくれ!マーリィー」
 そう、彼は終わりか、始まりだ……
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登場人物紹介

羽矢亜麻乃(はねやあまの)(17)

本作ではヒロインとして、蓮野久希の協力者として活躍する、大人びた美少女。

蓮に惹かれながらも、親友の早苗沙希を想い、一線を引いて彼と接する。

”親に言えない願い事(ペットが欲しい)”のスキルで、クマパンチ炸裂!

蓮野久季(はすのひさき)(21?) 通称:蓮(レン)

本作では、飯嶋蓮乃(いいじまはすの)(23)と名乗り、記憶喪失なのか多重人格なのかを疑わせる、相変わらずの問題児的主人公。

物語の核である、「グラマトン、プラヴァシー、継承者、閉じた輪廻」に密接に関わる、左利きの男。

本作では遂に、その正体が見えてくる。

桜苗沙希(さなえさき)(16)

ちょっと天然な、お菓子系の美少女。

蓮に惹かれ恋人になるが、本作では再開した彼に戸惑うだけである。

しかし、「特異点、欠片」という、特別な秘密があり、蓮との出会いは偶然ではないのかもしれない……

輝月舞輪(きづきまり)(27)

物語の途中で姿を見せる、美人過ぎる音楽教師。

かつて蓮と出会った薄幸の女性。彼女との再会が物語を加速させ、蓮は前世の自分たちとプラヴァシーを受け入れる。

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