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文字数 2,161文字
……そう言われてみりゃ、そうかもな。落ち着いて考えたらこいつ中々駄目なことしか言ってない気もしてきた。
けど。
やっぱりまあ、別に良いやと思った。
こいつにもっと言うべきことはあるのかもしれないが、『今の文脈』はとにかく気に入らなかったから。
こいつを批判するとそういうことになるなら、もういっそ受け入れてやれと。
これまた、妙な言い方だ。
普通、地元が『勇者の故郷』となるのは大体歓迎されるものだ。
この地から勇者を出す、と決められたときから、旅立ったばかりの勇者が正しく成長出来るよう、国連軍による入念な環境整備が行われる。強敵となりうる魔物はあらかじめ討伐されるわけだ。
結果として、住民の安全が飛躍的に保証され、近隣の町との交易も抜群に安定する。その経済効果は凄まじく、魔王が復活する四年前には各国で凄まじい『勇者の故郷』誘致合戦が行われる──四年前なのは、勇者候補となり得る有望な青少年がどれほど居るか、が一番肝心だからだ。
……まあ、周辺にろくな敵が居なくなれば、武器屋の需要はそうなるわな。
「いや、分かってるんですよ。親父は能力試験で好成績叩き出した俺を褒めてくれたし、国だって俺を勇者にするってことの引き換えに補助金は出してくれてるんですよ。ただやっぱ……俺には隠そうとしてたけど、親父の背中がちょっと寂しそうなの……見ちゃって」
なんだろうな。オレのこの感想もズレてるのは自覚してるんだけどな。
なんというか、それはオレにはどう言えばいいのか分からない話だった。
つい、って感じで、自虐的に言われた、そんな言葉が無ければ。
微妙な反応だな。屁理屈だって気が付いてること誤魔化せてねえよコミュ障。
まあつまり、屁理屈の自覚がオレにもあるんだけどよ。
……つくづく、オレはなんで、初めて会話するこんなやつを、必死で理解してやろうとしてるのかね?
最初に、「死んできます」なんて淡々と言われた無機質な顔を見たときほど、致命的にどうしようもなく異質な奴なんだなとはもう、思ってねえんだけどよ。