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文字数 1,131文字

 銀行の親父の言葉に、侮蔑ともう一つ、意外、という意図が見えていたように、この回収屋という役目は本来、うらやましがられるようなものではない。
 地下迷宮もぐって死体を探して回収してくるなんて仕事、嫌だと思うのが普通だというのはまず当然として。
 加えて、規定により、報酬が勇者の所持金半分という不安定さ。新しい街で武器防具を買い揃えた直後に死なれたりなんてした日には、魔除けの霊水代で足が出る。
 いつ勇者が死ぬかなんて読めるわけがないから、出勤には常に備えておく必要がある。これもまた、まともに定職が在る人間には厳しい条件だ。
 そんな面倒くさい状況に置かれながら、儲かるという話はあまり聞かない──そう、親父が意外に思ったように、本来なら。
 ……これまでの伝承が正しいなら、そもそも勇者という存在が、そう滅多に死ぬものではない。神々に祝福され特別な恩恵を受けた存在──その最もたるものが、遺体がどんな状態になろうが生き返る、というやつだが──、そう滅多に全滅という憂き目に遭うものでもなく、大概が監視塔から送られる勇者最終確認時刻を眺めながら延々待ちぼうけすると、そういう役割に過ぎないと皆思っている。
 ……こんな役割はだから、それでもわずかに稼げる可能性に賭けざるを得ないような、まともな職業には中々つけないだろう奴に押し付けられるものなのだ。

 が。
 オレは、すでに。
 この町近くの遺跡で、勇者を四回、回収している。
 オレが最初に勇者を確認したその時、勇者は地下一階、四つ目の玄室で見つかった。──いうまでもなく、遺体で。
「……早くねえ?」
 思わずつぶやいたが、初めて挑むダンジョンならばこんなもんだろうか、と一度は思った。
 一度は、と言ったのは、直後、妙なことに気がついたからだ。
 ……何かの間違いかと思って、じっくり、慎重に辺りを見回す。
 勇者が死んだ後も魔物に荒らされた可能性は高いから、入念に、それなりの範囲を。
 だが、状況見分も併せて考えるに、結論は変わらなかった。
「……なんで、一人しかいねえんだ」
 勇者は。共に祝福を受ける仲間を、確か三人までは選べるはずだ。
 だがそこには、どう見ても一人分の死体しかなかった。勇者だけ残して、皮も骨も肉も武器も防具も所持品もきれいさっぱり魔物に処分された……と考えるのは流石に不自然だろう。

 じゃあなんだ? こいつ一人で旅してるのか? なんで?

 疑問には思ったが、もちろん死体に聞くことはできない。
 そして、縁があるなら死体としかないであろう相手に、そこまで首を突っ込む気にもなれなくて。
 四人分用意しておいた浮動棺桶、その一つだけに遺体を回収すると、オレは淡々と引き上げ、淡々と初任務をこなして忘れようとしたのだ。
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