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文字数 1,815文字

 何だろう。
 これ以上こいつに関わるべきじゃない、と、オレは気が付いてはいた。深入りすれば痛い目を見るだろう、と。
 なのに、話を続けたいという衝動もあった。
 衝動。衝動だ。まるで何かに抗いたいというような。
 それは、オレの中の警告を発する部分より奥より湧いている気がした。
「……お前さ。今までずっとこうやって、引き返すこと考えずに進んできたのか。死ねば、オレみたいな奴が回収しにくるとは分かってて」
「あ、ええと。その点についてはご迷惑おかけして大変申し訳なく。あの。せめてだから、あまり銀行に金預けないようにはしてたんですが」
「……謝れとかそういうんじゃ……! ……なくもねーけど。いや、それよりお前、金も含めて自分を犠牲にしすぎだろうが! 何でそんなやり方してんだよ!」
「いやあその。一人旅だと。そんなにお金は、使わないですし」
「気を付けながら帰ろうとしても、なんか結局、運悪いときは死んじゃうので。なら、一回の探索でなるべく情報集めて。なるべく事故に備えて再挑戦する方が、結局死ぬ回数は少ないかな、というのが今のところ一人旅を続けてみた感触でして」
「……加護のお陰で、あんまり痛くは、無いけど。死ぬの、平気ってわけじゃ、無いですよ。ただ、避けられなら、こっちのほうが少ないかな、って」
「…………」
「あ。なんかすいません。勇者なのになかん弱音っぽいこと言ってすいません。いや、後ろ向きな理由ばっかじゃないんですよ。わりと早く攻略したい理由もあってこうしてるっていうか」
「……別に、弱音とかそういうのは、いいんだけどよ」
 なんだろう。なんだか『そういうほう』が、どこかほっとする気持ちもあるしな。
「やっぱその。一人旅ってのが、そもそも無理あるんじゃねーのか。もっとこう、話し合えなかったのかよ。仲間と」
「まあ、その、俺。親父が職人でして」
「…………は?」
「頑固一徹、背中で語るタイプの親父に、男手一つで育てられたところがありまして」
「そんな親父に育てられた結果、俺もまたちょっと口下手といいますか。有り体にいいますとコミュ障なところがありまして」
「コミュ障」
「コミュ障」
「の割には、初対面のオレによく喋るみてえだが」
 いやまて。オレの場合これ、初「対面」なのかね。死体の顔ならもう四回見てるわけだが。
「あれホントだ。ついなんか。聞かれるままに喋ってましたが。……あ、れ、なんか失礼したか。またやらかした俺か」
「いや違うんです。いつもだったら、失礼がないように散々考えた挙句に聞かれたことに『はい』と『いいえ』だけで答えることにしてるくらいには余計なこと言わないようにしてるんです」
「……やっぱり、疲れてるのかな俺。加護のお陰で…よく分からないんですが」
「……まあ、こんだけ籠もりっきりで戦い続けてりゃ、肉体的にはともかく脳みそ死んできてるんじゃねーのか」
「うー……。あ、いやでも。あとほら、お兄さん優しそうだったから。つい」
「はあ!? オレが!? どこがだよ!」
「いや。なんか。今もわりと。心配してくれてる感じなのかなって」
「………………」
「……散々手間かけさせられたから、もうちょいなんとかならねえのか、言ってやりたかった、だけだ」
「へへへ」
 笑われた。くそ。
 まあそりゃ、我ながら今のは誤魔化せてなかったけどよ。
 ……っていうか。笑うんだな、こいつ。まあ、そりゃそうか。

 ああ、そうか。
 なんとなく、分かってきた。
「ああくそ、結局なんの話だったよ!」
「あー……だから、そんなこんなで、俺は前の仲間とは上手く行きませんでして」
 この世界の神は不完全だ。
 魔王が出てきちまったら、「死なない」に勇者に色々背負わせるような。

 そのシステムのせいで、こいつは色々歪んでて。
 こいつに関わることになって、オレも自分の歪さを自覚して。
「その、俺があんまりうまいこと言えないせいで、売り言葉に買い言葉的だったんですが、最後は結構キツいこと言われる感じになりまして」
 でもオレは、歪んでいるけど……まだ、壊れたくはないんだ。
 だからこいつにも、壊れててほしくは無かったんだ。
「新しい仲間集めることも考えたんですけど、またおんなじような事になるときっついなーと。こう、こういう事に一旦凹むと。中々こう……コミュ障なもんで」
 だからこう、さっきから、こいつに人間臭いところを感じると、ほっとするのか。
 ……それがたとえ、ネガティブな方であっても。
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