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文字数 1,671文字

 それからしばらくして、また、オレの担当区を出ることなく、勇者が消息を絶った。
 最後に確認されたのはやはり前に勇者が死んでいた遺跡。
 また入口直後で死んでないだろうな、と思ったら、今回は健闘したらしく地下二階、三階へと続く階段付近で死んでいた。……やっぱり一人で。
 かと思いきや三度目は地下二階の半ばほどで死んでいた。あー、戦闘の跡的にこれは、エレキキャットの麻痺攻撃で嵌まったか。だから一人で旅すんなっつーんだよこういうハマリに陥りやすいし抜け出しにくいだろうが。
 四度目。それでも、今度は割と、進んでいた。魔除けの霊水を買うときそう言えば、エムナの実の視神経毒が少し値上がりしていたなということを、魔物の死体の状況から思い出した。明らかに剣や魔法でやられた傷の他に、壁にぶつかったりした跡が壁にも魔物の死体にも見られる。動物系のモンスターが多いこの遺跡では確かにこの盲目毒は有効な場面が多いだろう。大丈夫なのか今周期の勇者は、と思っていたが、結構ちゃんと『攻略』してるんだな、と思うと、なんだか少し暖かい気持ちになった。

 そして……回収からそう日を置かずして、勇者が最後に確認されてから五回目の出動の時間となった。
 もうすっかりあきらめた心地で、オレは回収にかかる。
 正直、オレは短期間にそれなりの収入を得ることになってしまったわけで、そろそろ感謝しそうになる。たびたび、同じ奴の死んだ顔を見て、それを見て感謝するようになると、今最低限保っている人としての何かが終わりそうなので自重しているが。
 それにしても、前回から比べて今回はずいぶん進んだな、と思った。見かけた魔物の死体も、ずいぶん手際よく殺されているように思えた。一人で旅する上に、こうも短期間で死にまくってる勇者が何を考えているかさっぱり分からない──いや、敢えて分かりたくもない、分かろうとしてない、ってのが本音なんだろう、実際。なにせオレと勇者が会う時は相手は死体なんだから──が、それでもやっぱり世界を救う勇者様なんだろう、と思った。
 そう、死体。魔物の死体だ。効率のいい回収のコツは、魔物の死体を追う事。実のところ回収屋の出動が「勇者が失踪して三日」なのは、魔物の死体は六日ほどで完全に魔素に還元され消滅するから、そうなると追跡が困難になるからだ。
 ……オレはわざわざ迷宮のすべてを探索する必要はない。死体がある場所、その数、向いている方向などをよく見れば、勇者がどうこの迷宮を行きつ戻りつし、最終的に向かった先はどちらなのかという事が何となくわかるからだ。
 そう、魔物の死体もじっくり眺めることになる。それだけで自分がどんどん、まともな神経じゃなくなっていくのを感じる。
 オレが戦闘の経験を積む必要はないので、魔除けの霊水を使いながら、魔物の死体を辿って勇者を追う。
 地下四階……五階。今回、勇者が進んだ距離はずいぶんと長い。
(前に一番進んでた時は……三階だったよな?)
 六階までも辿り着いて、ふと気がつく。
 オレと違って勇者は、正しい道を探しながら、戦闘をしながら、この迷宮を進んでいるならば。……これほどまでに、進んだならば。

 回収屋が、勇者を探しに行く義務が生じるのは、勇者が三日、姿を確認されなくなってから。つまり、勇者の死をはっきり確認してから出動しているわけでは……ない。
 このまま行ったら、まさか、と気付いた、まさにその時だった。
「…………あ?」
 ──オレは初めて、生きているこいつと、遭遇、してしまった。
「あんたまさか……ぶっ続けでこの迷宮……進み続けてたのか」
 ……聞かずには、いられなかった。
「あー……もしかして。あれか。死んだと思って回収されに来た。……そっか、そんなに時間経ってたんだ」
 そして。
「えっと。なんかすいません。何ならあの。もう回復魔法一回分のMPくらいしかないんで。もってあと二、三戦で死ぬかなと思ってたんで、お待ちいただければ──」
馬鹿かてめえはーーー! そうなる前に引き返せよ!?
 叫ばずに、居られなかった。
(前編、終了)
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