第四回 聖セシリアの奇蹟

文字数 1,616文字

日本にはハラキリという風習があるそうですね
風習、というか、一部の階層で行われる文化、というか…はい、あるにはあります
一応言っておきますが、キリスト教の教義では自殺は禁止ですからね
ええ、存じております。忠興の奥方も信仰のために自決できず家臣に胸を突かせたと聞いています

 右近の友人細川忠興の妻、細川ガラシャはよく知られた戦国時代のキリシタンである。

 ガラシャは関ヶ原の合戦の折に西軍の人質になることを良しとせず、家老に胸を突かせ死を選んだ。ガラシャは右近と親交の深い宣教師オルガンティノにより手厚く葬られている。

いわゆる『介錯』というやつですね
一般的に切腹では即座に死に至らないため、長く苦しまないように首を斬り落とす介錯人が付きますね

 首を斬り落とすことは難しく、介錯人は剣の腕の立つ人が選ばれることが多い。頭部が地面に落ちて汚れないよう、首の皮を一枚残して抱き首の形とするのが達人の技とされた。

というわけで、これから右近さんの介錯をしてみたいと思います
なんでえ!?

 突然の死刑宣告に右近は肝を吐き出すように驚いた。ウルスラさんはぎらりとした光を放つ処刑斧を手にしている。

大丈夫です、信心があれば跳ね返ります
いや……
死ぬ人は信心が足りないのです
それは大和魂があればなんでもできる的な理論ですね!?

 右近は3メートルほどウルスラさんから距離を取った。

それはそうと、右近さんの時代には釜茹でで処刑された盗賊が居るとか
石川五右衛門ですね

 京の都を騒がせた盗賊の頭目 石川五右衛門は京都所司代 前田玄以(創作においては秀吉の寝所に忍び込み仙谷秀久に捕らえられるなど諸説うんぬん)に捕らえられ1594年に三条河原で処刑された。詳しい出自はわかっておらず、伊賀忍者の抜け忍であるとも、秀吉に滅ぼされた丹後国一色家の家臣筋であったとも言われている。

右近さん、信仰の力があれば熱湯風呂での処刑も跳ね返すことができるのですよ
……
 ウルスラさんの目の前にはぐつぐつと煮えたぎる釜が用意されていた。
(チラッ)
入りませんよ?
さて、前置きが長くなりましたが、今日お呼びしているのは聖セシリアさんです!

 聖セシリアは2~3世紀ごろの聖人である。

セシリアさんはキリスト教が禁じられていた時代にあって教えを棄てず処刑された殉教者です
キリスト教の信仰が禁止されているというところにシンパシーを感じますね
彼女は熱い風呂(蒸し風呂とも)で処刑されることになりましたが、風呂に入れられても涼しい顔で死ななかったそうです
江戸っ子みたいですね。それが彼女の奇蹟ですか

 安土桃山~江戸時代初期の人物である右近が江戸っ子の概念を知っているのはおかしいのだがその辺はスルーしていただきたい。

そして、次に斬首されることになりましたが、彼女の信仰心は処刑人の刀を三度跳ね返したそうです
大したワンダーウーマンだ
ただ、首に傷を受けてしまってな…苦しんだ挙句、三日後に帰天されました
かわいそうに…
ですから右近さんも信心があれば死にませんよ
そう言って死んだ人を私は戦場で何人も見ましたよ
後年1599年に彫刻家が彼女の墓を掘り起こしましたが、彼女の遺体は殉教した時のまま残っていたといい、彼はそのまま彼女を写した『聖セシリアの殉教』という彫像を作りました。どういう彫像かはぐぐってみてくださいね
服のしわが細かくて写実的な仏像を思わせますね。彫像でなくぜひ実物ともお会いしてみたいのですが、いらしているのですか?
呼んだはずなんですが、まだ来ていないですね
またおまわりさんに連行された系ですか?
ちゃんと顔を出してくれればアルバイト代も出すって言ったんですけどねぇ

 ウルスラさんはまた電話を取り出しておもむろに聖霊通信を始めた。

…………そう、今起きた…つまり寝坊したと
……
わかりました、もう来なくて良いですので

 おとめ殉教者セシリアは寝坊したことによりアルバイトをクビになった。

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登場人物紹介

戦国武将 高山彦五郎重友。通称 高山右近。(1553~1615)

2016年にその生涯が評価されバチカンに福者認定を受け列福したキリシタン大名。


神の奇蹟により現代に復活し、聖人になるため勉強する。

聖ウルスラ。


聖人を目指す高山右近に聖教育を施す教師の守護聖人。

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