第8話
文字数 517文字
「じ、自分でやる。幼稚園児じゃないんだから」
どもりながらそう言ってしまった声が、なんだか突拍子もない調子で響いて心底恥ずかしくなる。俺ってこんなキャラじゃないはずなのに、得意の愛想笑いのひとつも出てきやしない。琴美さんの指先がぴたりと止まって顔をあげて、ふわりと微笑んだ。食べたらまるで綿菓子みたいな味がしそうな笑顔から目を離せなくなる。
「ほっぺた真っ赤だよ」
そうして白くて細いあの指先で、俺の頬をちょんとひとつ突いてきた。それがまるでスイッチになったみたいに勢いよく立ち上がってしまう。
「洗面所にいって、自分で洗う!」
それだけ言って部屋から飛び出した。階段を駆け下りる。心臓が波打つように連打しているのは、二段飛びで降りたせいだけじゃない。
洗面所に入って手のひらを頬にあててみると、火照ったような熱がじんわりと伝わってきた。鏡に映った自分をまじまじと見つめる。どこか呆けたような、脱力した顔 をした俺が見返してきた。モヤモヤの原因。それがなんなのか多分わかってしまった。胸が少し痛くて苦しいのに、なぜか仄かに甘いこの感覚の正体に。
「……かっこわる」
思わずそう呟いて、鏡の中にいる俺を指でピン、とおもいきり弾いてやった。
おわり
どもりながらそう言ってしまった声が、なんだか突拍子もない調子で響いて心底恥ずかしくなる。俺ってこんなキャラじゃないはずなのに、得意の愛想笑いのひとつも出てきやしない。琴美さんの指先がぴたりと止まって顔をあげて、ふわりと微笑んだ。食べたらまるで綿菓子みたいな味がしそうな笑顔から目を離せなくなる。
「ほっぺた真っ赤だよ」
そうして白くて細いあの指先で、俺の頬をちょんとひとつ突いてきた。それがまるでスイッチになったみたいに勢いよく立ち上がってしまう。
「洗面所にいって、自分で洗う!」
それだけ言って部屋から飛び出した。階段を駆け下りる。心臓が波打つように連打しているのは、二段飛びで降りたせいだけじゃない。
洗面所に入って手のひらを頬にあててみると、火照ったような熱がじんわりと伝わってきた。鏡に映った自分をまじまじと見つめる。どこか呆けたような、脱力した
「……かっこわる」
思わずそう呟いて、鏡の中にいる俺を指でピン、とおもいきり弾いてやった。
おわり