第7話

文字数 512文字

 ネイルもなにもされていない、薄いピンク色の小さな爪。けなげに咲いた小さな花みたいだなんて、思いついた自分が恥ずかしい。

「シャツ、染みになっちゃうかも。はやく脱いで洗ってきたほうがいいね」

 そういって俺の胸あたりに目を近づけてシミをみているから、彼女は気づかない。丸首のセーターから切りそろえられた黒髪が下に流れて、無防備に晒されている白いうなじを俺が凝視していることに。思わずごくりと唾を飲み込んだ。今まで感じたことがないほど強い欲求が、一気にせり上がってくる。

 初雪が降った森みたいに、誰の足跡もついていない白いその場所。そこに歯をたてて一番最初に跡を残してやりたい。”興奮”よりもずしりと重くて切迫感のある欲求。それが俺のなかで疼くように熱をもって主張する。琴美さんが急にこちらを向いたから、驚いて妙な動きをしてしまった。

「シャツ脱いで」

「は?」

 声が裏返った。

「はやく洗わないとシミになっちゃうよ? 白だから目立っちゃう」

 琴美さんはあの細い指先で、俺のシャツのボタンを外し始めた。シャツを早く洗わなきゃいけないから脱がせている。頭ではそう理解しているのに、心はそう簡単に鎮まらない。変な緊張で唾を飲み込んでしまう。
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