第5話

文字数 609文字

「な、なんで?」

 動揺している琴美さんを見るのは楽しくて仕方ない。笑いが勝手にこみあげてくる。

「なんとなく。あ、やっぱりそうなの?」

 からかうようにツッコミをいれたけれど、琴美さんは口をへの字にしながら腕を組んでうーむと唸るのみ。その姿はどうみても恥じらいだとか恋とか、そういう空気とは対極にある気がしていたから油断していた。

「結論からいうと」

 暫く考えていた琴美さんがゆっくりと口を開いた。

「好きだと思う」

 あっさりと。なんの(てら)いも無くそう言い切った琴美さんを見つめる。彼女はいつもそうだ。理系脳なせいか結論は短く端的。わかっていたはずなのになぜかイラッとしてしまった。

「どのあたりが?」

 いつもより低く聞こえる自分の声。かっこ悪いのに止められない。琴美さんは俺をじっとみつめたまま、それでもパチパチと何度かまばたきをしたあと答えた。

「……話をしてて、面白いし」

 さきほどより小さな声。その感じで琴美さんも兄貴のことを、多少なりとも意識しているのを感じてしまった。もしかしたらもう、つきあっているのかもしれない。なんだか心の内側が紙やすりみたいにザラザラしてくる。

「面白い?  あのクソ真面目な真治が?」

 まるで琴美さんの気持ちを削ってやろうとするような口調。でも実際削っているのは俺の心かもしれない。

「貴大くん」

 こちらの目をじっと見ていう。いつも真っ直ぐに見てくるあの瞳で。

「お兄さんとちゃんと話したことある?」

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