第3話
文字数 628文字
「お前、どこほっつき歩いていたんだよ。先生が待っているぞ」
毎度のことではあるけれど。イカつい顔で愛想の欠片もない言い方をする兄貴にムッとしてしまう。だから急いで帰ってきたんだよと言おうとした時、後ろからひょこっと顔を出した人を見て動きを止めた。
「ああ! よかったあ。貴大 くん、やっと帰ってきた!」
俺をみて、安心したようにニコニコ笑う。
「……そりゃ、ちゃんと時間には帰ってきますよ。琴美 さんのカテキョ、忘れるわけないでしょ」
妙に存在感はあるくせに、彼女は華奢で小さい。ちょこんとついている、ボタンみたいな丸くてつぶらな瞳も小さい。さらにいまどき珍しい黒髪を、前髪をぱっつんと切ったボブカットにしているから、俺より年下にみえる。可愛いといえば可愛いけれど、色気は一ミリもない。これで年上っていうのだからおかしくなる。勝手に緩んでしまいそうな口元を引き締める。けれど琴美さんはそんな俺に構う様子もなくニッと笑うと、こちらの腕を掴んだ。
「さ、勉強始めるよ!」
「ええっ! ちょっと待って。今帰ってきたばっかりなのに。一息つかせて」
「ダメダメ。遅く帰ってきたのは貴大くんなんだから。ほら早く」
小さいくせに力は強い。ぐいぐいひっぱられて、慌てて脱いだ靴はひっくり返った。兄貴の苦笑する声が背中から追いかけてきて、またイラッとしそうになる。けれど俺の腕を掴んで二階にある部屋に向かってずんずん階段を登っていく琴美さんの背中を見ていたら、口元は勝手に緩んでしまった。
毎度のことではあるけれど。イカつい顔で愛想の欠片もない言い方をする兄貴にムッとしてしまう。だから急いで帰ってきたんだよと言おうとした時、後ろからひょこっと顔を出した人を見て動きを止めた。
「ああ! よかったあ。
俺をみて、安心したようにニコニコ笑う。
「……そりゃ、ちゃんと時間には帰ってきますよ。
妙に存在感はあるくせに、彼女は華奢で小さい。ちょこんとついている、ボタンみたいな丸くてつぶらな瞳も小さい。さらにいまどき珍しい黒髪を、前髪をぱっつんと切ったボブカットにしているから、俺より年下にみえる。可愛いといえば可愛いけれど、色気は一ミリもない。これで年上っていうのだからおかしくなる。勝手に緩んでしまいそうな口元を引き締める。けれど琴美さんはそんな俺に構う様子もなくニッと笑うと、こちらの腕を掴んだ。
「さ、勉強始めるよ!」
「ええっ! ちょっと待って。今帰ってきたばっかりなのに。一息つかせて」
「ダメダメ。遅く帰ってきたのは貴大くんなんだから。ほら早く」
小さいくせに力は強い。ぐいぐいひっぱられて、慌てて脱いだ靴はひっくり返った。兄貴の苦笑する声が背中から追いかけてきて、またイラッとしそうになる。けれど俺の腕を掴んで二階にある部屋に向かってずんずん階段を登っていく琴美さんの背中を見ていたら、口元は勝手に緩んでしまった。