第5話 森は、欲を貪る。

文字数 489文字

「黒鷹……」
ふむ。少しだけからかってやろうか。
潤んだ瞳で黒鷹を見る。勿論、上目遣いで。
侍女から聞いた話だと、男はこういうのが好きだとか。
……が、ここまで効くとは思ってもみなかった。
「おや?姫様。それは誘っていらっしゃるのですか?」
頬に触れていた手が顎に位置を変えた。
まずい……それはひじょーにまずいぞ、黒鷹。
「黒、鷹……やめ、ろ?」
相手を甘く見ていた私の失態である。
仮に黒鷹は男だ。
力は、私より断然上なのだ。
黒鷹が何に囚われているのか分からない限りは、私に何の害が及ぶかどうか定かではない。
故に、接吻(キス)は、まずい。
黒鷹。目を覚ませ、頼む。
あと少しのところで私のプライドが動く。
ゴスっと黒鷹の腹を膝で蹴る。
そして、奴は「ごふっ」と言う。
「黒鷹。少しの間黙ってろ……」
黒鷹の瞳がゆっくりと閉じた。
問題は、一体何なんだ?
花粉でもない。樹脂でもない。
香りがそうさせたのかすら分からない。
ふと目に入ったモノ。
「ふふっ……あぁ、そうゆうことか……面白いな」

木に垂れ下がる巨大な繭と。

森に充満する。

……否、

霧だ。
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