第4話 誘惑の霧

文字数 598文字

森の奥へ進むに連れ、暗さは増していくばかりであった。
二人は、いつの間にか黙っていた。
静かなのが不気味過ぎて、辺りに目も向けられない。
どうしたものか……。
「木々に何かぶら下がってますね。繭……でしょうか?」
黒鷹はさっきから様子がおかしい。
森の奥へ進むのを拒むどころか、好奇心を増し自ら進んでいるように見える。
おかしい。
何かがおかしい。
「黒鷹。お前、」
そう言った直後。最悪の事態が訪れた。
「ひ、め……様?」
黒鷹の瞳の色がない。
薄い紫に近い、暗い色になっていた。
「まずいな。黒鷹の意識が完全に飛んだ」
黒鷹は、表情の無い顔。
いや、欲にマミレタ顔でこっちにゆっくり近づいてくる。
何がそうさせたのか。
思い当たるものを浮かべる。
森の木々は、樹脂など出していない。
花からも花粉は出ていない。
ならば、なんなのか。

考えているうちに、背に何かがつく。
……木だ。行き止まりだ。
黒鷹には、私に対する殺意などは感じられない。
つまり、目的は。
「姫……貴女を、くだ、さい……」
……そういうことだ。
黒鷹の手が私の頬に触れる。
うん、よし。後でビンタ決定な?
「なんのつもりだ黒鷹……」
クスッと笑う黒鷹。
その笑みは、欲にマミレ狂っていた。
「まだ、分からないのですか……?フフッ……本当に、」

(にぶ)女性(ひと)だ……』

黒鷹は、確かに私の耳元でそう言った。
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