第7話 偽りの精霊

文字数 709文字

「精霊か……クスッ、面白い事言う()だねぇ…」
勿論、コイツが精霊じゃないことぐらい初めから承知だ。ただ、森に操り主が不在な限り、偽りであろうともコイツが精霊になるのだ。
これが

というもの。
「キミは人間かなァ?……それにしては、随分と容姿と話し面が一致していないようだけどぉ?」
そう言って私に近づこうとするコイツから

甘い香りが漂う。
迂闊に手を出せば危険と言うことだろう。
この匂いは、メスや獲物を捕らえるために使う特性。
……すなわち、敵を誘き寄せるための罠。
その性能を利用して、黒鷹を操る事さえ可能らしい。
誘き寄せた獲物は、繭に封じ込み己の栄養と化す。
「人間であり人間でないものだ。どちらにしろ、人を狩るインキュバスには、全くを持って無縁な話だろう……早くこの娘らを解放しろ。まだ、半分も生気を失っていないだろう?」
インキュバス。それがコイツの正体である。
「……ヤダね。キミは、俺の種族を把握済みらしいけど、何故、俺が今こうしてまで人を狩らなくてはならないのか知らないデショ?」
「……隣国の終戦」
ふと、私の口から出たのはその出来事だった。
その一瞬で先手を打たれる。
「っ……!!」
赤く光る瞳には狂気をも感じられた。
押し倒された勢いと共に首筋にカブリつかれる。
ジュルジュルと血を吸われているのが分かる。
このままでは、意識がとんでしまう。
「うっ……っぐ」
しかし――
「お前、ヨソモノだろ?この(あじ)は、一度だけ呑んだことがある。少なくとも、人間の持つ味じゃねぇよ。女神か?天使か?それとも……」

『預け神の女神か……?』

奴は、私の耳でそう囁いた。
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