第1話     【堅い約束】と【緩い友情】

文字数 2,203文字

__カスタルテ大帝国
民や旅人、商人達の声で賑わうこの場所、【ラルパド市場】は、ここ数ヶ月間で賑わいを増したらしい。というのも、何ヶ月前かに長年絶えなかった隣国【エマニエル天照国】との戦が無事終結し、互いに和平を取り戻した為である。何故、この数ヶ月間で長年絶えなかった戦に終止符を打つことが出来たのかはさて置き、外れた話を元に戻そう。
.......
「チッ……あの野郎またはグレやがった。ったくどこまで彼奴は方向音痴なんだよっ!!!」
齢で言えば、17ぐらいだろうか。
そう、花盛りの娘だ。
肌はそこそこ白く、唇もふっくらとしている。
髪の色は血筋のせいだろうか。淡いレモン色だった。瞳の色は藍色。
一言で言い表せば、《変わった容姿》である。
しかしながらよく見ると、意外と整った顔立ちをしているようにも見受けられるのだ。

そんな彼女は、ある者とはグレてしまい、苛立ちを隠せないでいた。
「もう、これで何回目だよ!!?」
そんな言葉も浮かばない。
それ程、腹が立っているのだろう。
(大体からして、なんで私がわざわざあんな奴連れ回して旅しなきゃなんねぇんだよ!!!)
「チッ……あの野郎、後で覚えておけよ」
見た目に似ず、とてつもなく言葉遣いが悪かった。が、本人の中ではこれが当たり前だと思っているのだ。幼少期の頃を思い出しても、ルールやマナー、言葉遣いなどを教えて貰った記憶がない。というよりも、両親とのマトモな記憶が彼女には何一つ無かったのだ。

「あっ!姫〜〜〜!!!」
彼女の方へ息を切らしながら走って来たのは、《あの野郎》だった。だがしかし、走って来た《あの野郎》に向けられた彼女の眼差しは、とてつもなく冷たかった。
「げっ……」
その反応でますます彼女の眼差しは冷たくなった。
「なぁにが『げっ』だよ……黒鷹、お前と一緒に旅をして良いと私は言ったな?」
「はい……言いましたが?」
「その時、私は言ったよな?」
「はい……?」
「何を言ったか覚えてるよな?」
「……無論、覚えています。
その一、王族扱いはしない。
その二、自由行動厳禁。
その三、あまり街道に足を踏み入れない。
でしたよね?」
「それを全て覚えているのにも関わらず、何故全て破るのかが私には分からない。これは、私に対する反抗と見なしても良いのか?黒鷹」
「姫、何か誤解をなされては?私が何故今まで市場の中を歩き回っていたかご存知ないでしょう?」
理由は、ただ一つ。
そう言って人差し指を彼女の目の前に出す。
「貴女が私から離れたので、何処にいるのかと探し回ってたんですよ?」
(…………)
「む……?」
今までの出来事を振り返ってみる。
まず、カスタルテ大帝国に着いてから、私は黒鷹を連れて宿探しをしていて……それから、風の噂で団子屋の近くに宿があるって聞いて……

あれ?それから、どうしたんだっけ、私。



『おぉぉぉぉおいー!!盗っ人だぁぁ!!!』
ん……美味いもん食ってる時に何事だよ。
黒鷹と別行動して、手っ取り早く宿探しをしようと思った私は、風の噂を素に宿探しをした。
随分前に来た時は、こんなに賑わってなかったから、宿はいつもの所にしようと思ってた。
けど、隣国と和解したらしく何処の宿も混雑状態。仕方なく、私はとある商人の話を素に宿探しをしていたんだ。
『少し遠いけど、国境付近の団子屋の近くに宿が三軒ぐらいあったがな……』
直接聞いた訳では無い。少しだけ耳に入ったんだよ。ちょうど腹も減ってたし、その団子屋に向かった。
__そして今に至る。
盗っ人を追いかけている男は、少なくとも若者ではないと見える。盗っ人を捕まえられるなんてことは不可能に近い。否、不可能だろう。けど、私だって休憩時間を邪魔されたかない。
そして、最悪なことに事態は悪化した。
「この娘を生かしたきゃ店もろとも渡すんだなァ?!いいか?5分くれてやる。その間に荷物まとめてでていきなぁ!!!」
おー!凄い迫力ー!んなこというかよバーカ。ただの迷惑だわ。
「なぁ、盗賊のおっさん。その子、離してやんなよ」
男は、一瞬私を睨み付け、それから狂ったように高笑いする。
「嬢ちゃんは、正義の味方かなんかかな?それで俺を討伐しようってんだ、な?そうだろ?」
「汚れんだよ、その子」
あァ?と、笑いを止める。
「何つった?聞こえねぇんだよなぁ?あひぁははは____」

怒りの我慢に限界が来る。
「その子が汚れるつってんだよ!!!!」
その一瞬でソイツの右腕が鮮血と共に飛ぶ。
そのの右腕がソイツの視界に入った途端、笑いではなく叫びが響き渡る。
どちゃっ。吐き気がするような音と異臭が漂った。
「アンタのせいで旅の服が台無しだ。おまけにこの護身用ダガーも。弁償して」

あぁ、でも。もう死んでたわ____
助けたつもりはなかったが、娘がお礼に替えの服と今晩の泊まり場所を与えてくれた。
まぁ、団子は残念だったけどね。結果的に良かったって訳さ。
「あー悪い。忘れてたわ、けどまぁ宿は見つかったし、文句は、ね?」
「はぁ。宿が見つかったなら良いですけど……」
「なら、早いうちに向かいましょう。もうすぐ日が沈むので」
苦笑は、ごまかしが効かないことを学んだ日であったとさ。
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