第4話 やっぱりセーラー服でしょう

文字数 2,079文字

 俺の部屋で慎平と荷造りをした。さっぱりとした部屋なので、あっという間に作業は終わりそうだ。本棚から昔もらったパンフレットを見つけたので、慎平に手渡した。

「ほら、これ魔術高校のパンフレット」
「サンキュー、さっそく読むわ」

 慎平はベッドに横になって冊子を読みはじめた。ふつうの高校の案内と見た目は特に変わらない。オールカラーで校舎や、学長の写真などが載っている。

 ―将来有望な魔術師を育てる、最高の環境です。
 ―全寮制であなたのお子さんも、安全に教育できます。

「魔術高校って他にもあるのか?」
「全国にあるらしいけど正確な数はわからない、資金がなくて数が減っているっていう噂もある」
「ふ~ん、っておい、女子セーラー服じゃん!」
「そこかよ…」

 慎平は「やっぱり青春はセーラー服だよな」とつぶやきながら冊子をパラパラめくる。すると、最後のページに小さく書いてある文字が目にとまった。

 ―協賛:道風商事

「うち金出してんのかよ」
「魔術師協会の老舗企業だからな」
「まったく知らなかった」
「知らないだけで、そういう企業は多いから安心しろ」
「魔術師の血が流れているなら仕方がないか」

 慎平は、そんな事実よりセーラー服の方が気になるようだった。制服のページを食い入るように見ていた。

「ゆゆまるのファンとかいたら嬉しいな」
「CDは配るなよ」
「転校してすぐは、おとなしくしておくよ」

 やらない、とは言わなかった。こいつはやるつもりだ。
 冊子には寮生活についても書いてあった。私立校ということもあってか、豪華な食事と部屋の写真が載っている。

「けっこう立派な建物だな、俺、寮生活とか初めて」
「俺も」
「はあ~楽しみになってきた」

 あっさり転校をうけいれる慎平。俺はいずれ家を出る日が来るのではないかと思い、事前に荷物の準備をしていた。魔術高校に行くことになるとは思わなかったが、慎平を一人で行かせるわけにもいかない。
 魔術高校は魔術師協会が運営する学校。俺にとって敵対する相手の懐に飛び込むようなものだった。それでも爺さんが行けというのだから、何か事情があるのだろう。

 準備がひと段落し、二人は一階の茶の間におりた。潤も爺さんも姿が見えず、一階は静まり返っていた。優貴はテレビの電源をリモコンでつけると、慎平にいう。

「先、風呂入っていいぞ」
「いつもありがとう、遠慮なく先いただくわ」

 そういってお泊りセットを持って、慎平は風呂場に向かった。
 俺は座布団の上に寝転がって、バラエティ番組をみていた。しかしちょうどいい場面でテレビの電源が切れた。

「なんだよ爺さん」
「お前の方こそ、わしに聞きたいことがあるじゃろ」

 爺さんがいう通り、聞きたいことは山ほどある。しかしタイミングは最悪だった。

「魔術師協会と関わるな、っていったのは爺さんだろ。急に真逆のこと言い出すとか、とうとうボケたのか」
「そんなわけあるかい、魔術学校に行かせるにはそれなりの理由がある。魔王が消えたことに、魔術師協会が関わっている可能性があるからじゃ」
「魔王が人間に捕らえられるって?それこそありえないだろ」
「これは信頼できる情報じゃ、魔術高校に行って、魔術師協会について探ってこい。」
「そんな無茶苦茶な、向こうが俺を嫌っているのに何を聞き出すんだよ」

 急な転校に、内心は苛立っていた。家の近くの私立高校に入学したのは、ほかならぬ爺さんに勧められたからだ。家の近くならアルバイトもしやすい、魔術師協会は腐っている、と何回も聞かされた。

「転校の話をもってきたのは、協会のほうからじゃ。どうしてもお前の力を借りたいと言うておる」
「そんなわけないだろ、あの上から目線の連中が、俺に頼むわけがない」
「わしらが思っているより、魔術師は窮地に立たされている。魔術高校に行けば少しはわかるじゃろ」
「そういう爺さんこそ魔術高校にいってみてきたのかよ」
「行けばわかるじゃろ」

 そういって爺さんは奥の部屋に消えていった。苛立ちながらも、またテレビの電源をつけた。バラエティ番組はニュース番組に変わっていた。短くため息をついて、リモコンをちゃぶ台の上に置いた。

 慎平が脱衣所のドアを開けて、茶の間に向かってくる音が聞こえた。

「お風呂先いただきました~」
「おう、冷蔵庫にアイスあるぞ」
「やった、じゃあ遠慮なく」

 慎平は冷凍室の中を、ご機嫌な様子で探った。

「食べ過ぎるなよ」
「さすがに一つしか食わねえよ」


 ◆◇◆


 眠る準備ができた俺たちは、2階の部屋で先ほどの話の続きをした。

「優貴ってなんで、アルバイトで魔術師やってるの」
「話すと長くなるんだけどさ、俺は魔術師協会としては死んだことになってるから」
「え、なんで」
「俺は魔王と契約した後、1年以上行方不明だった。その間に魔術師協会は俺のことを死んだとみなしたんだ」
「ひどいなぁ、優貴は魔王と契約して世界を守ったんだろ」
「それはあってるけど、あってないというか」
「どうせ明日は授業ないんだし、話せるなら話してくれよ」
「しょうもない話でよければ」

 俺は自分が魔王と契約するまでの話を、慎平に話すことにした。
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