09

文字数 1,634文字

あの日 あなたはぼくの手を握った


50人程を招待するパーティーを主催するので、手伝ってほしいとあなたからお願いされた。

ぼくは依頼された時間より、少し早めに着くよう家を出る。
パーティーは19:00スタート。
確か季節は秋だったと思う。
なぜならぼくは何を着ていこうか?と迷って
深い茶色のレザージャケットをはおった記憶があるから。

予定通り指定された時間より50分早くついて
ロビーでサンドイッチをカフェオレを注文し、
喉に流しこむ。
味なんかしない。
ただお腹が膨れるのと、今から消費するカロリーを補充するため、無理やり口に詰め込んで無理やり喉を通す。

約束の15分前、ぼくは会場に入る。
ぼくより早く設備スタッフはきていたようで
機材のセッティングはすんでおり、音響のテストで終了のようだ。
ぼくは と、ビールサーバーと少し固めのプラスチックのカップが置かれている場所の確認をする。
ガスのチェック、樽交換の確認をして終了。

あと1時間ほどでオープニングが迫る。
ぼくのまわりはあわただしい時間。
最終のリハーサルが行われる。ショー、ライト、音響、司会。
ぼくはまわりの忙しさを横目でみる。
何も手助けができないのが歯がゆい。

やっとあなたが現れる。
気になる箇所は自分でチェックしないとすまない性格で、全てをチェックすると開始時間に間に合わないと心配で半べそをかいている様子。
ぼくはすかさず「大丈夫 成功する」と声をかける。
せっかくのメイクが台無しにならないよう、
ぐっと涙が流れるのをこらえ止めてるのが横から伝わる。

そう、このパーティーは彼女のお披露目会。
僕たちがサポートで入り、
ぼくはサーバー係で、あるのはビールのみ。
ビールの取り扱いは大丈夫。居酒屋のバイトでやってたから問題はない。

あなたは受け付けから一通りチェックをしたいと言い出したため、ぼくはとりあえずフォローに入る。
時間がないとはいえ、初めてのパーティー。
華やかにつつがなく進めたい気持ちはぼくもわかる。
ぼくに携帯を預けると受け付けの女の子から指示をだし始めた。
とりあえず、あなたが放った言葉をなるべく理解して
担当スタッフに伝えてく。
意味なんて半分わかんなくてもいい。
雰囲気が伝われば充分。
それであなたが落ち着くのであればそれで充分。
一通り気になるところを伝え終わって満足したのだろう、時間をきかれる。
ぼくの時計は18:54を示していた。
あと6分、ぼくは持ち場に向かう。

「怖いのよ」と小さな声が聞こえた。
「大丈夫」ぼくは前を見ながら伝える。
歩くぼくの横にいる。
手が一瞬ふれたような気がして、
ぼくは一瞬ドキッとした。
ぼくは持ち場に入る
きみが隣にいる。

ぼくは数少ない顔見知りのスタッフに声をかけて
少しの間、サーバーの代理を頼んだ。
きみをステージまで連れていかないといけない。
ぼくたちは歩き始めた。
たった5メートルもないそこまでの道のりが長く感じる。
ぼくはドキドキしていた、
肩が触れる程近い。
こんな近くできみと並ぶのは初めてかもしれない。
ぼくからリードはできない。
今日はあなたがスターだし、
そのスターに手を出すなんてルール違反。

だけど手が触れるのは確実に現実。
何度か触れて、ぼくの指はキャッチされる。
指先が離れなくなる。
手が重なりあって、それから指先が絡み合う。
あなたの手は小さい。そして少しふっくらしていて柔らかい。
以前「自分の手はすきじゃない」って話を思い出した。
爪が短いからマニキュアが似合わないとか
ピアノの鍵盤のドからシまでしか届かない話とか
たった5メートルもない距離の
たった1,2秒でそんなたわいない会話が走馬灯のように鮮やかによみがえる
たった5メートルもない距離でぼくたちは今までの2人の気持ちが相当近かったことに気がつく。
しっかりと絡ませ、離さないよう強くつなぐ。
こんなシチュエーションでぼくたちは、ぼくたちの気持ちに気づくとは…
だけど言葉では確認できない。

今はぼくたちには根拠なく、ぼくたちの気持ちが相当近かったことだけが記憶に残る







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