第3話

文字数 397文字

 織先平(おりさきたいら)はその夜、なかなか眠りにつけなかった。
 日中の、海城大至(うみさきたいし)の言葉が渦を巻いていた。
 幸せとはなんだ?幸せとは……即答できる人間などいるのだろうか。
 お金はある方がいいとは、織先も思う。ただ、食べていけたら十分だ、という意識もどこかにある。
 小説で食べたい、という気持ちも無い訳ではないが、そこまで自分に才能があるとも思えない。
 そもそも、書きたい事など織先には何も無いのだ。ただ、頭の中で再生される物を、文字として出力しているに過ぎない。
 なので、他人が求める物など、売れる様な物など、元々書けないのだ。
 書けるのは、織先の脳内に投影される、何とも気持ちの悪い、不快な世界だけである。
 とは言え、人並みには幸せでありたいし、人並みに雨風を凌ぎ、人並みに注目もされたい。
 だから織先は悩むのだ。
 幸せとは……幸せとは……
「普通でありたい」
 枕に顔を押し付け呟くと、少し気持ちが楽になった。
 
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