第6話

文字数 890文字

 唐突に、鳥居が現れた。まるで闇から生えてきた様に織先には感じられた。長年、手入れをされてないのだろう、朱色であった筈の表面は朽ち、木の地肌が顔を出していた。
 朽ちかけた鳥居は、なんとも寒々しい気分にさせられる。
 海城は意に介さず、淡々と進んで行く。織先には、後を追う以外の選択肢は与えられなかった。
 小さな神社に突き当たった。その神社をぐるりと迂回する様に、道は左手に続いている。誰が供えたのか、蠟燭が数本、ちらちらと揺らめいていた。右手を見ると、何故かどこかしら欠損した地蔵が、道を挟む様に並べられていた。
「……大明神?」
 色褪せた布に染め抜かれた、神社の名称を思わず織先は呟く。
「お詣りしていくか?」
 いやいいよ──と、織先が答えると、海城は何も云わずに左手の道を進みだした。
 暫く無言で歩いて行くと、左手に何かの作業所らしきプレハブ小屋が目に入った。道に面した磨りガラス越しに、薄っすらと明かりが見える。
 海城は磨りガラスの窓に背を向けるように、道を挟んだ対面に向かって屈んだ。
 ──そこには、小さな小屋があった。
 せいぜい五十センチ四方の、まるで小人の住む小屋の様な稚拙な、云うなればそれは、匣だった。
 ご丁寧に小さく造られた扉には、不似合いな南京錠が付けられている。海城はガチャガチャと鍵を差し込み、南京錠を外している。
 織先の背中に悪寒が走った。
 咄嗟に振り返ると、プレハブ小屋の磨りガラス越しに──人の影があった。
 その影はこちらを凝視しているようで、身動き一つしない。人形のようにただ突っ立ているだけの影が、恐ろしくてたまらなかった。
「気にするな、話は通してある」
 振り向かずにそう云い放つ海城が、まるで化け物のように思えた。
 ──ここは、知らない世界だ。ここは、異界だ。
 織先の視界から色が消える──苦しい……
 口を覆うマスクに強く手を当て、鼻呼吸を意識する。
「アレは守り人だ。異人がこれを手に入れない様に、見守っているんだよ」
 赤黒く錆びついたペンチが、海城の右手に握られていた。
 織先が後ろを振り向くと、磨りガラスは元のまま、白く濁っているばかりだった。
 
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