第4話

文字数 599文字

 居酒屋での祝杯から一週間ばかり、うじうじと悩んだ結果、織先平(おりさきたいら)海城大至(うみしろたいし)に連絡を取った。
 忙しいであろう海城に気を使いメールにしたのだが、海城は直ぐに電話を掛けてきた。
「……なあ、本当に対価を払うのか?」
 電話の向こうから聞こえる旧友の声には、どこか後悔の念が感じられる。
「お前だって、あんなに熱弁してたじゃないか。僕だってさ……」
 ──幸せが欲しいよ、と織先は自分のつま先を見つめながら、云った。幸せ……幸せ……消え入るようなその叫びは、織先の全身に響き、得体の知れない身震いすら覚えた。
「俺はよタイラ。お前の幸せを、誰よりも願ってるんだよ。なんなら、俺がお前の対価を払ってやってもいいくらいだ。今の俺には、それくらいの力はあるんだよ」
 海城の言葉は、ずしりと織先を捉える。思わず携帯電話を投げ捨てたくなった。
 ──お前の言葉は重たいんだよ……昔からずっと。
 内面から溢れ出る憤怒を抑える。苦しい、苦しい。
「それでは……意味が……ないよ。僕が対価を払わないと……後悔する」
 切れ切れに言葉を発する織先の言葉を、海城は沈黙で返した。
「……一週間後に時間をくれ。連絡する」
 海城は絞り出す様にそう云って、通話を切った。
 恐ろしいまでの自己厭悪が織先を襲った。心拍数が跳ね上がる。息が荒くなる。視野が狭い、世界から色が消える……
 苦しい。苦しい。苦しい……だが、何故か織先の顔は、その時微笑んでいた。
 
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