柚子スカッシュ

文字数 1,474文字

お気に入りのいつものカフェで、柚子スカッシュを飲んでいた。夏の日差しが強くて、テラス席には、暑くて眩しくて座れない。白色を基調としたカフェの室内の席に、私は座っている。しかし、窓はオープンになっているので、外から吹いてくる初夏の風を感じながら、ぽぉーっと時間が溶けていくのを感じていた。

そこに一人の男がやってきて、私の目の前の席に躊躇なく、自然に座る。


「何飲んでるんですか?」


明るげな 角のない口調で、話してきた。
アプローチをかけてきた。


私は、なんで、答えなきゃいけないの、、?自己紹介もなく、突然。。。少し戸惑った。不愉快な思いをする人もいるかもしれないが、私は来る者拒まず精神で今まで、生きてきているため、そつなく対応しようと思った。

簡単に柚スカッシュを飲んでいることを言いたくなくて、


「ナンパですか?」と半分笑いながら私は言った。



「いやいや、ちがう」男は言う。


髪はポマードでセットして、派手めな色のストライプのネルシャツに黒色パンツ。


キザなよく喋る男だ。



「私は、レモンスカッシュを飲んでるのよ。」



私は時間に余裕があったし、
男の話を聞くことにした。
男の口調が、女っぽいというか中性的で、オカマ口調にも聞こえるが、字におこすと、確かにその男が喋っている『のよ』の言い方で、彼は私をまくしたてる。その口調が気になって、レモンスカッシュかジンジャーエールか何を飲んでるかなんて、どうでもよかった



「柚スカッシュですよ」

私はとりあえず答えてあげた。
向こうがレモンスカッシュを飲んでいると言ってきたので、対応してあげた。


すると男は

2つのグラスを並べて


「ほら、こうやってみると、どっちが柚スカッシュなのかどっちがレモンスカッシュなのか分からないと思わない?同じ黄色系統の色して、炭酸が入ってる。」


「まぁね。そうですね」


「飲んでみて、味わってみないと、わからないのよ。」


「人も同じ。中身なんて、性格や話してみないとわからないのよ。見た目だけでは判断できないのよ」


(女口調が気になって、つい会話を続けてしまう)



「例えば、結婚していて、結婚相手以外の人と不貞行為をしたとしたら、それは裁判に掛けられたら、罪となる」


「うん」


「でも、心を味わっても法では裁かれない」


「そうね。」


「心を味わったかどうかなんて、目に見えないから」


「うん」


「例えば、お互いが両思いで、お互いの心を味わい尽くしながら、毎日を送っていたとしても、法では裁かれないのよ」



「心同士を結ぶ作業って、安易に肉体関係を持つより、ずっと繋がりの深い、細やかで、崇高な話なのよ。そして 気持ちよさもそこには伴うの。目に見えないから余計に、花に水をやるように少しずつ絶えまなく、注ぐのよ。愛情を。」




(変なこと話す人だなぁ。でもなんか内容が腑に落ちる)



「ほら、氷が溶けて薄まって美味しくなくなっちゃうよ。早く美味しいうちに飲み干さないと。味わわないと。人生は意外とあっという間なのよ」


私はひと口 柚子スカッシュを飲んだ。

男もレモンスカッシュを飲んだ。


「私時々、またここに来るのよ」


「今度、ここのパテドカンパーニュとテリーヌの違いを、食べ比べしない?」



初めは、急に話しかけてきて、変な人と思ってたが、丁寧で 個性的で なぜか心が暖かくなるようなこの男のアプローチに 興味が湧いてきた私は


「居酒屋横丁の 唐揚げ。知ってます?
胸肉ともも肉の2種類があって、食べたことあります?」

と聞いてみた。


男は 「ない。知りたい。私、唐揚げには目がないのよ。」 と言った。





[完]








この物語を南保雄一兵衛さんに捧げます。
感謝と愛をこめて
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み