序 導入

文字数 511文字

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汝逃れ得ざる支配をなし
しかもわれらに逃れよと言えり
故に汝の命令と禁令との間に罪あり
杯を覆して酒を漏らすなと言うに等し

『ルバイヤート』より

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 教皇暦447年菖蒲の月、輓近王都で流行する謎の奇病に対して、時の皇帝は厳戒宣言を渙発。凌霄花の月、都にて疫病は猖獗を極める。関門による区画の封鎖、防疫線の布置などが講じられたが、すべての施策は遅きに失した。同年秋の始め、教皇直轄機関である星室庁は独自に編制した若干名の調査隊を各地方へと派遣。疫病が最も早く知られた地とされる北東山間部への聞き取り調査によって、病の発祥となった村の名を同定。同報告書の記述を仮りれば、該村には「悲観的でない程の生存者がある」という。


 とある詩人はいった。『神は後の世の人間が悲劇の題材とするために不幸をおつくりになる』と。聖女信仰の根強いこの世界で、民衆たちから救済の聖女と崇められ、教皇庁からその異端を断罪された禁断の魔女オリヴィア――彼女の凄絶な前半生を知る者は寡ない。これより紡がれるは、魔女が引き起こした悲劇か、あるいは……。



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